この一年を点検する

生物資源管理学科

生物資源生産大講座

川地武

 早いもので、ばたばたしている内にまた一年が過ぎた。大学では落ち着いて研究や教育に専念できると思って転進したが、意外にそうでもない。この変化の早い時代に、われ関せずとは行かないし、自ら社会との接点を求めて研究テーマも選び、また学生諸君にも社会が求める技術や知識の吸収、会得を望んでいるのだから、仕方がない。ただ、余り内向きの雑事に煩わされたくないのが本音である。そんな思いでこの一年を自己点検してみよう。

講義

 学部生向けに土壌環境学と土壌資源管理学を担当。土壌環境学はニ回生向けであるが、彼らに混じって地域から高谷さんという高齢の女性が受講されていた。年は80歳を過ぎておられたが、ほぼ皆出席で、教室の最前列でメモを取りながら聴講されていた。人生の大先輩が一緒というだけで、教室の雰囲気にも緊張感があり、私だけでなく学生諸君にとっても良い経験だったと思う。


 大学院生向けには土壌環境論を講じた。昨年より時間と内容を増やし、土壌だけでなく地盤に関しても環境科学的には問題が山積状態であり、大いに学び、知見を活用してもらいたいとの思いで臨んだ。最近、学外の委員会で地盤環境工学分野の海外(欧米)の大学院教育の調査をしたが、その充実ぶりに感心した。地盤、水理、土壌、環境化学、環境法などを課し、その教育組織も学部横断的でわが国と差を実感した。大学院修了時には環境科学・技術の実務家の入り口には到達できているように、講義、実習とも充実する必要があろう。

ゼミ

 物質循環社会における土壌という視点で(1)汚染土の修復、(2)新たな土壌への負荷としての生分解性プラスチックや焼却灰の影響、(3)土自体の産業間循環を取り上げ、卒論や修士研究を指導した。東奔西走の日々だったが、発見の連続であった。以下、その断片。

 汚染土の修復ではカドミウム汚染土を電気化学的手法による修復を研究しているが、京セラ?から提供を受けた太陽電池バネルを電源に活用してオープンキャンパスや湖風祭でデモも行った。担当した院生(佐田)と学生(佐藤)は質問に戸惑ったようだが、これも良い経験だったと思う。まだまだ課題は多いが面白い結果も出ており、今後も一喜一憂しつつ頑張るであろう。夏には富山のイタイイタイ病の神通川流域へカドミウム汚染土の採取に全員で出かけた。現地は一応の対策が進み、イネは黄金色の穂を垂れていた。

 平成14年の夏は暑かった。その中で、研究室総動員で生分解性プラの野外埋設実験。リーダーの院生(川村)はじめ皆、熱中症寸前の状態だった。これで3年間の実験研究材料が仕込めた。並行して室内でも生分解プラの実験を始めた。恒温室の不調と担当学生(枝村)との時間差にハラハラしたりしたが、軌道に乗る。色々と一筋縄ではいかない結果が起こり、謎ときを楽しむ。

 土壌汚染物質に新しくホウ素が加わったが、土中の挙動は解明されていない。土や焼却灰などを用いた基礎的な検討を始めた。測定法を面識のない先生に聞いたり、彦根清掃工場へ試料をもらいに行ったりと担当の院生(鳥飼)は大変だった。私は段取り係り。

 新たな体験は田中君であろう。湖東地区の建設現場の沖積粘土を焼き物に使えないかと奔走。工事現場を探しては、土を集め、彦根で陶芸教室をしておられる武田さんに入門したり、信楽の窯業試験場の方に知恵を授かる。私は時々、運転手を兼ねて同行したが、信楽のタヌキの大歓迎に感激した。

学内委員会等

 ロードが大きかったのは、環境マネージメント委員会。県大でも環境マネージメントシステム(EMS)を構築し、大学の教育、研究、運営に環境配慮、環境管理の視点を導入しようというもの。全学委員会の委員、学部委員、学科の推進役と引き受け、調査方針の策定や環境マネージメント概論の立ち上げ論議。他学部との調整や学部内の先生方への理解要請、また学科内の調査実務。企業での作業手順と異なるので一苦労。大体骨格はできたので、あとは中身を充実させることを期待しよう。

学外委員会

 大変だったのは、学術会議環境工学委員会の地盤環境工学専門委員会。世界的に従来の地盤工学が環境面を取り込んで地盤環境工学に衣替えしている。わが国の地盤環境工学分野で働ける人材育成システムの提案を主な課題とする委員会で、私は委員兼幹事をしている。国内企業、大学を中心にアンケートを行い、海外動向を留学生や海外で活躍する日本人にヒアリング。わかったことは、わが国のこの分野の人材育成体制の立ち遅れである。地盤工学が土木の一分野であるため、環境面で必要な化学、生物、土壌、法律などが教えられていない。大学院教育や社会人教育が特にひどい。学科、学部の壁、工学分野で進む大学評価とのズレも障害である。せめて、環境科学を掲げる当大学では学科や学部の壁はなくしたいものだ。

 材料学会の技術評価委員会は一段落。関西のある会社の掘削土の調整による循環技術を約1年かかって評価。シンプルだが有用な技術と評価した。

発表・執筆

土壌肥料学会全国大会(4月): カドミウム汚染土壌の動電現象による修復

地盤工学会誌10月号: 汚染地盤対策としての地盤改良技術の適用性

セメント新聞: 汚染地盤対策としての地盤改良技術

単行本: 住まいと街を科学する(共著、彰国社、9月刊)


講演等

汚染地盤対策としての地盤改良技術(セメント協会 10月)

土壌汚染の現状と環境分析への期待(大阪環境分析協会15周年記念講演、11月)

パネルディスカッション『建設汚泥のリサイクル』コーディネーター(建設副産物リサイクル会議10周年記念事業、1月)

土壌汚染対策法の施行と建設(滋賀県建築事務所協会定期講演会、2月)

今年度は土壌汚染対策法の成立、施行を受けて、この分野の講師依頼が多かった。