環境生態学科

−創生期を経て新たなる変動時代を迎えて−

伏見碩二

環境生態学科長

滋賀県立大学開学以来の10年は,地元の犬上川の環境保全10年でもある.県立大学の北側を流れる犬上川では洪水対策の河川改修がほぼ10年前から行われており,「河川環境の保全」のために,いかにしてその影響をできるだけ少なくするのかは,環境生態学科にとっても重要な課題の1つになっている.

犬上川の河川改修現場には「人と自然の共生をめざして」という看板が立っている.しかし,タブ林からみれば“人は助けてくれてはいないばかりか,人から痛めつけられてばかりいる”ので,「共生」とはいえない.心配なのは,人為的影響が大きすぎるために,タブ林自身がその維持にとって必要な持続的な土地条件をはたして形成できるのであろうか,ということである.自然環境を痛めつけてきたわれわれにできるのは,自然をできるだけ残して,人間活動と自然とがせめて「共存」していくことなのであるまいか.

今年度は,そのタブ林が完全に「中の島」化し,河川改修工事がさらに上流へと拡大している.大きく変動する自然環境との共存をはかる智恵がますます重要だ.その意味において,われわれ環境生態学科によせられる期待はますます大きくなる,のではなかろうか.2004年10月の台風23号時に,「中の島」化したタブ林と大学のとの間のバイパス水路を増水した河川水がはじめて流れたのを見ると,犬上川の新しい時代の到来が実感できる.

犬上川同様に環境生態学科も新たな変動の時代を迎えようとしている.創生期の10年を経過し,今年度は安野正之・荻野和彦両教授が退職されるとともに,上野健一講師が筑波大学助教授として赴任するなどの新たな人事が行われている.このような人事面の大きな変化は環境科学部の他学科も同様で,環境生態学科も創生期をへて,現在進んでいる大学の法人化と関連しながら新たに変動時代を迎えている.

そもそも,環境生態学科の人事の基本的な考え方は「定数主義」であった.しかし,大学事務当局もふくめての議論の中で,環境科学部の他学科が「実数主義」を取っている以上,事務当局としては,現行の「実数主義」にくわえて環境生態学科の「定数主義」の2つ考え方にもとづいた人事案件を県人事当局に持ち上げることは説明上むずかしいということが判明したので,環境生態学科の基本的な考え方を改め,他学科と同様な「実数主義」を取ることになったのである.ただし,法人化すると,現行の実数主義は認められないだろうとの見通しを上記の議論の中で大学事務当局が述べていたことは理解できないことでもないので,今後の学部・学科の人事に関しては厳しい時代となることが予想される.法人化までにわれわれの基本的対応を検討しておくことが必要であろう.

大きく変動する学部・学科環境と同様に,地球規模の温暖化が予測される現在は,メキシコ湾のハリケーンやインド洋のサイクロンと同様に,太平洋の台風も巨大化し,日本列島への上陸数が増えるとあっては,私たちとしても地球環境変動との共存のあり方も考えざるをえない.今年こそ,昨年を象徴する内憂外患の「天地騒々」や「台風常陸」などの「災」を転じて「福」となすことができるのであろうか.