現地視察(野菜生産地をたずねて)

生物資源管理学科

生物資源生産大講座

西尾敏彦

 野菜生産地視察は、その地域の野菜生産事情だけでなく、その地域や周辺地域の経済事情、歴史・文化あるいは人々の生活の様子にも触れることのできるまたとない機会である。

 8月 第26回国際園芸学会(カナダ、トロント)、Tour of vegetable production on organic soil

 トロントの北方に位置する広大な沼沢地帯(黒泥土地帯)の3,800haあまりが干拓、農地化され、有機質に富む露地野菜生産地帯となっている。おもな野菜として、ニンジン、タマネギ、レタス、ジャガイモ、セルリー、パースニップ、カリフラワー、キャベツ、ビートなどが生産されている。2001年のオンタリオ州のセルリー、ニンジン、タマネギの生産額はそれぞれ$540万(283ha),$1557.5万(2889ha )、$2215万(2428ha)であるが、それらの生産地の50%は黒泥土地帯にあり、この地域の重要性がうかがえる。1900年後半に設立された2,3の大規模農場を訪ねた。いずれも法人化によって施設整備、大型機械導入をはかり、生産の効率化を実現している。また、25種類にもおよぶアジアの野菜(ハクサイ、チンゲンサイ、コマツナ、ネギなど)を栽培している農場もあり、多くの外国人季節労働者による収穫作業が行なわれていた。この地域の農場での施肥は州推奨の施肥基準により、病害虫防除はIPM Program にしたがって行なわれている。生産物はトロントなど国内出荷もあるが、U.S.向け出荷が多い。作業労働者の多くが外国人であることは、生産費軽減を外国人労働者の低賃金によっていることを示すものであろう。また、アジア的野菜の需要が多いのは、東洋食・健康食ブーム、あるいはカナダやアメリカへのアジア人の進出が盛んであることによるのであろう。

 9月 熊本県阿蘇郡九木野村野菜生産地

 年平均気温11〜14℃、昼夜温の気温差が大きく、夏季に冷涼である条件を生かしトマト、ホウレンソウなどの施設野菜、ダイコン、キャベツなどの露地野菜が生産され、九州を代表する夏秋野菜産地となっている。近年、夏秋トマトの輪作組み合わせ作物として軽量野菜(ベビーリーフ)が導入されている。ベビーリーフはホウレンソウ、ミズナ、ルッコラ、ターサイなどの葉菜類の幼植物を収穫し、出荷するものでサラダ用として利用されている。栽培・収穫・調整の労力軽減や燃料などのエネルギー節減あるいは土地利用効率向上などの効果がある有望品目となっている。

 11月 滋賀県草津市北山田町

 草津川河口周辺のデルタ地帯に広がる野菜生産地である。江戸時代(弘化4年)に開拓された歴史ある県内有数の野菜生産地であり、現在は都市近郊型野菜生産地としてハウス軟弱野菜や草津メロンやネギなど特産野菜の生産が行われている。さらに、滋賀県「環境こだわり農産物」認証制度のもと、秋冬作のホウレンソウ、ネギ、ミズナ、ヒノナ、コカブなどの生産に取り組むとともに、堆肥など有機物投与による土壌管理、土壌分析による施肥管理、適正な廃ビニール処理など環境問題をも考慮した野菜生産を目指している。

 12月 滋賀県坂田郡伊吹町

 近江町伊吹山麓の台地に、小規模ではあるが、伊吹ダイコンが栽培されている。宮崎安貞著「農業全書」(1697)に伊吹菜またはねずみ大根が、近江伊吹山で栽培されていると記載されている。大根独特の辛味が強く、ソバの薬味として貴重な存在である。また、甘味も強く煮物としても高品質である。来歴は明らかでないが華北系大根であり、わが国のいくつかの品種はこの品種から分化したとされている。一時、栽培が途絶えかけたが、元農業改良普及員山内喜平氏の20年におよぶ努力により復元・保存が試みられた。現在、伊吹町の特産物として栽培が復活しつつある。