私のこの一年

生物資源管理学科

生物資源生産大講座

上田邦夫

 平成15年度は博士後期課程が完成する年である。開学以来の積み上げが完成する年となる。学部の講義や実験実習、及び大学院の講義についてはこの何年かは変化がない。

 本年はフィールドワーク委員としてフィールドワークのあり方について議論してきた。その中で、フィールドワークシンポジウムを開催した。その一部についてはこの学部報に掲載されている。また、フィールドワークの出版物を出す計画を進行させている。その内容の雛形もこの学部報に掲載している。今後は更にフィールドワークのあり方について議論を進めていきたいと思っている。

 FW3では開学以来、酸性雨問題に取り組んできた。かなりの成果が蓄積してきた。何らかの形で発表したいと思っている。この欄では酸性雨と樹木の衰退の関係についての最近の話題について述べてみたい。

 最近は一頃とちがって酸性雨が話題となって新聞紙上に出たり、テレビなどのメディアに取り上げられることがめっきり少なくなったようだ。これはかって日本の工業地帯付近でpHが3代中頃といった極端に低い値の雨水が観測されるようなことがなくなったことにあるのかもしれない。しかし、酸性雨は降り続いておりその影響は次第に広がりつつあるようだ。雨をレインゴーランドで採取し、降雨1mmごとの酸度を測定すると値は4.0付近になることがよくあるし、4.0を下回ることさえある。本年は大津市と彦根市の両方で同時に降雨水を採取してその傾向をみると、双方のpH推移はかなり同一の傾向を示すことが多かった。またその汚染は春秋にひどい状態になることが多い結果となった。この結果を天気図と重ね合わせると中国大陸や朝鮮半島からの影響が大きいことが推定される結果となった。

 このような問題は一研究者や一地方研究機関で究明できるものではないであろう。ヨーロッパでは既に政府機関が酸性物質の国外からの飛来量について詳しい見積もり量を公表している。また、土壌の酸性物質緩衝能力についても詳しく調査し公表している。わが国においても一刻も早くこのような調査を行い公表する必要があると考えられる。

 酸性降下物との関係で長らく論じられてきた問題の一つに松枯れの問題がある。松枯れについてはマツノザイセンチュウによるものと考えられている。先に催された国際学会(1998 東京)でも線虫病説がほとんど確定のように受けとめられた。しかし、過去に線虫病を媒介するカミキリムシを駆除するために大量の農薬を散布してきた経緯があるし、しかもその散布が効果をほとんど示さなかった経緯があることを考えれば、線虫説を確定的に考えるのは危険であると思っている。松枯れは滋賀県においてもかなりひどい状態になってきており、ほとんどの松山が赤茶けた色を呈してきている。また、その広がりが急速である。

 松以外にもダケカンバやモミのような山の針葉樹林の枯死が報告されている。また日本全国からさまざまな地点での針葉樹林の枯死が報告されるようになった。これらははじめのうちは大都市近郊特に東京周辺の山々での被害が中心であったが最近は全国規模になりつつある。平野部での針葉樹の被害も同様で、はじめは都市近郊での被害が中心であったが、近頃では全国的になっている。ここ彦根市や琵琶湖東部でも杉や桧の被害が広がってきている。このような事情を考えると都市中心部で起こっていたことが全国規模に広がりつつあることが分かる。これは最近の酸性降下物による汚染が全国的なものに変わったことを示唆しているものと受け取っている。