ランドスケープとしての集落の視座

環境計画学科 環境・建築デザイン専攻

環境意匠大講座

轟慎一

1.私のこの2年

 昨年度および今年度の「轟 慎一のこの2年」です。

1.1 論文

轟 慎一:集落における宅地空間の変化からみた要素の連関に関する研究,博士(工学)学位申請論文,2003.1

轟 慎一,中村 攻,木下 勇:低地部集落の宅地空間における水路・道路の改変と連関変化,日本建築学会計画系論文集No.558,pp.203-210,2002.8

轟 慎一,中村 攻,木下 勇:平地部水田作集落の宅地空間における母屋の改変と連関変化に関する研究 −千葉県佐原市新島地区を事例として−,日本建築学会計画系論文集No.553,pp.163-169,2002.3

轟 慎一,中村 攻,木下 勇:平地部集落の作業所等の改変からみた農家宅地の連関変化 −千葉県新島地区の事例研究−,農村計画学会誌Vol.20別冊,pp.157-162,2001.12

1.2 著書・論説等

轟 慎一:里山と棚田を読む,琵琶湖流域研究会編『琵琶湖流域を読む』サンライズ出版,2003.2

轟 慎一:水郷地域の列村集落空間における環境構成要素の連関構造,環境政策研究会編『琵琶湖沿岸域の土地利用と景観生態』滋賀県琵琶湖研究所,2002.5

轟 慎一:高槻環境文化への新たなる船出によせて,高槻市エコスタッフ会議『高槻市環境基本計画策定のための「望ましい環境像」について 提言書』,2001.6

1.3 講演

轟 慎一:フィールドワークを通してみた赤野井湾集水域,滋賀県立大学移動公開講座「ホタルと共生するまちづくり −環境負荷の少ない地域づくり−」,2002.12

轟 慎一:環境科学とは何か?,滋賀県立長浜北高等学校講義,2002.5

1.4 社会活動

淡海ネットワークセンターNPO活動アドバイザー

滋賀県ふるさと・水と土保全対策委員

高槻市エコスタッフ会議コーディネーター

米原町総合発展計画審議会委員(第4次米原町総合発展計画策定)

2.集落景観と環境システム

 現在、私は「集落における宅地空間の変化からみた要素の連関に関する研究」に取り組んでいます。本研究が対象としている平地農村地域・中間農村地域の集落を取り巻く状況と、地域設定の視点について述べたいと思います。

 農村集落における空間更新や集落拡大など、これからの集落空間を形成していく上で、いかに空間制御をはかっていくかが集落計画の重要課題となって久しい1)。我国における集落計画に関する制度は、従来、農振整備計画や農村総合整備計画など農村基盤・施設の整備事業的なものであったが、集落空間の計画制度として1987年、集落地域整備法の成立をみる。これらの動きに対し、集落の土地利用や計画策定等を中心とした実践的な検討2)がなされているが、集落地区計画制度あるいは1998年成立の優良田園住宅建設促進法等による建築・土地利用の規制・誘導3)のように、既存宅地等における空間更新や分家・新住民等の新規宅地整備など、空間の整序をはじめとする集落空間の計画を検討する上では、集落空間がどのようにあるべきかという空間の構造的な課題に立ち返らざるをえない4)。

 地域の立地や農業形態をはじめとする諸条件により農村集落の置かれている状況は様々である5)が、自然的環境に恵まれた山間集落や歴史的町並みが維持されてきた集落にあっては、それら資源活用による地域振興等を見据えた保存的な空間像も議論されている6)し、他方、都市近郊集落にあっては、スプロールへの対応や都市農業・市民農園など都市農地のあり方などが検討されてきた7)。しかし、これら両端の中間地帯に位置する平地集落・中間集落では、商品性のある作物を扱った畑作・施設農業の地域を除いて、農村集落の空間のあり方が深められることは少ない8)。

 都市圏周辺部に位置する平地地域・中間地域の水田作集落では、圃場整備をはじめ農村農業基盤が整備され、農業構造の変化、生活の都市化、兼業化が進んでおり、集落の空間・生活・生業は大きく変貌している。これらの集落の多くは近隣の地方都市等への通勤・生活利用が可能な立地にあり、クルマの導入や道路整備がそれを助長している。農地は農振農用地として担保され、省力化した水田作を保持しながら、集落に定住し続けることが可能な地域であり、基盤整備等がままならぬ山間地域における過疎化や、都市近郊集落のような急激な混住化はみられない9)。集落の各家々を基本としながら、外的・内的要因を受けその空間は変化してきた。本研究が対象とする、宅地空間の「建築物」「オープンスペース」「宅地境界空間」や、外部空間の「道路」「水路」「農地」、及び「生活」「生業」等の、変化とその影響が顕著に捉えられる地域である。

 これからの農村空間整備や地域環境づくり等にあっては、原型の保存もさることながら、これら空間とそれを取り巻く要素の変化の過程を通じて見出される空間の構造や、要素の連関、集落の特質等を継承的に活かしていくことが重要な視座である。これら空間を構造的に把握する上で、空間の要素がそれを取り巻く多様な要素とどのような連関のもとで関わりあっているのか、特に宅地空間とその周辺空間を中心に要素の連関の構造を明らかにすることが、本研究のねらいとするところである。

参考文献

1)石田:農山村計画をめぐる政策の展開,「新建築学大系18集落計画」彰国社,1986 石田,東:建築等環境整備制度と農村計画,農村計画学会編「農村計画学の展開」農林統計協会,1993

2)岩田:集落拡大と集落基盤整備計画−都市近郊地域を中心に−,農林統計協会,1995 岩田,川嶋:彩適空間への道−住民参加による集落計画づくり−,農林統計協会,1998 牛野:集落地域整備法による計画づくりの意義と課題,農村計画論文集No.3,2001 牛野:住民主体による地区総合計画づくりと神出方式,農業土木学会論文集No.176,1995 牛野:地区総合計画の計画方法,農業土木学会論文集No.177,1995 牛野:神出方式による住民主体の地区総合計画づくりの課題,農村計画論文集No.2,2000

3)石田,東:前掲1) 楠本:優良田園住宅建設促進法,農村計画学会誌Vol.19(2),2000 千石,松岡,瀬戸口,小林:都市と農村の共生を視点とした優良田園住宅制度の活用方策,日本建築学会技術報告集No.14,2001

4)富樫:空間計画の課題と方法,日本建築学会編「図説集落」都市文化社,1989 今井:農村計画と集落−農林行政の認識と研究の動向−,農村計画学会誌Vol.2(2),1983 漆原,川嶋,岩田:集落居住区域論 都市近郊農村集落の計画フレーム,日本建築学会編「図説集落」都市文化社,1989

5)楠本:集落空間計画,農村工学研究22,農村開発企画委員会,1979 楠本:集落空間の構造とその変容,青木志郎編「農村計画論」農山漁村文化協会,1984

6)井上,中村,山崎:日本型グリーンツーリズム,都市文化社,1996 井上,中村,宮崎,山崎:地域経営型グリーンツーリズム,都市文化社,1999 齋藤,中村,木下:グリーンツーリズムの趨勢に関する研究,ランドスケープ研究61(5),1998 西山,三村:伝統的建造物群保存地区における景観管理計画に関する研究,日本建築学会計画系論文集No.474,1995

7)石田:都市近郊農村における計画,「新建築学大系18集落計画」彰国社,1986 中島,発地,淵野,安村,日暮,市川,大脇:都市空間と農業−都市計画区域における農業・農地をめぐる問題−,農村工学研究45,農村開発企画委員会,1987 藤崎,冨田,小出:都市近郊でのスプロールに関する研究の概観,農村計画学会誌Vol.5(1),1986

8)楠本:集落構造の移り変りと集落研究の動向,農村計画学会誌Vol.2(2),1983 富樫:前掲4) 今井:前掲4)

9)重村:集落計画の目標,日本建築学会編「図説集落」都市文化社,1989 富樫:前掲4)