私のこの一年

環境生態学科

丸尾雅啓

 本年度は、個人的な研究姿勢の見なおし、新手法へ取り組むための測定・情報収集が中心であった。10月には大田啓一教授が着任され、水圏化学研究室の研究内容が新しくなるとともに、自分の研究の幅を広げるよい機会である。

 実習についてはFW2で琵琶湖北湖にくわえて西の湖内部、赤野井湾(荒天中止)を対象として幅広い観察、観測を行った。西の湖では水郷めぐりの観光船にのせていただき、ヨシの刈り取り、生物量、付着生物量調査をおこなった。

 地域活動としては柴田いづみ先生が中心となって近江八幡市と共に取り組んでいる津田内湖復活計画の観察会に参加させていただいた。

 また伏見碩二先生の御紹介で、湖東町のキトラ溜の自然観察・環境整備に参加させていただくことができた。キトラ溜は山裾の谷をせき止めた池で、上にひとまわり大きな明正溜がある。灌漑用に持ちいられたが、近年放置されている。平地だったらすでに土手を崩してショッピングモール、卸売市場、集合住宅という結末がまっていただろう。

 集水域の地質は湖東流紋岩で河川水のN、P、イオン濃度は低い。溜池の水質も良好であるはずが、昔見られたジュンサイなどがなくなり、汚れが懸念されている。もっとも汚れが富栄養化だけなら、溜池やお堀の水が汚れているのは当たり前で、必要以上に浄化する必要はない。ある先生がおっしゃられたが、底の見える堀では防御にならない。底が見える溜池では、水田のこやしにならないのでは?

 ただしここは高速道路の排水が流れ込むらしく、有害物質が溶けているのではと心配されていた。といっても、環境ホルモンや多環芳香族については門外漢なので、金属、主要イオン、栄養塩について分析を行った。

 実際に8月に観測したところ、周囲の溜池に比べ、4倍程度の電気伝導度を示した。融雪剤の影響かと思ったがカルシウム濃度は高くない。しかし夏より春の方が高い。ちょうど卒業生の北村雅彦君(3階風水研出身)から電話があり、融雪剤の塩化ナトリウムが、琵琶湖に影響を与えうるかとの問い合わせ。融雪剤は塩カルではときくと、じつは塩化ナトリウム主剤のものが多いらしい。たしかにナトリウムイオン濃度は高い。やはり高速道路の影響はあるのか?この冬の結果が答えになるかもしれない。

<学会発表>

(1)琵琶湖水中微量硫化物のHPLC分析(第63回分析化学討論会)

(2)海水中微量金属の新規分析法とスペシエーション(日本海洋学会秋季大会シンポジウム「海洋の微量元素―新方法論の模索―」) 他6件

<論文>

(1)高野通明、小畑元、丸尾雅啓、中山英一郎 “北太平洋亜寒帯域およびベーリング海における鉄の分布と生物生産に対する寄与”, 海洋化学研究, 15(1), 36-49,2002.

(2)Yoshimizu C., Urabe J., Sugiyama M., Maruo M., Nakayama E., Nakanishi M. “Carbon and phosphorus budgets of Lake Biwa, the largest lake in Japan”Verh. Internat. Verein. Limnol., in press.

<著書>

(1) 「はかってなんぼ 教育編」第4章:「はかりかた」の実際(応用編)第2節:窒素 pp106-111, 日本分析化学会近畿支部編, 丸善, 2002.

(2)「はかってなんぼ 環境編」第2章:環境はどこまで,どうしたらはかれるの?, 第1節どこまで微量でもはかれるの pp11-22, 日本分析化学会近畿支部編, 丸善, 2002.

(3) Nakayama E., Maruo M., Obata H., Isshiki K., Okamura K., Gamo T., Kimoto H., Kimoto T., Karatani H. “Anomalies of dissoluvable iron and manganese accompanying seismic activities in the Japan Trench” In “Marine Environment: The Past, Present and Future”, Ed. Chen C.-T. A., the Fuwen Press, Kaohsiung, Taiwan, 2002.