今年1年を振り返って

生物資源管理学科

生物資源生産大講座

須戸幹

 生態学科から今の学科に異動して今年で3年目,これまで4回生1人,4回生と修士1回生一人づつと割合こじんまりしていたが,今年は4回生4人,修士2回生1人の大所帯になった.どの学生の研究テーマもフィールド調査とデータ解析の組み合わせで,現地で見て考え,分析データを見て解析するスタイルである.

 4回生のテーマは,


 1.“水田の排水路から琵琶湖に流入した農薬は,琵琶湖の中でどのような運命をたどるのか”を明らかにするために,大学の研究船「はっさか」で琵琶湖の9地点で水深別農薬濃度の分布,底泥での残留濃度の調査とともに,水槽を使った実験で農薬の分解速度を測定した.

 去年から引き続いた調査であるが,今年は琵琶湖を水温躍層の上層(夏に湖水の温度が上昇する層,0-20mぐらい)と下層(年間を通じて水温が変わらない層,20m以深)にわけて,農薬の動態モデルを作った.

 2.“琵琶湖の内湖(河川水がいったん流入することで琵琶湖への負荷を減らす効果があるといわれている)では,農薬を浄化する効果があるのかどうか”について,湖北町野田沼で農薬の物質収支を検討した.

 別の滞留時間(水が内湖に留まっている時間)が3日の内湖では浄化効果が認められなかった.湖北野田沼は滞留時間が2倍の6日で,長く滞留するぶん,内湖のプランクトンや植物による生物分解が期待できる.

 3.“宇曽川の濁水(代かきや田植えの時期に水田から濁った水が河川に流入すること)の原因とひとつといわれている中島統土壌帯(粒子が細かく沈殿しにくいので,濁り水の原因となる)にある水田と,そうでない水田で,農薬の流出に違いがあるのかどうか”について,宇曽川支流の岩倉川,安壺川,南川で調査を行った.

 すなわち,濁水の原因となる土壌帯からは農薬も流出しやすいのかどうかを明らかにするもので,データが様々な濁水対策事業に反映されればと考えている.

 4.“田んぼの畦畔の傷みが目立つ(畦畔に高低差ができたり,穴があいたりして田んぼの水が流出しやすい)水田群と,そうでない水田群で,農薬の流出率にどの程度違いがあるのか”を,多賀町と彦根市内の数haの水田排水路で調査を行った.

 調査は地元の個人や自治会の協力を得て行い,解析の結果は農薬流出抑制対策に有効なデータとなる.

 修士2回生のテーマは,”水田からの農薬の流出機構と流出特性”で,1筆の水田から,畦畔浸透(いったん土壌に浸透してから排水路に流出する経路)によってどの程度農薬が流出するのか,水溶解度などの農薬の物性で流出率がどの程度異なるのかを大学の圃場や個人の水田を借りて研究を行った。研究結果は河川での農薬残留を考える上で不可欠な基礎データを提供したと考えている.

 今年特筆すべき事柄は,湖国農政懇話会の委員となり,「滋賀県環境こだわり農業推進条例」への提言を議論する場に参加できたことである.これまでの研究成果を政策決定に関わるところに生かすことができただけでなく,生産者,流通機構,消費者それぞれの立場の方から農薬や農業をめぐる諸問題についてさまざまな考え方を聞くことができ,今後の研究方針を考える上でおおいに参考になった.

 最後に,今年公表した主な論文(学会講演要旨は除く)をリストアップした.