私のこの一年

環境計画学科環境社会計画専攻

環境社会システム大講座

澤田誠二

 この一年は、赴任したばかりの一昨年にまして動きが多かった。海外出張だけでも2月の極寒のフィンランドに始まり、5月のドイツ・ライネフェルデ日本庭園竣工式出席、9月ベルリンでの歴史的建造物の調査があり、さらに、10月初旬メキシコの建築研究国際会議に参加、下旬には南京大学に交流の件で打合せに出かけるというほどだった。

 「建築」から「環境科学」という新領域へ、それもゼネコンの実務から教育・研究の場に移った初年度には「新世界」を知るだけで精一杯だった気がする。

 そこでこの一年は、何とか彦根での本務の方針を固めなければならないと考えた。つまり、担当する「環境意味論」、「環境計画論」と「合意形成技法?」の講義内容を、今まで続けてきた研究活動とどう関連付けるかを考えなければならなかった。

 振返って見ると、大学院で建築生産の工業化を学び、国内・海外で建築デザインや建築技術の開発、都市計画の研究、プロジェクト・マネージメントなど実に多様な実務に従事してきた。そのためもあって、「環境意味論」での近代化の過程で疲弊した環境に関する説明や、プロジェクトを企画して実施することに関わる「環境計画論」の講義では、前任者の残したものを基に、実務で得た知識を加えることで何とかこなせたように思う。

 こうした実務と平行して続けてきた研究のテーマについても、この10年ほどの間に、コミュニティの持続的発展のための「団地再生の研究」、地域の資産を利用して産業・経済・文化の活性化をはかる「地域開発の研究」、高齢者・身障者を含む人々のための安全・快適で効率の良いモビリティ・ニーズに対応する「都市交通の研究」という3つの領域に絞られてきていた。

 教育と研究の関係を整理しなければならない機会が、昨年7月のオープンキャンパスの際にあった。環境社会計画専攻で、各研究室の「パネル」を作成し、外来者に見ていただくことにしたのである。パネルでは、教育と研究の関わりを、ハウジング(住宅・住宅地)という環境、都市交通とまちづくりに関わる都市環境、さらに地域の産業・経済・文化の場という「環境の軸」で整理してみた。これが思いのほか若者達にとってわかり易いものになったようだ。引用した具体事例には「団地再生」や「旧工業地帯の再生」のように今の日本の「キーワード:再生」が含まれていたためだったかも知れない。

 海外出張の多くも、こうした研究に関わることで、それぞれなりに動きが出てきた。極寒の北欧へは産業経済省からの委託による「省資源・省エネルギー型住宅再生」調査のためだった。5月のフランス・ドイツ行きと10月のメキシコ行きは、30年来続けている「オープンビルディング(環境レベル毎の明確な責任体制で住宅・都市・地域環境づくりを進めるコンセプト)」の国際研究集会だった。これらのノウハウ交換の機会もようやく成熟期に達した感があって、国内で進めている「空室オフィスの住宅への転換(コンバージョン)」プロジェクトや「老朽化住宅団地の再生」など研究成果の実務への展開に弾みを付けることになったこの一年だった。

 このほか、7月大津の旧琵琶湖ホテルで行った「日独まちづくりシンポジュウム:歴史的建造物の保存と活用」や8月のベルリンでの調査も、「サステナブル社会」の実現に文化資産がどう貢献できるか明確になった感がある。

 そもそも、ハウジング・都市・地域という私たちの生活環境では、公害の防止、自然環境の保全などの対策が重要なことは言うまでもない。それらを循環型システムへの転換に位置付けるにしても、プロジェクト毎にこうした要素知識・技術を的確に選択し統合する必要がある。それにも増して重要なことは、住宅・住宅地、都市、地域の各環境に現存するコミュニティの維持と自発的な発展を計画することであろう。

 この一年は、さまざまな時間と場所で、さまざまな人々との対話があった。その結果、環境科学の分野に移ってからの活動の中心課題がようやく見えてきたように思う。