環境・建築デザイン
濱田五郎
環境計画学科
環境・デザイン専攻
"キャンパスは琵琶湖、テキストは人間"という本学のキャチフレーズはなかなかのものであると思う。人づくりの大学ではなく、人が育つ大学であるという理念に共感する。カリキュラムも他大学と比較して特色のある内容と編成である。専攻の専門科目を担当する立場からみて大いに期待されるものである。特に、専門以外の領域にふれて、幅広く人間・社会・文化を深く見つめ、専門性を生かす感性を磨くという人間学を4年間いつでも履修できるということと、1年次から専門科目の講義を受講できるということである。また、野外でのフィールドワークや実験、実習と少人数の対話・討論を重視している点である。
環境科学部における教育理念と目的は、まず環境問題について総合的視野と問題解決の専門的知識・技術を備えた人材を育成するということである。琵琶湖の環境汚染、酸性雨、地球の温暖化など、地域の環境問題から地球規模の環境の変化が人間の生存に大きな影響を及ぼすようになった。地球上での生物圏と自然環境との調和が、人間活動の活発化によって崩れて種々の環境変化が起きているので、人間の持続的生存を可能にする環境と人間の調和がとれた社会を創造することが強く求められている。そのためには、環境問題を総合的視野でとらえ、問題解決に必要な高度の専門知識・技術を備えた人材が不可欠である。
環境科学部では「環境生態学科」人間と調和した自然環境の特性――自然環境の安定と維持のメカニズム、人間活動に原因する環境変化の過程、自然環境保全の生態学的方策を教育・研究し、自然環境の保全をはかれる人材を育成する。「環境計画学科」環境調和型社会の創造に必要である環境計画手法や合意形成手法を経済、法律、政策を中心にして学ぶ環境社会計画専攻と、建築技術や地域計画、景観計画などを中心に学ぶ環境・建築デザイン専攻の専門教育により、自然環境と調和した社会経済システム、都市システムを計画、創造できる人材を育成する。「生物資源管理学科」環境保全と調和した生物生産技術、生物資源循環システムの開発と管理手法について教育・研究し持続的農業の確立に必要な人材を育成する。これら3学科、2専攻の有機的連携のもとに環境問題解決を総合的に教育するという学部である。顕著な特色として、3学科の学生全員を対象として学部全教員が担当する環境フィールドワークが重視されている。琵琶湖周辺地域の環境問題をテーマとして、総合的把握、解析、解決策のたて方などを地域の自然環境や歴史、文化、景観をテキストにし、実地教育する必修科目である。
環境計画学科は、自然と調和した社会システムと建築・都市をデザインできる総合的な計画能力を備えた人材を養成することを目的としている。複雑な社会・経済システムによって生じる多くの環境問題が現れている。それを法律・経済・政策住民意識・社会教育などを見直し、自然と人間社会とのバランスのとれたマネジメントや環境教育と啓発に積極的に取り組むことができる人材を養成する「環境社会計画専攻」と地域計画、景観計画としての環境創造にかかわるバランスのとれた建築を担う職能人を養成する「環境・建築デザイン専攻」があり、ここでは基礎科目で建築職能論を重視し、専門家としての倫理や環境設計論、環境建築美学など環境の空間的な秩序形成を養う。また、住宅、公共施設、都市・地域、景観、大規模建築の設計演習を中心に、関連する建築計画、意匠、構造などの建築系の科目や都市・農村計画などの都市計画・地域計画の科目、さらに、動植物などとの共存をめざす造園などの専門科目を設けて、自然・歴史・文化環境と人間活動が調和した環境デザインの創造技法を教育・研究するというカリキュラムが編成されている。
全学共通科目である人間学や学部共通基礎科目の環境フィールドワーク?〜?、また、学科共通基礎科目の開設など、専門領域以外に、また、専門に関連する幅広い分野に視野を広めて学習できる本学と学部、学科、専攻の教育・研究環境は素晴らしく、望ましいものであると思う。
近年のように種々の環境問題が個人レベルから社会、国家、世界のレベルに、さらに地球あるいは宇宙を対象として論じられる以前には、建築は単体を対象として教育・研究されていた時代があった。"建築は雑学である"ともいわれたように現在のように建築学として学問的に体系化されてはいなかったけれど、建築は社会的条件、立地条件、建築条件などと現在の環境概念からみれば狭義の環境との関連性を配慮して総合的にデザインされていたと考えられる。建築を総体的に、あるいは、有機的にとらえようとしていたことは確かである。建築にかかわる分野と諸要因の関係は、現在さらに広がり複雑な様相を呈しており、建築の計画手法、設計手法は学術的に進展しているが環境・建築・デザインの関連は基本的には従前と現在とでは変わっていないと思われる。しかし、環境問題については状況は著しく変化している。
地球資源の有限性がローマで宣言されて以来、経済社会の変革が世界的にはじまり、環境問題が強く意識されてきた。一方高齢化社会の急速な到来が諸問題をあらわしている。それらの社会的、環境問題に対応するように、近年人にやさしい、環境にやさしい、地球にやさしい……といわれることが目立つ時代になっている。ここで環境・建築デザイン専攻における教育・研究をどのように展開すればよいかを考えなければならないが、それには環境をどう定義するか、その理解がまず必要であろう。
環境については、まず自然とのかかわりが連想され、環境問題は自然環境と人間生活との枠組みの見直しであり、全地球的規模の問題であるといわれる。人間はなぜ自然を求めるかというテーマについて、文化人類学や生態学・人類学、比較惑星学、地球科学、生命誌、哲学といった分野からの論述があるが、それぞれの分野における研究の先端をいく成果を踏まえての多様な観察と考え方を大いに参考にして、専攻における教育・研究に活用したいと思う。
人間が自然を求めるのは、自然の中の存在として原体験と記憶に支えられている自然児として生きられる場を求めるということが大切であるから文化の再発見を過疎の町の廃校で自然生活体験を試みる。人間はなぜ緑を見るとホッとするのかという問いから、人間がサルから進化してきたからであると、明快に答える。サルからの進化したことのうちに「内なる自然」の形成された由縁がみえる。自然環境を宇宙のスケールで、宇宙・地球生命史・人間という関連で分化論を展開して、地球が太陽系の中でも極めて多様性をおびていること、そこに生命圏、さらに人間圏が生まれたこと人類の未来は地球システムの物質循環やエネルギーの流れの中で、人間圏が安定して存在できるようなサイズを設定して、人間がその中でどう生きていくかという人間圏の内部システムをどう構築していくかにかかっているという提示。また、宇宙・自然が共振することを歴史的に具体的人物の言葉をあげて、さまざまな視角を示し、自然とリズムは大いに関係があることからリズムとコミュニケーションの関係に及び、宇宙が共振することに関する事例を示し、天球の音楽としてカシオペア星座のパルサー星や水星、金星、火星、木星、土星そして地球が発する音を聞かされ、自然の不思議さに感嘆させられるのである。