環境科学セミナー2002報告

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第2回(2002年11月6日滋賀県立大学交流センターホール)

「地球環境建築を目指して」


講師 仙田 満氏(建築家、東京工業大学・同大学院教授、日本建築学会会長)


●講演項目(レジュメより引用)

 I.地球環境建築憲章

・学会における地球環境問題に対する対応の経緯

・地球環境に対する建築界の責任

・地球環境建築憲章−長寿命・自然共生・省エネルギー・省資源循環・継承

 II.環境デザインとは何か

  ・環境デザインとはチームのデザイン

・環境デザインとは関係のデザイン

・環境デザインの座標

・環境建築・環境建築家

・環境デザインにおける研究と実践

 III.こどものあそび環境

  ・こどものあそび環境

  ・こどものあそび空間

  ・こどものあそび環境の変化

  ・こどものあそび環境の国際比較

  ・あそびの原風景

  ・こどものための住まい

  ・遊具の、究

IV.遊環構造とその応用

 巨大遊具の道 −宮城県中央児童館モデル児童遊園

 富山こどもみらい館

 海南市わんぱく公園

V.地球環境建築をめざして

 −世界を望む家

思考椅・高い机

 子供のための建築・都市12ヶ条

●地球環境建築憲章

1) 建築は世代を越えて使い続けられる価値ある社会資産となるように、企画・計画・設計・建築・運用・維持される。

 (長寿命)

2) 建築は自然環境と調和し、多様な静物との共存をはかりながら、良好な社会環境の構成要素として形成される。

 (自然共生)

3) 建築の生涯のエネルギー消費は最小限に留められ、自然エネルギーや未利用エネルギーに最大限に活用される。

 (省エネルギー)

4) 建築は可能な限り環境負荷の小さい、また再利用・再生が可能な資源・材料に基づいて構成され、建築の生涯の資源消費は最小限に留められる。

 (省資源・循環)

5) 建築は多様な地域の風土・歴史を尊重しつつ新しい文化として創造され、、良好な、成育環境として次世代に継承される。

 (継承)

●キーワード

すぐれた多様なデザイナーの共同によって新しい様式を生むことができる。

環境をデザインする

=すでにある物語を大切にするデザイン行動

環境デザインの座標

環境デザインの領域は空間の領域を串刺しにする

●こどものあそび空間

6つのあそび空間

こどものあそび環境の国際比較

あそび空間量の国際比較

あそびの原風景の研究

道具におけるあそびの発達段階

あそびの発達段階

●遊環構造の原則

 1.循環構造があること

 2.その循環(道)が、安全で変化に富んでいること

 3.その中にシンボル性の高い空間、場があること

 4.その循環に「めまい」を体験できる部分があること

 5.近道(ショートサーキット)ができること

 6.循環した大きな広場、小さな広場などがとりついていること

 7.全体がポーラスな空間で構成されていること

●世界を望む家

 自己から他者へ、内から外へ、過去から未来へ、地域から地球へのまなざしの環境建築である。

●子供のための建築・都市12ヶ条

 子ども達が元気に育つ社会、それはとりもなおさず自然と共生する社会であろう。それは明るい未来を保障する。

●最後に

 世界への、地球へのまなざしをつねに持ち、デザインすることが、私達にとって重要なことではないか。

●仙田 満 略歴

1941年横浜市生まれ、1964年東京工業大学卒業、

1964〜68年菊竹清訓建築設計事務所、1968〜84年環境デザイン研究所所長、1982年工学博士(東京工業大学)、1984〜87年琉球大学教授、1987〜92年名古屋工業大学教授、1992年〜東京工業大学建築学科教授・同大学院理工学研究科建築学専攻教授、1999年〜2001年日本建築学会副会長、2001年〜日本建築学会会長 毎日デザイン賞、日本建築学会霞ヶ関ビル記念賞(研究部門)、日本造園学会賞(作品賞)、日本建築学会賞(作品賞)、IAKS賞(国際スポーツレクリエーション施設協会賞)ゴールドメダル、他受賞

(文責 柴田いづみ)





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第3回(2002年11月19日滋賀県立大学交流センターホール)


「中国黄土高原における自然と農業」

講師 武田 和義氏(岡山大学資源生物科学研究所教授)


毎年春になるとみられる黄砂が近年はひどくなっている。黄砂は中国黄土高原あたりから飛来すると考えられているが、現在は砂漠化のすすむ黄土高原もかつては森に覆われた肥沃な土地であった。人による農作物生産と家畜の放牧が自然の物質循環を超えて行われたとき、その地がどのように変貌するのかを黄土高原の現状は私たちに教えている。

 黄土高原では現在なお多くの人々が生活し、作物栽培と家畜の放牧が限られた資源のなかで続けられている。当然のことながら、生産力は低く、人々の生活も豊かとは言えない。この黄土高原に緑を取り戻し、かつてのような豊かな生物生産が行われるために中国と日本の共同プロジェクトが行われている。 今回の講師の武田氏は植物育種学者で、岡山大学資源生物科学研究所が世界に誇るオオムギ遺伝資源の管理責任者でもあり、食糧問題や環境保全などの問題についても自分の専門の立場から積極的に関わっておられる。黄土高原プロジェクトへの参加もその実践のひとつである。講演では自身が撮影された現地の自然、農地および人々の生活に関するスライドを示しながら、遺伝資源保全の重要さからプロジェクト実行に及ぼすその地の文化の影響力の強さまで説得力のある話しぶりで説明していただいた。学生諸君への参加を呼びかけたところ、予想以上の参加者があり、武田氏もそれに応えて若い人のために熱心に説明された印象深いセミナーであった。

(文責、長谷川)





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第4回(2002年12月10日滋賀県立大学交流センターホール)


「サンゴについてサンゴ礁で学ぶ」

講師 大森 信氏

(財団法人熱帯海洋生態研究振興財団 

阿嘉島臨海研究所所長、東京水産大学名誉教授)


環境破壊が世界の海で急速に進んでいるなか,各地でサンゴ礁が次々に消滅しており,沖縄本島をはじめ,南の島嶼国などには深刻な地域が増えています.陸上の開発,水質悪化,エルニーニョ現象などさまざまな要因によりますが,人間活動の結果,ここ20年で世界のサンゴ礁は半減したとも言われています.サンゴという無数の小さな生きものが造ったサンゴ礁がなくなれば,そこに棲む多くの生きものが姿を消し,沖合の魚までが減り,海水は濁り,二酸化炭素の吸収もなくなります.自然環境のさらなる悪化,観光産業,漁業の衰退など,地球にとっても人類にとっても大きなダメージになるのです.

 サンゴとはどんな生きものか,サンゴ礁はどのように造られるのか,そして海の生態系の中でそれらが果たす役割の大切さについて報告するとともに,衰退するいっぽうのサンゴ礁の回復に向けて,私達が沖縄のサンゴ礁でこれまで行ってきた研究成果を紹介します.

「要旨」

1. 造礁サンゴ (太平洋・インド洋: 約80属800種,大西洋:約26属35種 共に大洋の西側でよく発達)

2.  サンゴ礁の形成 (裾礁,ほ礁,環礁.一万年以上にわたる海面上昇と共に発達 (ダーウィン説).現在のサンゴ碓は後氷期,とくに4千〜8千年前の間に堆積した.

3.  サンゴ礁の形成  

裾礁,ほ礁,環礁.一万年以上にわたる海面上昇と共に発達(ダーウィン説).現在のサンゴ礁は後氷期,とくに4千〜8千年前の間に堆積した.

4. 分布と発達の条件

1)水深40m以浅 (10m以浅が最も好ましい)

2)水が澄んでいること   

3)水温年間18.5℃以上 (25〜29℃が好ましい)

5. 地球上でのサンゴ礁の面積と種の多様性

617×1000?2 世界の海洋の総面積の0.17%に過ぎないが,海洋生物種の4〜5%がそこに分布するといわれる.

6. サンゴの生活

1)ポリプ形のみでクラゲ形はない (固着生活).

2)内胚葉に生息する褐虫藻 (渦鞭毛藻類)との共生生活.

3)CaCO3の沈着速度は褐虫藻の活性により影響される.

4)単体又は群体性,雌雄同体と雌雄異体がある.

5)有性生殖と無性生殖により増殖する.

受精→プラヌラ幼生 (浮遊生活)→ポリプ (着生)→分裂・出芽・断片増殖→産卵.

7. 分布と発達の条件 (水深40m以浅(10m以浅が最も好ましい)

1)水が澄んでいること   

2)水温年間18.5℃以上 (25〜29℃が好ましい)

8. 阿嘉島のイシサンゴ類の産卵

1)種ごとの産卵時期と産卵時間には違いがあり,産卵期は5月〜9月におよぶ.

2)大まかには月齢に従った周期性のもとに産卵する.

3)産卵の同調性は高い.満月の前後3〜4日,日没後2〜4時間内におきる.

9.サンゴ礁の減少

近年の人間活動,地球温暖化,オニヒトデ,富栄養化などによって,過去50年ぐらいの間に1/3がすでに死滅かその寸前にある.

10.回復と再生をめざして

幼生供給源水域の保全保護,種苗生産と着生基盤の開発,移植技術の開発,一般の人々に対する教育啓蒙が大切.

(文責 伏見)





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第5回(2003年2月14日滋賀県立大学交流センターホール)


REJUVENIZE(再生)

講師 新居 千秋氏(建築家、ペンシルベニア大学客員教授、武蔵工業大学客員教授)


●講演項目

建築・建築家の役割、地域環境再生の為のプログラムと再生「REJUVENIZE」に至るまでの思考、思想の変化が主題であった。

・ ペンシルバニア大学でルイス・カーンのコース

・ イギリスのG.L.C(ロンドンテームズミード都市計画局)での役人の経験

・ 居住空間に関する試み(アルディア・ヌーボ、平塚橋計画)

・ 昨年4月にオープンした赤レンガ倉庫の再生プロジェクト

・ 農業農村の問題に取り組む散居村のプロジェクト

など。

全体像を描きながら、ディテールにまでエネルギーをそそぎ、かつデザインを楽しむ設計へのあり方をこれまでの経験や作品を通して実例的にお話いただいた。

また、環境科学部にとっては、農村問題・地域再生は重要な課題であり、環境教育についての教科書作成等を通じての提案から行動にいたる経緯を説明いただいたのは、大きな収穫であった。

セミナー後に、開催中の卒業制作展において、学生の作品を講評してくださり、教員にとって新たな視点を考えさせられ、また学生にとっては、直接指導いただいた貴重な時間を過ごした事となった。

●新居 千秋 略歴

1948年島根県生まれ、1971年武蔵工業大学工学部建築学科卒業、1973年ペンシルベニア大学大学院芸術学部建築学科修了、1973年ルイス.I.カーン建築事務所、1974年G.L.C(ロンドン市テームズミード都市計画特別局)、1977年武蔵工業大学講師(現在同校客員教授)〜、1979年東京理科大学講師〜、1980年新居千秋都市建築設計設立、1998年ペンシルベニア大学客員教授。・主な作品及び受賞暦:第18回吉田五十八賞受賞 (水戸市立西部図書館)、建設大臣賞受賞 (大館市営水門前住宅)、日本建築学会賞 (黒部市国際文化センター/コラーレ)、第2回日本計画行政学会計画賞受賞、アルカシア賞ゴールドメダル受賞 (アルカシア=アジア建築家評議会)、くにさき総合文化センター/アストくにさき(東国東広域連合、国東町)、赤レンガ倉庫1号棟・2号棟改修。・著書「喚起/歓喜する建築 Architecture for Arousing」新居千秋 ギャラリー・間叢書 13 TOTO出版、「私の建築手法」新居千秋・長谷川逸子「Chiaki Arai Architecture for Arousal」Chiaki Arai l'ARCAEDIZIONI

(文責 柴田 いづみ)





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特別講演


「中国・湖南農業大学との学術交流」

2002年6月、本学は中国・湖南農業大学との間で学術交流協定を締結した。

2002年12月17日、同協定に基づく学術交流の一環として来日された、

同大学の章喜為、段建南、両教授に下記の内容の講演をしていただいた。


章喜為 「洞庭湖流域農業経営方法の選択」

章教授は農業経営を教育・研究されており、その観点から湖南省北部に位置する洞庭湖流域における農業の将来の方向性についてご講演いただいた。大要つぎのような内容であった。

洞庭湖流域の耕地面積は、約100万ヘクタール、農林漁業人口は約650万人と、それぞれ省全体の28%、22%のシェアである。第1次産業の全産業GDPに占める割合は、洞庭湖流域で26%、湖南省全体で20%となっている。洞庭湖は長江につながる自然の豊富な湖であるが、反面甚大な洪水被害の頻発する湖でもあった。洞庭湖の生態特性に合わせた農業経営の方向性として次の3つがあげられる。

(1)水位の上下動に対し農業の側が適応すること(「水進人退」)。農業の合理化。

(2)文化・自然資源を活用した「旅遊農業」(観光農業)を発展させること。

(3)湖水の季節変動に適応した「水体農業」を発展させること。

章教授のお話によれば、干拓により造成された農地の堤防を廃止することによって16万6千ヘクタールの耕地を湖に戻し、1940年代当時の湖の面積に復元させる計画が実際に立案されているとのことである。(ちなみに琵琶湖の面積は6万7千ヘクタール。)

このように大規模な自然復元事業に農業がどのように適応していくか、さらに、章教授の提案されたような環境配慮型農業が洞庭湖流域で実現していくのか、これらの問いに対する答えは琵琶湖を抱える滋賀県にとって大いに参考になるであろう。今後の学術交流のなかで追跡していければと思う。

段建南「人為的作用下の土壌変化過程のシミュレーション」

段教授は土壌学を教育・研究されており、ご研究テーマの土壌変化のシミュレーションについてご講演いただいた。大要つぎのような内容であった。

土壌シミュレーションモデル、SOLDEP (Soil Development Processes Simulation System)、は黄土地帯での土壌に対する人間活動の影響をシミュレートし、最適な管理方法を追求するための数理モデルである。

モデルは5種類の過程のサブモデルから構成されている。その5つとは気象、土壌水分、土壌中の有機炭素、侵食、炭酸カルシウムの蓄積、である。実測データ等から推定されたパラメータを適用することによってシミュレーションを行った結果、観測した値と充分に適合することが明らかになった。慣行栽培方法と環境保全型栽培方法それぞれのもとでのシミュレーションと観測値の比較も行った。

今後の課題として、他の乾燥地帯での適用、および、地理情報システム(GIS)との組み合わせにより更に大きな地理的範囲での適用を可能とすること、が考えられている。

農業を環境配慮型に転換することによって土壌の劣化を抑えようとしている中国の努力の一端を伺うことができた。黄土地帯は日本にも飛来する黄砂の発生源であり、ある意味、身近な地域である。また、砂漠化等の地球環境問題の現れでもある。この重大な問題にとりくむ段教授の問題意識と研究方法は、我々にとって示唆するところが大である。

(文責:高橋)