環境科学部フィールドワーク”第一回シンポジウム”の構成

日時: 2002年11月8日(金)(湖風祭初日)

13:10〜17:00

場所: A3-301号 教室

開催趣旨説明 秋山道雄(フィールドワーク委員長) 13:10〜13:40

   

コメンテータ 秋田重誠(環境科学部)、奥野長晴(環境科学部)

来田村實信(工学部)、土屋敦夫(人間文化学部)

各班の総括発表(各5分)

フィールドワークI 座長:井手慎司(環境科学部) 13:40〜14:20

A班  水と生活空間(水原渉)

B班  大中の湖干拓地とその周辺の環境(倉茂好匡)

C班  廃棄物とリサイクル(石川義紀)

D2班 島緑地の環境機能(上田邦夫)

コメンテータからのコメント

休憩 14:20〜14:30

フィールドワークII 座長:上田邦夫(環境科学部) 14:30〜15:40

A班 まちづくりと環境情報(柴田いずみ)

B班 環境負荷の少ない地域づくり (秋山道雄)

C班 地域の自然環境と社会景観(籠谷泰行)

D班 山際空間のフィールドワーク(三谷徹)

E班 植物エネルギーの可能性(野間直彦)

F班 滋賀の有機農業 2002(肥田嘉文)

G班 琵琶湖生態系の環境動態 (丸尾雅啓)

H班 生物生産と環境(沢田裕一)

I班 琵琶湖にやさしい農業を考える(須戸幹)

J班 琵琶湖周辺の自然環境と安全性(小林正実)

コメンテータからのコメント


総合討論 司会:秋山道雄 30分

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総 合 討 論

秋山道雄:  フィールドワーク(以後「FW」)I・IIとも5分という窮屈な発表時間で、語りたいことも語れなかったと思います。それぞれの中身については、もっと時間をかけて検討する機会をもちたいとは思っています。このような時間制約にもかかわらず、皆様に発表時間を厳守いただいたおかげで、時間にゆとりある総合討論を迎えることになりました。

 環境科学部以外の先生も含めたコメンテータより多くの意見をいただいたわけですが、報告者の方々にもこれらのコメントに関して返答しておきたいことがあるかもしれません。そこで、順番にコメントへの返答ないしは自分の語ったことの補足等を手短にやっていただきたく思います。


 

倉茂好匡:  FW-IBグループの倉茂です。先ほど来田村先生から「FWで実施している内容は解らないけど、教育のメソッドのほうは良く解った」という話をいただきました。我々は「大中干拓地でのFW」という形式を取っていますが、これはたまたま対象が大中だっただけのことで、「大中でないとできないようなテーマを考えるのはやめよう。農地さえあれば、いや農地等が無くても場所さえあれば問題発見のトレーニングができるようなやり方を目指そう」という意識を持っているのです。つまり、我々のFWは来田村先生がおっしゃるように「農地の環境問題の発見」を実践していることに他なりません。

 我々のグループの中では、「来年は大中の湖を離れようか」という話も出ております。多くの学生は、元々の地形や地質の違いを念頭におけば問題発見の視点も変るということに気付き始めました。ならばこそ、この点に学生達が気付きやすくなるような場所に思いきって変更しようという議論に発展したわけです。他のグループからも、例えば「学生達が自分達の知識をまとめてそれを発表するだけに終わってしまいがちだ」という指摘がありました。たしか石川先生もそのようにおっしゃっていたと思います。実は数年前に我々も同じ悩みを抱えており、その悩み苦しみの中で4年間、5年間かけて毎年やり方を変えてきました。その中で我々は次のようなことを始めました。1回目の授業で学生達に「既存の資料や教科書に書かれている内容をきれいにまとめたとしよう。その場合、僕達は君らの作業に対して最低の評価しか与えない。既存の知識の羅列だけでは問題解決の価値はなく、自分達の頭で考えたことをベースにまとめないと評価はできないからだ」と宣言してしまうのです。これで学生達の意識はかなり変わりました。

 しかし、いきなりフィールドに連れていってもなかなか問題の発見はできません。そこで2回目の授業でフィールドに行く前の予備的トレーニングとして、1回目の授業でレクチャーした後に、班内でいったい何が問題になりそうなのかを論議させて、では本当にそういうことがありそうなのかどうなのかを大学の周りの農地を1時間半くらい観察させながら検討させました。そのようにして、果たしてそういった「ものの見方」ができるかどうかの感触を持たせてから2回目のフィールドへ連れていくようにしました。こういうやり方により学生達の反応が変わり、2回目のフィールドでいろんなものを見つけるようになりました。そして、最終的に彼らも「あの1回目のプレ調査が非常に良かった」という感想を我々に返してくれるようになりました。

 それからもう一つ考えてきたのは、「いきなりやらせることは止めよう、それからやりっ放しは止めよう」ということです。2回目のフィールド調査から戻った時に、かつては大学へ帰りつくと流れ解散にしていましたが、もう一度班別に集合させて話し合いを持たせるようにしました。流れ解散にしていた頃は、3回目の授業での「まとめの作業」がどうしてもうまくいかなかったからです。2回目授業の調査から帰ってきてもまだ授業時間が1時間あるわけだから、この時間を使って、「来週はどういう内容の発表をするのか、そのためには何を調べておかなくてはならないか」を考えさせたのです。そして必要な場合には直ちに図書情報センターに行かせて調べものをさせるようにしました。このことで3回目授業での「発表準備」にスムーズに取りかかれるようになりました。「プレゼンテーションをする」ということにしても、彼等は全くといっていいほどやり方を知りません。彼等は1回生なのですから知っているはずがないのです。そこでプレゼンテーションの方法について簡単なレクチャーを行うようにしたら、彼等はそのやり方をすぐに飲み込んでくれるようになりました。

 FW-Iでは3回の授業があります。この授業の節目節目に学生に対して何をどういう風に問いかけ、どのようなトレーニングを組み込めば、学生達が問題を発見できるようになり、また議論できるように成長していくのか、この点に僕らはこだわって4、5年過ごしてきたのだと思います。その中でFWのやり方は進化してきた。これだけは解っていただきたいと思います。


 

石川義紀:  特に追加することはあまりありませんが、プレゼンテーションに関しては一応3週目の最初にOHPの作り方を一通り説明するようにしています。そのお陰で、プレゼンテーションそのものに限っては、きちっとまとまった方法でやってくれるようになり、心配することはなさそうです。来田村先生がおっしゃいましたような「くみしやすいテーマをくみしにくいテーマに変えたらどうか」ということですが、それだと困ったことがあります。受講生が全学科全専攻にまたがってますので、あまり細かなというか掘り下げた話というのはやりにくいというところがある。だから、皆がわりと興味を持てるようなというか、取っ付きやすいような内容にならざるを得ないのです。

 もう一点は、3週で完結するという構成を考えた場合、現場視察に重きを置いて2回はそれに費やしたいという事情があります。1回講義を行い、1回現場に行って、最後にプレゼンテーションというやり方をいたしますと現場が1回だけになってしまう。それでは午後全部を費やしたとしてもあまり大したことはできない。やっぱり現場で2回ぐらいはやりたい。となると、プレゼンテーションの時間配分が難しいというところがあります。本音を申しますとですね、リサイクルの視点も含めて、もう少し深く掘り下げて、いわゆるもう少し大学レベルの専門的な話をしたいわけです。


 

上田邦夫:  初めにですね、石川先生が言われましたように私も3回というのは短いような気がします。これまで行ったことのない所に初めていきなり連れていかれて、そこで何か感想を述べよ、あるいは何か発見せよというようなことを言われても、1回生に望むにはかなり高度すぎるんではないかと思います。やはり高卒間もない人たちですからあまり多くを期待することができない、と私は思いますね。私達の班では、最初は題名が「島緑地と環境保全効果」になっていました。環境を良くしているんだというイメージを与えていたのですね。するとそういう内容の発表がどんどん出てくるわけです。「島緑地はいいんだ」とか「島緑地は環境の保全に役立っているんだ」といったような話でまとめてくれる。それではあまりにも安易なのじゃないかという反省があって、「島緑地の環境機能」という題にしました。すると、途端にものすごく難しい話になってしまったようで、発表するのに非常に困ってしまう学生を見受けるようになったわけです。まあしかし、それが狙いだったわけです。困ってもらった方がいいんです。あまりにもシャンシャンでは、あまり頭の方を動かしたことにならないわけです。

 まあそういうことでやってるんですが、その際、初めて森の中に入った人も多いわけでして、その前提としてのメモ書さえもできないという問題が目立ってきました。今後そうしたことにも配慮しなければと思っています。それと関連したことですが、FW-Iでは強制的に学生を割り振っていますから、いろんな学科から集まってくるわけです。来田村先生が言われましたように、例えば森と環境とか農地と環境についていろんな学科の先生が話すということになれば、学生としても自分の学科の先生がいるということで緊張感を持って聞く。それから、学科によって視点が違うということでですが、このことが学生には非常にいいんじゃないですね。別の問題としては、FW-IIがFW-Iと全然つながりがないように、少なくとも学生には映っているかもしれないということをこれから考えていく必要があると思います。疑問を感じている学生にうまく説明できないようでは教育的に好ましくないはずです。今後のグループ分けについては、表題はそのままでサブタイトルを付けて、例えば森と環境の系列に対応するのはFW-Iではこれ、FW-IIではこれとこれというように示したら良いと考えます。FW-Iが終わった時点で、FW-IIの各テーマがの系列に属するのかを学生に示すようにしたら解りやすいのではないのでしょうか。


 

水原 渉:  FWのありかた、内容などについて色々と論点があると思いますが、A班について御指摘を受けた「物性的な話や水の持っているパワー」を説明してないのかという点についてお答えします。毎回ではありませんが、どのようにして多様な物質ができてきたか、酸素などの元素がどうして生成したかといったこと、大きなスケールでは水の比熱が気候を安定させるといった水の特性について話題を提供しております。つまり水というのは生活との関係を中心に非常に多様な扱い方ができるし、そうしなければならない。ただそれを全部やることはできないから、色々とこちらのほうでもメニューを揃えていって、授業毎あるいは年度毎に組み合わせを変えつつ講義をしているというのが第1週です。

 先ほど、1週目と2週目に見学をやっておられるという班の報告がありました。確かにA班でもそうやれば2回の見学でじっくり学習できるのでしょうが、むしろ我々は見学の前に「水と生活」の問題を幅広く学ぶ機会を設け、その課題の中にいかに学生の関心をひき込んでくるかということに力を入れています。

 また見学場所の問題として、比較の視点で複数の場所を見ることを前提として考えておりますが、過去の状態も含め水と生活の関係が特徴的な候補地が意外と限られており、しかも高校出たての学生にとって、目に見える形で水と生活の関係が理解できる場所という意味ではなおさら限られています。どうしても相互に離れた場所を候補とせざる得ない。そうなると現地で動く時間が短くなるという問題もあります。1回目の授業について言えば、午後いっぱい使って一方的に話を聞かせることは学生にとっても退屈な面があるようです。そこで、ビデオを見せるとか「春の小川」の音楽を聞かせるなどして、それらから川の一つの原風景イメージを持ってもらうというようなこともやりました。それなりに苦労をしているところです。一方的にこちらの話を聞かせるのではなしに、例えば自分のこれまでの生活の中での水との関わりを学生に考えてもらい、そこから何か1つの成果を出させるようにするのもいいかなと思います。

 教員構成についてですが、A班では結果的に環境建築デザインの教員に偏ってしまいました。教員人事の関係で、新任者にFW-Iの空いている所に入ってもらうというような配置、他学科の教員が関心のより強い班に移るということがあり、結果的にこのようなまとまりかたになってしまいました。景観という視覚的、感覚的に対象を捉えるという方法によって、総合的、全体論的な認識力を養いながら、画像表現を得意とする建築系の教員の指導のもとで捉えた結果をまとめていくということも大切ですし、あるいは建築系教員のみの構成で徹底させるのも悪くはないと思います。

 全体論的な捉え方を体験してもらうというような考え方をすれば、A班のやり方も分析的視点とは逆に意味があるかなと思っています。プレゼンテーションの中でも、地図とか写真とか絵を活用してその問題状況を体系的に説明していくという大切なことも多少訓練できるので、自己表現力を養う一つの方法として有意義だと思っています。


 

井手慎司:  A班としてのコメントは特にありません。今日のシンポジウム全体を聞いていて、考えさせられたことを少し述べさせていただきます。一つは、皆さんの発表あるいはコメンテーターの方々からのコメントを聞いていて、つくづくこれは価値観の衝突だなと思ったことです。個々の根元的な研究観とか教育観に関わることであり、そういった様々な価値観のぶつかり合いの中でこのFWのあり方を考えていかなければならないのだと思いました。そこから派生的に思いましたことが三点あります。

 一つは、そのぶつかりが面白いと捉えるのならば、このシンポジウムをやって本当によかったということです。開学当初は、結構一生懸命にFWをどうするか考えていたのですが、ここ数年間は恥ずかしながら自分達の班以外、FW全体を振り返って考えるようなことがなかった気がします。それを思い出させてくれたいい機会になりました。惜しむらくは、このシンポジウムに学生の姿が少ないことです。学生に聞かせてやりたかった。他のグループではこんなことをやっているんだということを聞いたら、学生なりに考えるところがあったはず。得られることが多かったと思います。

 それからもう一つは、私自身も含めて、自分達自身を客観的に評価することは難しいということです。皆さん課題も挙げておられましたが、全体的にはいいことばかりを言っておられる。それぞれすばらしい授業をやっていて、FW全体として見たらそれほど問題がないじゃないかということになってしまう。今回は特に他学部の先生方にお出でいただいていますが、やはりこのように他学部からの目であるとか、あるいは学生の評価といった他者評価がどうしても必要になるんじゃないかと思いました。

 その延長線上として、自分達のグループ内部でいろいろ議論して、グループとしてプログラムをいかに進化させていくのか、良くしていくのかということも大切ですが、やはりそこには限界がある。最初に申し上げましたように、そのグループに属している教員の価値観という限界に最後はぶつかってしまう。やっぱり、今ある既存のグループを超えた所での議論をもう一回やらなければ、FWの抱える問題の根本的な解決にはつながらないんじゃないかと思いました。


 

林 昭男:  全体的な感想を述べさせていただきます。今日は参加できて非常によかったと思います。特に土屋先生、来田村先生も参加して下さり、いろいろと有意義なコメントとご提案がいただけましたので、ぜひ反省の機会にしたいと思います。私のグループも、3つの学科の教員が集まって構成されています。私は開学当初から着任しておりまして、FWが非常に重要だと思い、異なる専攻の教員・学生間で学びあうなかで新たな発見があることを期待してきました。混成チームで動くことに意味があると思います。

 しかし、現実はかなり変わってきており、同じ専門領域で編成されているチームが目立ちます。そのためチームとテーマに関して再編成の検討が必要と思われます。今日の発表では、専門領域に特化しているチームの方が内容が具体的でインパクトを感じました。私たちのところは内容的に薄かったように感じ個人的には反省しています。テーマ、チーム編成について教員間の討議を重ねて欲しいと思います。


 

籠谷泰行:  環境FWについての議論は開学当初から随分なされました。FW?とIIのつながりとか、どのようにグループを設定するかについて議論がありましたが、最近は安定化してあまりこういう機会がなかったので、とりあえずとても良かったと思っています。今後どういうふうになるかわかりませんが、これを機会にまた年に1回あるいは例えばオリンピック年にやるとか(笑)、とにかくこういう機会を持つことは重要であると思います。

 環境問題が幅広い領域にわたる問題ということで、幅広い立場からの認識や問題解決を目指す立場が一方であって、同時に専門的に深く解決していかなければならないという立場もあって、両者のせめぎ合いというかバランスというものが難しくて悶々としてきたというところが現状であります。そこが議論の出発点であり、解決に至っていない難しい問題でもあると思っています。

 開学して8年経って、それなりに環境FWも安定化しているわけですが、少し刺激が必要なんじゃないかなという気がします。例えばちょっと大胆な提言ですけれども、グループ再編というか、人の入れ替えみたいなものも大々的にする等の試みを少し考えて、FWを活性化していくことが必要になってくるだろうなと思いますし、一方で理想論ではいかない大変な部分もあると思います。


 

三谷 徹:  奥野先生に評価していただいたFWとワークショップをつなげる形は、とにかく徹底的に学生に話をさせるという姿勢です。これは杉元先生が始められた形式です。ざっくばらんに話を始めると、学生は表面は良かったと言っていても実はよくFWの位置付けが認識できていないということも判ってくるのです。来田村先生や土屋先生の御意見はまさにその通りという感じで耳が痛いところであります。先ほどはFWとワークショップの関係についてだけしか話せなかったのですが、実際うちのグループから出てきた成果品は、科学的な分析からある成果を出すという点から言いますと非常に幼稚なもので終わっています。限られた時間の中でワークショップに入れ込むと、学生が自分で決めて納得したという利点の裏で、大学の2回生がこんなレベルで終わってていいのかなというジレンマは生じているのです。

 それから全体的な感想として、3つの学科の教員が横断的に集まって学生を指導した時、学生が戸惑うということが確かにあると思います。教員がバラバラなこと言って1回生にぶつけるのは酷かなと。むしろ1回生2回生では専門を固めておいて、3回生4回生で横断的なFWを実施することが意味を持ってくるのではないか。そして、大学院レベルでもう一度複数学科の教員が横断的にやったら学生にとっても教員にとっても意味があるのではないかと昔から考えておりました。


 

野間直彦:  私が開学4年目に着任してからはこういう形で他のグループの人と議論をするのが初めてで、この総合討論も含め今日のシンポジウムは非常に意味が大きいかなと思います。例えば「植物エネルギー」でしたら、環境FW-Iでは「エネルギーと環境」といったテーマが必要であるという御指摘を来田村先生からいただきました。その通りだと思います。他の授業と連携しながら学生の興味を誘導するという動きは少し芽生えていますが、より授業全体を貫いたポリシーの上での試みがなされてもいいと思いました。先ほどお話ししたアンケート結果で、「生き物の生息環境が植物エネルギーとどう関わってくるのかといった背景が学生に理解されていないのが残念です」と申しましたが、それは「学生はそのような内容を他の講義で聞いているはずなので残念」という意味です。初めに総論を講義するような時間をとっているのですが、他の授業との関係をもう一度洗い出しした上で、そのような場での話を練り直す必要があると感じました。

 それから奥野先生には評価とプログラム改善の努力をお褒めいただきました。我々のアンケートは終わりに1回やっただけなんですが、やってよかったと考えています。実は、毎回メール形式による小レポートを次の時間までに提出させているのですが、ここに評価に近いことも書かせています。それを、設問を適切にすることで、授業を進行しながら答えが得られるような工夫ができたらいいかなと思いました。


 

肥田嘉文:  今日、自分が準備してきた資料と他の先生方のお話を聞いていて、これまでいかに自分が担当していたテーマだけしか見てきていなかったかを痛感しました。また、この場で一通りのグループの内容を聞かせてもらって、私自身が理解不十分であったFW全体のグループ構成やFW-IとIIのつながり、位置づけを考えるきっかけにもなって、とても良かったと思っています。

 来田村先生の発言にもありましたけど、FW-IとIIのつながりを持たせてFW-IIのテーマを整理するという意見や、担当教員の再編成を行うといった話は、私がいま担当しているような農業を体験する実習について考えてみると難しい面もあると考えています。例えば、農家の方が毎日田んぼや畑に出て作業しておられることを、週1回のしかも半期の実習で取り組もうとした時の学生指導の難しさが挙げられます。また、取り組んだ栽培条件の成果を評価する際、気象条件の影響や栽培に用いた土地の土壌特性が刻々変化するといった前年までの影響も重なり合って、1年単位の評価が実際上非常に難しいことをこれまで経験してきました。

 それを考えますと、いろんな教員が一緒に学際的に取り組んでいく必要性は解るんですけど、私の受け持ってきたテーマに関して言うと、1〜2年のスパンで目的を達成するのは結構難しいかなと感じています。テーマによっては通年で取り組んで、なおかつ4〜5年かかってようやく結果がはっきりしてくるような仕事もあるんじゃないかと思っています。いずれにせよ、今日多くの先生方からいただいた御意見を参考にして、現行のFWのあり方を今後見直していく必要があると考えています。


 

丸尾雅啓:  先ほど、秋田先生から「浄化」という言葉の本当の意味を教えていただきました。ありがとうございました。

 確かにヨシを放っておいても浄化にはなりません。リン、窒素の吸収、要するに固定するということだけで捉えていてはだめで、それ(ヨシ)をどうするかが問題だというお話をいただきましたが、その通りです。

 学生と話をしていると、言葉の使い方とか、用語に関して考えさせられる所があります。「水質」という言葉一つにしても、水がきれいか汚いかを判定する場合に、何をもって「きれい」「汚い」を判断するのかはすごく難しいですね。環境科学部のFWで、環境が良くなる、良くする、折り合いをつける、というような話し合いの場では、言葉の使い方や考え方を大事にするべきであると思いました。

 本題に戻りますけど、籠谷先生が言われたように、FWの構成を一度整理して再編してはどうかと思う時があります。私達Gグループで調査船「はっさか」を主に使わせていただいておりますが、他学科では研究で柴田先生、実習で金木先生が利用されている程度です。琵琶湖の環境動態をみる手法として、例えば環境生態学科では陸水学で使える手法で琵琶湖を見ておりますが、他学科の先生なら別の見方がいろいろあると思います。我こそはと思う方、「はっさか」を使わせろとか同じグループに一緒に入って何かやろうという提案があればありがたいと思います。他学科の学生さんにも加わっていただき、違う分野のいろいろな手法を見てもらった方が、「あ、これはこういうことなんだ」という理解が深まると思います。そういうことでは、Gグループが環境生態学科でかたまっているというのはありがたくないと思っています。FW-IIはだいたい先生の担当できる内容でテーマを与えている所が多いと思うんですけど、私達もその通りで、自分たちのできる手法でものを見てもらおうという形をとっているんですが、時間の制限があって、「計った、捉えた」方式で何が分かるのかということに関して言えば、ほとんど何もわからない。少し予備知識を与えて、実際に測ったデータを解析させて初めて意味があったんだと解るんですね。計測が終わってまとめていき、最後に(自分で)喋ってやっと解ったというところで授業が終わることが多いんです。レポートを見てもそこで終わってしまっているんです。自分達でサンプリングポイントを選ばせ、採集させたりすると、「こういうことが分かるはずだからもう一度やってみたい」という感想がよくある。やはり与えたフィールドが前提にあるんですけど、さらに一歩踏み込んでいこうと。琵琶湖でも集水域でもそうですが、では今度は今までやった手法をどこで使ってみたいのか、それをやったことで何が分かるのかというところまで踏み込む余裕があればなあと感じています。


 

須戸 幹:  先ほど肥田さんが言われたように、僕も農業という点からのコメントです。畦から水が漏れるんですけど、そこに泥水をベタベタと付けて水を漏れないようにする「畦ぬり」と呼ばれる手法があります。県も畦塗り機などを普及させていこうとしております。濁水の調査をするということで田んぼの周りを学生がウロウロしていると、農家の人はやっぱりそれを見ていて、「なんかやっとる、調査しとる」ということで、今年は畦塗りをされている農家がアッという間に増えたというようなことがありました。実際に毎年毎年、人為的な影響が加わるような環境問題というのは対策は取られている、年々対策が施されて成果が上がっていく。それを捉えていくには、やはり1年1年完結する作業を積み重ねていくことにより、施された対策がどのように効いているのかを調べることが大切です。

 今年やっている人はそこまで分かりませんが、何年か後の人はデータの積み重ねによってそれを評価できるという、いわば礎のような調査になると思うんです。環境問題というのは、どちらかというと問題が起こって初めて成り立つような性質の学問だと思うのです。ですから、問題が起こった時の対策をどのようにしたらよいか、それがどういう効果をあげていくかというのをトータルでみていく学問であると思いますから、やはり1年のスパンじゃなくて何年かかけてやることも必要ではないか。我々教員はもう毎年同じ所を見ているからだいたいわかるのですけど、ほとんどの学生にしてみたら田んぼから水が漏れているなんて想像もしていないので、それを実際目で見て、これは何とかしなければならないというような意識が持てるということがありますから、グループによっては何年も続けて同じ所でやった方が良いという感想を持ちます。

 それと、FW-IとIIのつながりですが、今までの議論を聴いてみるとやっぱりIとIIはつながってないと拙いという気がします。特にうちの班のように農業を扱っていても「代掻き」という言葉さえ知らない学生もたまに、というか半分以上いますから、やっぱりFW-Iに「農業」をキーワードとするテーマがあって、それを選んだ学生は原則的にIIでも「農業」で括られているテーマを継続してやるという方向にもっていくのがいいのではないかと思います。ただIは人数をわりと均等にしないとバス利用が難しいなど技術的な問題があると思いますが、それはおいおい解決するとして、将来的にそういう方向にもっていけばいいんじゃないかなという感想を持ちました。


 

小林正実:  本当に今日こういうシンポジウムを企画していただき、参加させていただき、非常にいいお話を聞かせていただいたなあという感想を持ちました。全教員が参加するFW-IとII、またこれに加えてFW-IIIといったこれだけの取り組みをやっている大学は他にはまず無いんじゃないかと思います。また討論の時間にもグループという枠を越えた非常にいいお話がありました。コメンテーターからいろいろお話いただいたことが、私どものレジュメの反省点の1・2番のあたりにも書いてあります。

 学生主体の討論がなかなかできないなど、土屋先生はFW-Iについてのコメントとして人間文化学部で経験されている悩みを言っておられてましたけど、まさにそういうことを私どもも感じております。調査に行ってその後討論しても、なかなか学生の言ったことに対して学生同士のやり取りがなくて、仕方なく教員がそれに対してコメントを加えていく。その対応策として三谷先生のD班ではTAを入れて学生同士の討論を常に活発な方向にもっていくなど他のグループの工夫を聞けて非常に参考になりました。

 ただ2番の担当教員が1学科に偏っているという御指摘についてはやむを得ないところがあるのです。私どもとしましては、ある程度横つなぎの分野である「安全防災」というテーマで何とか立ち上げたかったのです。そもそも福本先生と私が立案し、藤原先生も加わっていただいて3人揃い、あと1人ぐらい何とか防災に関心のある方ということで身内の中で声をかけて、防災についてテーマを固めた経緯があります。学生は毎年10人、多い時は20人ぐらい受講し、その中には生態とか生物資源など他学科からも来ております。そういう他学科の学生さんが持っている知識と我々が持っている知識とは全然違いますから、どのように進めていくのか非常に迷い考えさせられます。けれども他学科の学生・教員の方にはいろんな持ち味がありますから、一緒にやると新しいことが出てくるのだなあと感じました。是非ともそういう方向に持っていきたいとも考えております。


 

来田村

實信:  「環境科学部のカリキュラムはどうあるべきなのか」という理念の問題になりますが、FWのテーマとして自分が教えられるから選ぶ、教えられないから選ばないじゃなくて、何が一番必要なのかということを一度考えておかれてもいいんじゃないかと思います。

 現在、材料科学の方では、開学以来もう7-8年になりますので、学科としてどういう科目が必要であるのかということ、すなわち将来に向けた理想的なカリキュラムの編成作業を行っております。材料にもいろいろな専門の先生がおられますが、誰も教えられない基礎的な科目が必要となった場合どうするのかという話になってきます。

 その場合には、誰かに勉強してもらってその科目を担当していただくという方向で進んでいます。FWにいたしましても何年か経っていますので、この際一度初心に帰って「何を教えられるか」ということではなくて、「何が必要か」ということからもう一度考えていただきますと、案外面白いテーマが見つかるんではないかと思います。

 もう一つ、現在のFW-I〜IIIにおけるテーマのつながり具合が外部の者にとってよく見えてきません。確かにFW-Iで問題提起を行い、FW-IIとIIIでは問題解析・解決を目指しておられるようですが、外部の者から見た場合、テーマの整合性が少し希薄なように感じられます。

 一つの解決案として、FW-Iで得られた問題点をいくつかに整理し、FW-II、IIIを通してそれらを解決していくことにより、一貫した流れの中で環境問題を捉えていくという考えもあるのではと思います。


 

奥野長晴:  端的な御指摘をいただきました。これはまさに大学評価のなかで一番重要視されている問題でもあります。すなわち「環境科学部の教育理念があり、それを達成するための教育目標があり、その目標のなかでFWがどう位置付けされているかを明確にする必要がある」ということになりますね。さらに「FWを履修することにより、学生にどのような能力を身につけさせようと意図しているのかという点に関して学生と教員に共通理解があるのか」との命題でもあると思います。この前半の課題にはいずれFW委員会にご検討いただくことにして、後半については次のように考えるのが良いと思います。

 FW-Iでは「何を発見するかが重要ではなく、どういう方法で問題を発見したか」が重要です。つまりフィールドという“手段”を通じて問題の発見方法を学ぶのがFW-Iの目的です。従ってテーマは何でも良いと思います。どういうテーマでも問題発見の方法を学生が学習するような授業プログラムの作成は可能と思います。それからFW-IIの方でも「何を解決したかが重要ではなく、解決する方法を学生達は身につけたかが重要」であり、「その目的を達成するために、その“手段”としてフィールドがあり、そしてテーマがある」ということです。「目的と手段を取り違えるな」ということを強調しておきます。来田村先生が「初心に帰れ」と言われたことはまさにそういう点であろうかと思います。

 先ほど三谷先生がおっしゃられましたように、確かに学生達がフィールドで発見したことは幼稚ですし、解決も極めて稚劣でしょう。しかしながら、一方で彼らは問題発見の方法を身に付けた、あるいは解決の手法を身に付けたと思います。そこに価値を置くならば、たとえ学生が提出した成果物が幼稚でも、このFWは教育目的を十分達成したと考えて良いはずです。「環境科学部は何を欲しいか考えろ」との来田村先生のコメントに対しては、「問題発見の方法と解決の方法を学習することが重要と考えてFWを授業に組み込んでいます」がその答えです。


 

金尾滋史(環境動態専攻M1):  5年前からFW-I、II、IIIを履修してきました。こういうシンポジウムが第1回というのは寂しいなあ、なぜもっと早くにやってもらえなかったのかなあという気持ちが正直あります。僕の中でFW-I、II、IIIがこういう目的であり、各テーマがこういう目的をもってやっていたのだということがやっと今日分かった、それが率直な意見です。

 先ほどからいろいろな意見がありましたが、FW-Iというのは、僕の3年間での経験でいうと自動車学校の技能教習みたいなものなんだなと思っています。普通の講議は先生が1人、学生が十数名という学課教習の形がほとんどですけど、FWに関しては技能教習みたいなもので場合によっては1対1になれる。そんな中で最初は誰だってマニュアル車を運転しようと思ってもエンストをします。うまくいかないんです。それはしょうがないことで、学生同士でそれをどんどん積み重ねていくことでキャリアを積んで、身に付けていく。そうすることで、先ほど奥野先生が言われた「方法を学んでいく」ことにつながっていくんじゃないかなと思います。

 もう1つ、これは個人的な楽しみという事もあるんですけど、FWというのは環境科学部の中で唯一存在する真のオムニバス授業ではないかと思っています。昔の話を聞くと、オムニバスとは本当に先生2人が教壇に立ち、時には喧嘩までするという話を聞いた事があるんです。2人以上の先生が同時に講義をするいわゆる形式の授業は、少なくともFW以外には今のところ環境科学部にはないのではないでしょうか。そういった意味では、FWの授業中に先生同士の議論もある程度やってもらってもいいんじゃないかなと思っています。そういうことをやることで、学生が高校までの授業、つまり先生の話をただ聞き、黒板に書かれた事をただ写すという授業から脱皮することができ、自分で疑問を見つけ、自分で解決の糸口を探すといった授業に展開できるのでしょう。かつ、いろんな専門の先生達から意見を聞くことで学科間の考え方の違いも分かると思います。生物資源に入ってきても、建築の先生が担当されているFWを受講すれば、「ああ先生はこういう考え方を持っているんだ」「自分と違うんだ」と価値観の違いというのが初歩の段階(1回生)でも学べるんじゃないかなと思いました。

 これからのFWに僕個人からいくつか望むものがあります。FWのテーマ変更に際して、例えば「リクエストFW」のように、FW-Iが終わった時点で1回生達に次のFWで何がやりたいというのを訊いた後で、次年度のテーマを先生に決めてもらうという機会を作るのはいかがでしょうか?先生方がこういうのをしたいというのではなく、学生のニーズにあわせたFWというのもこれからは必要なんじゃないかなと。それに合わせて、各テーマにおいて優、良、可(まあ不可もアリかもしれませんが)といった成績を学生が自分達で付けても良いのではないかと思います。学生自身が判断して、このFWはどうだったのかというのを考えていくことが、今後の先生方の進歩というか、これからの授業の改善にもつながるのではないかと思っています。

 一番最後に僕が言いたいことは、この大学では先生が「育てる」のではなくて、人が「育つ」大学だ、というのが理念となっているはずです。このようなFWという特殊な授業形態を通じて、学生をうまく育てるような仕掛けを学科の授業と併せて作っていってもらえたらと個人的に思っています。


 

土屋敦夫:  FWのAからJまでのテーマを見ますと、それぞれの専門の先生が、自分の専門の領域で、しかも自分なりの方法論でもって学生を育てる、そういうことが念頭にある思います。そのようなテーマばかりではなく、誰も関係のない、中間領域みたいなフィールドや、先生も分からないけど学生と一緒にやってみようかというようなテーマが出てくれば面白いんじゃないかなと思います。


 ここに挙げられているFWの中で、琵琶湖にやさしい農業を考えるとか、濁水問題とか、外来魚の有効利用グループとかいうのがあるんですが、おそらく濁水問題グループというのは農業のなかではあまり問題にされていないんじゃないかと思うんですよね。それから外来魚の有効利用というのも農業レベルでは全然素人っぽい問題提起ですよね。そして今の院生さんの指摘にもあったように、フィールドで誰がやったらいいのか分からないような、誰も専門じゃないようなテーマを学生と一緒に考えていくというようなストーリーがあっても面白いんじゃないかなと思います。


 

秋山道雄:  先ほどの院生の発言に補足しておきますと、学生がやりたいテーマを立てるということは現在でも可能です。既にその実績もあります。最初、学生から自分たちが企画したFWをやりたいという申し出があった時には、FW0という形でやってもらいました。自主企画をFWと認定する体制ができているわけです。現在FWIIIは選択制になっていますが、この中でFW0的なものを行なうのは可能ですので、もし学生の中でこういうテーマでFWをやりたいという希望があれば、ぜひ積極的に立ててほしいと思います。

 

秋田重誠:  私としましてもこのシンポジウムがどういうふうに進行されるのかなと気になっておりました。今日のシンポジウムの目的というのが何だったんだろうかという所をもう少ししぼれば良かったんじゃないかなと思いました。

 といいますのは、FW全体の構成なり目的は先ほど奥野先生が解説して下さったようにだんだん最後になってくると分かるんですけど、特に外部の先生に来ていただいている以上、本来なら最初に全体の報告みたいな話が少しあってから、このシンポジウムが環境科学部におけるFW改善のための場なのか、あるいはFWの中でこんなにおもしろい業績が出たというアピールするための場なのかという内訳がはっきりしていた方が良かったのではないかということです。FW委員会の方の非常な御協力もいただいて、結果的にいい内容のシンポジウムであったと思いますけれども、今後の反省点として、そこら辺に何か一つ欲しかったなと。

 それからもう一つ、おぼろげながら分かってきた気がするんですけど、環境学という学問にどうやってアプローチするかといった時に、私自身はやはり関わる人間が各々の専門分野のエキスパートであるべきだと考えております。大事なことは、そういう人たちが自分の専門分野の枠から気やすく出てくるということです。

 今までの多くの大学教官のように象牙の塔に閉じこもっているのではなく、やはり環境科学に携わる人間である以上は、外に気やすく出てくるというのが要件になると思います。FWに対して、1年生は把握、2年では理解、3年では解決のような現在の了解点があろうかと思いますが、これにとらわれることなく、この機会にFWのあり方を見直しても良いのではないでしょうか。


 

秋山道雄:  今日、こういうシンポジウムをFW委員会が設定したのは、先ほど秋田先生の御意見の中にもありましたように、FWの改善をやっていくというのが大きな目的です。それと、ここ数年間はこうした総括のシンポジウムをやっていなかったので、お互いの情報交換すら不十分であったということもシンポを企画した理由です。

 今日は久しぶりに情報交換ができ、いろいろ改善点も出てきたのは結構なことでした。他学部からコメンテータの方にわざわざおいでいただいて貴重な御意見をいただきました。これから我々がFWをどう改善していくかという課題に取り組む際に、いろいろ手がかりとなるお話だったと思います。それでは、このあたりでシンポジウムを終了といたします。会場の皆さん、遅くまで討論に参加いただきありがとうございました。