環境計画学専攻
奥貫隆
環境計画学専攻長
1 社会の要請に応えるために
平成16年度の環境計画学専攻学生在籍数は、博士前期課程42名(環境意匠コース29名、地域環境経営コース13名)、博士後期課程7名(環境意匠研究部門1名、地域環境経営研究部門6名)である。また、平成16年度の入学者数は、環境計画学専攻博士前期課程13名、後期課程3名であった。在籍者、入学者数の推移をみると漸減傾向にある。このことは、大学間の競争の激化や少子化の影響を考えると看過できない事態である。
本学に大学院研究科が開設されて5年が経過した。この間、教育ニーズに係る社会の変化は私たちが考えている以上に速いスピードで進行しているように見える。文部科学省大学設置・学校法人審議会分科会(環境)の審査(平成12年〜14年)に係わった折りに実感したことだが、「環境」関連の学部、大学院の新設や改変に係る申請件数が極めて多かった。つまり、日本で初めて環境科学部を立ち上げた本学の優位性が実績として社会に十分定着するまもなく、競合すると考えられる学部及び研究科をもつ高等教育機関が一気に増加したということだ。
平成16年度末時点で、新設予定を含めると環境と名の付く学部、学科を擁する国公立大学・短期大学は69大学におよぶ。そのうち10大学は、都市環境学部、生命環境学部、環境共生学部など学部名に環境がうたわれている。さらに私学を加えて考える必要がある。
優秀な人材を集め、教育、研究、就職の実績を社会に示すことは、大学の将来を左右する重要マターである。今や、うたい文句で「自然環境とバランスのとれた人間社会の提案とその持続的発展を目指して教育研究を推進する」などと募集要項に示しても、ほとんど注目を集めないであろう。日々の教育、研究活動の中で環境科学研究科及び環境計画学専攻に対する社会の要請と評価を意識し、具体的成果を学内外に示していくことが求められている。
2 現代的教育ニーズへの取り組み
文部科学省は、平成16年6月30日、社会的要請の強い課題に対応した取組みを促進するために、大学教育を支援する事業として「現代的教育ニーズ取組支援プログラム」(略称現代GP)を新たに創設した。
文部科学省が示した課題は、(1)地域活性化への貢献、(2)知的財産関連教育の推進、(3)仕事で英語が使える日本人の育成、(4)他大学との統合・連携による教育機能の強化、(5)人材交流による産学連携教育、(6)ITを活用した実践的遠隔教育(e-Learning)の6つである。
本学は、環境科学研究科、人間文化学研究科、各学部を含む全学取り組みとして?地域活性化への貢献を申請テーマとして選び、演習、フィールドワーク等のカリキュラムの充実及び学生グループの自主研究活動支援をとおして地域活性化へ寄与するプログラムを提案し、採択された。助成額は、初年度1500万円/年、助成見込総額は3カ年合計で4500万円である。
申請したプログラムの名称は、“スチューデント ファーム「近江楽座」/まち・むら・くらしふれあい工舎”。「スチューデント ファーム」は、学生の自主性、主体性を尊重する教育プログラムであり、育成された人材が社会に巣立つ拠点となることを示す。「近江楽座」は、琵琶湖を中心に形成された近江の自然、歴史、文化をめぐりながら、調査、活動テーマを発見し、地域との協働、連携の中で根付かせていくことをあらわす。サブタイトルの「まち・むら・くらしふれあい工舎」は、城下町、町人町、宿場町、農村集落、田園などキャンパス周辺に多様な調査活動対象が存在する本学の立地特性を生かし、地域課題を把握した上でプロジェクト化することをあらわしている。
平成16年9月、現代GPプロジェクトの学内公募を行い、24の地域への取り組みを選定した。選定されたプロジェクトの中で、環境計画学専攻の学生が係わる調査研究活動は、Nio Project(内湖に調和した環境提案)/趙聖民、ちーむ はっけい(社会資本としての集住体プロジェクト)/笠嶋彩子など4プロジェクトがある。学部中心の取り組みを加えると合計11プロジェクトとなる。
3 修士研究の動向
平成16年度環境計画学専攻から提出された修士研究論文は、全部で18論文(環境社会計画コース4、環境意匠コース14)である。研究内容を示すキーワードとして、バイオジーゼル、里山保全、地場野菜振興、地域資源、団地再生、郊外ロードサイドショップ、循環可能な社会、エコビレッジ、地震被害想定などが目にとまる。このほかに、建築家論、道具論、身体表現論、緑化論など多彩である。環境経済、資源、地域計画、建築、ランドスケープ、防災など、環境計画学専攻の研究領域の広さを改めて再認識するとともに、これだけの研究領域を23名の教員スタッフでカバーすることの難しさを痛感する。本研究科では、コミティー制を取り入れ、教員の連携のもとに共同で指導する体制をとっているが、教育、研究の実際面でそれがうまく機能しているかについては、検証する必要がある。
平成18年度に向けて、大学法人化への準備が進められているが、形式的な論議ではなく、研究科間の連携、特色ある教育方法、社会貢献のあり方などについて審議し、滋賀県立大学としての独自性をどのように発揮していくかを中心に、変革の方向性が導き出されることを願う。