総合地球環境学研究所プロジェクト(ICCAP)と私

生物資源管理学科

生物資源循環大講座

小谷廣通

 私の研究と教育についてのこの1年は,例年とあまり代わり映えがしません.そこで,対応した月日は2ヶ月程度と短いのですが,総合地球環境学研究所のプロジェクト“The Impact of Climate Change on Agricultural Production System in Arid Areas (ICCAP)” に共同研究員の一人として係わることになりましたので,このプロジェクトの目的と私の係わりとについて報告します.

 このプロジェクトは2002年度から始まり2006年度までの5ヵ年計画で実施されますが,そのねらいはリーダーによれば次のようになるようです.

 将来予測されている地球規模の気候変化が,乾燥地域の水文・水資源条件や作物生育,営農・作付体系や作物移出入,そして農家レベルでの行動対応,地域的な農業対策などの人間の社会経済的活動などを含む農業生産システムに及ぼす影響を事例研究から明らかにする.このため,地域の気候変動予測モデルを開発し,作物生産に関連する気候パラメータの変化を予測する.また,これと新たに開発する流域水文モデルを用いて,将来の地域の水文条件と水資源賦存状況の変化を予測する.そして,代表的な作物・自然植生の生産量や水消費量に対する気候変化の影響,予想される用水需要変化が地域の水収支に及ぼす影響,水資源利用の変化が作物・植生に及ぼす影響などを実験やシミュレーションモデルによって検討する.さらに,このような影響に伴う農民・農業関係団体などの対応行動が地域の農業生産システムに及ぼす影響を社会経済的に予測評価する.最後に,これらの相互関係を総合的に検討し,乾燥地の農業生産システムを評価する基本フレームを構築する.また,温暖化・気候変化の影響の内容・程度,規定する要因やクリティカルなポイント,対応の選択肢を特定して,農業の将来的な可能性を維持するための基本要件を明らかにする.

 以上がプロジェクトICCAPのねらいですが,こんなことできるんかいな,と思わないこともありませんが,某大学の某先生との長い付き合いの関係上係わりを持つことになりました.なお,研究対象地域は,水資源の逼迫度,農業生産の重要性・歴史性を考慮して,地中海東岸の乾燥・半乾燥地域と決まっておりましたが,国際情勢等の関係から精査試験地域は最終的にトルコとなりました.

 私はこのプロジェクトの農業グループに属しています.作物の生産量に及ぼす気候変化の影響は,SWAPモデルを用いて予測することにしていますが,水消費量(蒸発散量)はこのモデルの重要なインプットデータの一つであります.そこで,まずは代表的な作物の現在の蒸発散量を求める必要があるということで,2002年8月末から9月の初めにかけて3週間トルコに行ってきました.2002年度の調査の目的は,測定機器の運搬,測定場所の選定,対象作物の選定および測定機器の作動確認などでした.研究予算が限られていること,また,播種から収穫まで測定が長期間にわたるため,測定方法は機器が最も安価に準備でき,最も簡単に蒸発散量が測定できる熱収支ボーエン比法を用いることにしました.2002年度は実際に大豆畑で機器を設置して,潅漑の前後における蒸発散量を測定してきました.しかし,私たちが明らかにしたようにこの方法には問題点があり,また,温度・湿度を測定する測器も精度が良くありませんので,あまり信頼できる測定値が得られないかもしれません.それでも,生育全期間の測定値はこの方法に頼らざるを得ませんので,2003年度8月前半の私の調査目的は,我々が開発した熱収支フラックス比法を用いて蒸発散量を測定し,これとボーエン比法による測定値とを比較検討することにしました.熱収支フラックス比法を用いて畑地での蒸発散量は測定したことがありませんので,興味ある結果が得られればと思っています.

 以上プロジェクトICCAPの概要と私の係わりとを述べました.積極的ではなかったかもしれませんが乗ってしまった船ですので,プロジェクト全体としても私個人としても目的が達せられるよう努力したいと思っています.