教育・研究を顧みて

矢部勝彦

生物資源管理学科

生物資源循環大講座

[教員としての考え方]

 大学の役割は一体どこにあるのか。常日頃考えていることであるが、多くの教員とのズレを感じている。個人的な考え方であるが、学生に対する教育は日ごろの研究に基づいた研究姿勢や研究成果を通じての教育であろう。また、大学人としての役割としては地域に貢献することは当然であるが、ある問題に対してその解決方法を考えて対処できる能力を身につけた優れた学生を社会に送り出す貢献もあろう。さらに、広く視野を広げて社会、日本あるいは世界に向けた貢献もあると考えている。したがって、研究をしないで教育だけを重視したり、研究だけを重視したりする偏った行動には賛成できない。また、教育の現場で学生に迎合した講義や研究指導には疑問を感じている。

[研究室の教育・研究の現況]

研究面では、学内にて耐塩性植物の挿し木による次年度の研究のための研究材料の育成がある。大学院生および学部学生の研究課題は、農地開発や農林地復元のための造成地における緑肥作物の導入による土壌改善効果に関する研究、半乾燥地や多雨地帯の傾斜地における土壌面侵食防止や植生育成のための水資源確保に関する研究、半乾燥地・乾燥地および湿潤地帯に対する食糧確保のための安価でしかも単純な装置・操作による塩類集積防止が可能な自動水管理システム(正反対の給水圧力利用の水管理システム)の開発に関する研究、土壌物理学的・土壌化学的・水質化学的・生態学的観点からの不耕起および耕起稲作栽培が環境保全に果たす効果に関する研究である。これらの研究課題に対して研究指導を行った。しかしながら、野外および室内実験を主体にした研究のみであるので、十分に指導が行き渡らない面もあると反省をしている。しかし、専攻してくる学生がそれを理解してカバーしてくれていた。その結果、現在までに多くの有用な研究成果が得られている。この結果の一部は前期過程の院生により発表されたが、今後、口頭発表はもとより社会に認められる研究論文として順次公表されるであろう。これに対して、教育面では相変わらず、学部学生への講義4科目、実験実習3科目を担当し、大学院前期課程の院生への講義を2科目担当しており、毎年一部は内容変更し、そのため忙しい毎日となっている。しかし、これを理由に手を緩めてはだめだという姿勢でいる。

[対外的活動]

 共同研究で、(株)たねやとの不耕起稲作における土壌環境改善および環境保全効果に関する研究を実施し、耕起稲作と不耕起稲作についてこれまで指摘されてきたことに若干の誤りがあること、耕起稲作と不耕起稲作の持つ特徴を実態に即した形で整理することができた。鳥取大学乾燥地研究センターとの持続可能な植生地基盤の創出に関する基礎的研究と言う課題で研究を進め、植生地基盤は植生を導入する前の土壌環境作りが最も重要であることなどを明らかにすることができた。さらに、日本生命財団研究助成金による研究「半乾燥・乾燥地における耐塩性植物の生態学特性と土壌改善の可能性」をまとめることができた。この研究成果は学会で2回に分けて発表を終えている。この結果、耐塩性植物の耐塩性のメカニズムや耐塩性植物利用による土壌中の塩分量減少対策の目処を得ることができた。

[地域活動]

 安全な食糧確保はここ数年重要な課題となり、特にこの頃はBSE問題や鳥インフルエンザの発生など食の安全性が増してきている。したがって、自給自足が40%前後のわが日本では益々自給自足が国内の緊急を要する重要課題となってきた。安全な食料を確保するためには他地域に依存するのではなく地産地消が重要な課題である。これを解決するには減反政策による転換畑あるいは休耕地を如何に利用するか、そのための生産基盤を如何に整備するかなどが重要である。このような課題対応の一例として「環境と調和した棚田の保全・整備と特産物確保」、「将来を先取りする農業農村振興のあり方」、「老朽化した水利施設の環境と調和した整備」、「農業系からの濁水は系内処理」などに取り組んでいる。

[研究成果]

 研究成果について、口頭発表を行うとこれをまとめて査読付き投稿論文にとして区切りをつける習慣にしている。そのため毎年査読付き論文として掲載されることがなく、査読付き掲載論文としては年度により偏りが生じる。したがって、過去数年における査読論文を示すことにする。


●査読有り論文

 傾斜畑における土壌水の動態と水分消費特性:谷川寅彦、金木亮一、矢部勝彦、農土論集221、81−88(2002)

 木酢液によるダム湖濁水の浄化:金木亮一、矢部勝彦、農土学誌70(6)、46−49(2002)

 田面水の窒素・リン濃度に及ぼす代かき、施肥および土壌の種類の影響、金木亮一、矢部勝彦、小谷廣通、岩間憲治、日土肥誌73(2)、125-133(2002)

 田面水のSS・COD濃度に及ぼす代かき、施肥および土壌の種類の影響:金木亮一、岩佐光砂子、矢部勝彦、農土論集215、93−98(2001)

 代かきの有無および肥料の種類が田面水の窒素・リン濃度に及ぼす影響、金木亮一、高橋紀之、矢場勝彦、農土論集211、29−34(2001)

 フィルム被覆栽培下における造成は他の水分動態と水分消費特性、谷川寅彦、木原康孝、福桜盛一、矢部勝彦、農土論集103-109(2000)

 施設畑における雨水利用、伊藤健吾、千家正照、橋本岩夫、矢部勝彦、農土学誌68(10)、23−26(2000)

 造成後の露地畑における水分動態と下層補給の事例、谷川寅彦、木原康孝、福桜盛一、矢部勝彦、農土論集205(2000)