資源循環型農業の確立をめざして

生物資源管理学科

生物資源循環講座

富岡昌雄

 平成11年度から行ってきた文部省科学研究費助成研究「有機性資源の循環及び循環型農業の現状と課題に関する研究」(研究代表者:大原興太郎三重大学教授)が一段落した。生物系の廃物や副産物を肥料資材や土壌改良資材として利用する「循環型農業」の現状と課題を明らかにしようとするものである。私は最終報告書(『生物系資源の循環及び循環型農業の現状と課題に関する研究』、三重大学生物資源学部循環経営社会学研究室、2002)に2本の論文を寄稿した。第1章「循環型社会と生物資源循環」では、廃物を単に社会の中だけでリサイクルするような社会としてではなく、経済が自然界の物質循環によって支えられているような社会として循環型社会を定義づけた上で、収穫した農産物から最大限の便益を引き出すこと、化学肥料に替えて生物系廃物処理物を肥料資材として利用することを循環型農業への挑戦課題としてとりまとめた。第8章「生物系資源循環とバイオガス・プラント」では、循環型農業の一事例として、デンマークやスウェーデンでの調査結果を基に、家畜糞尿からバイオ・ガスを採取し処理液を肥料として活用するバイオガス・プラントを取り上げ、再生可能エネルギーを優遇する税制など様々な政策介入が循環型農業を支えていることを明らかにした。  日本農業経営学会では、平成13年度から2カ年にわたって、「循環型経済社会の構築に向けた農業ビジョン」を研究課題として掲げている。私はその平成14年度の大会シンポジウム報告を求められ、「循環型農業の条件整備と政策」と題して報告した(『平成14年度日本農業経営学会研究大会報告要旨』、日本農業経営学会、2002)。この報告では、循環型社会の要件として「社会の循環」と「自然の循環」の両方が必要であると論じた上で、植物栄養物質の循環利用を促進するための政策として次の六つの課題を提示した。すなわち、(1)化学肥料を生物系廃物由来の肥料資材で代替する、(2)生物系廃物の肥料資材化は堆肥化と消化を組み合わせる、(3)静脈産業の確立、(4)廃棄物処理から資源回収再生へ、(5)栄養物質の大幅輸入超過を克服する、(6)廃物の再生利用に伴う有害物質拡散リスクの管理、以上である。

 滋賀県では農業行政に県民各層の意見を反映させるために、農政水産部のもとに「湖国農政懇話会」を設置しており、私は平成12年度からその会長を務めている。平成14年3月には知事に対して『環境こだわり農業の推進のために』と題する中間提言を提出した。化学肥料や化学合成農薬の使用を抑えた農業を普及するために農業経営を支援する新たな仕組みを導入する必要がある、などがその内容である。平成14年度は環境こだわり農業を推進するための条例はいかにあるべきかを中心に議論し、11月には「消費者よし、環境よし、農業者よし」の「三方よしの農業」推進のための条例化を求める最終提言を提出した。農業者側委員を含め、懇話会でこの合意ができたことは大きな収穫であった。

 平成14年度の専攻生藤村昌美さんは卒業研究で「リサイクル農業の経営実態と成立要因」というテーマに取り組んだ。工場の社員食堂から出る厨芥を引き取って堆肥をつくり、ほとんど有機質肥料だけで米と野菜を生産している農場を調査したものである。ダイオキシン対策の強化や食品リサイクル法の影響で生ゴミ等をリサイクルに回そうという排出者側の動きが強まっており、その中で生ゴミリサイクル農業や、生ゴミを回収・再生処理し、肥料資材として販売する生ゴミリサイクル産業が成立しつつあること明らかになっている。