この一年

環境計画学科 環境・建築デザイン専攻

建築計画大講座

林昭男

 私にとって2002年は、この大学に籍をおく最後の年でした。8年間、この大学に在籍し、お世話になった教職員の方々に感謝したいと思います。また、この間に接した学生諸君とのさまざまな思い出は、これからの私の暮らしのなかで永く生き続けていくだろうと思います。

 今年の大きな出来事は、内井昭蔵さんが亡くなられたことです。大学の同窓で、今和次郎・今井兼次・吉阪隆正という諸先生のもとで共に学び、以来およそ50年近くの交遊が続いていただけに残念で胸が痛みます。滋賀県立大学が設立されるに当たり、私を招いてくれたのも内井さんでした。よき友として、また絶えず身近かで刺激を与えてくれた人でした。心から感謝して、哀悼の意を表します。

 今年は、以前と異なり慌しい1年でした。欠かすことのなかったUIA(国際建築家連合)大会(ベルリン)・JIA(日本建築家協会)大会(沖縄)にも参加できませんでした。5年前から企画していた小著「サスティナブル建築」−持続可能な社会に向かう建築の道筋−の原稿がなかなか進まないこと、東京の自宅の新築など気を離せないことが重なったせいでもありました。

 今年の成果のひとつは、5年間、同じテーマで続けてきた“環境フィールドワーク?”「環境負荷の少ない地域づくり」に関して、フィールドワークの現地、守山で平成14年度・滋賀県立大学移動公開講座として市民を集めて報告会とシンポジウムが開かれたことです。(平成14年12月8日・Riseville都賀山)市民参加のシンポジウムは、当初、発言が少なくて低調になるのではないかと不安がありましたが、極めて活溌で時間が不足するほどでした。フィールドワーク5年間の節目で漸くひとつの仕事をなしとげることができたと思います。私たちのグループは、教員の構成がひとつの学科に片寄らなかったことが何よりも良かったと思います。テーマにもよりますが、このことはフィールドワークの原則として重要なことだと思います。そして、学習の場を大学の外に求めてゆくことを積極的に行うべきです。フィールドワークという教科のみでなく、他の教科についてもキャンパスを出て現場で学ぶ機会を多く採り入れていくべきだと考えます。キャンパスの外に教材や教師が多くいることを活用するということです。

 この1年の出来事として特筆したいのは、私の研究室の院生・南政宏君と迫田研究室の森山正二郎君が共同で応募した京町屋の学生を対象としたアイディアコンペに見事、最優秀作品として選ばれたことです。このコンペは、学生のアイディアを実現化してくれるコンペとして人気の高いものです。350点に及ぶ応募作品のなかから選ばれたことは快挙というべきです。2002年8月から現場がはじまり、2003年2月はじめには完成という現場スケジュールのなか、全くはじめての現場のドロドロとした状況のなかで悪戦苦闘の連続でした。入選者2人にとっては厳しい試練でしたが、得たものも多かったに違いないと思います。

 後期になって、新しく加わった私のゼミ生(3回生)6名が、学生を対象とした国際コンペ“貧しい人びとのためのハウジング”に応募しました。たどたどしいチームワークでしたが作品を完成させたことも記憶に残ります。これは、日雇労働者の集まる大阪・釜ヶ崎の再生プロジェクトでした。このコンペには、他に2チームが参加しましたが、限られた時間内にチームワークで競いあうことの成果は、貴重なものです。これからの滋賀県立大学を考えるとき、学生を鼓舞して学習を支援し、国の内外にその成果を問いかけて行くことが必要だと思います。そのことの積み重ねのなかから滋賀県立大学の存在が社会に定着して行くものと思います。紙数が尽きましたが、「木匠塾」(川上村)・エコ村ネットワーキングの勉強会・JIA環境建築賞の審査・琵琶湖畔に立つ“滋賀21会館”(PFI事業)の審査などがこの1年の主な記録としてあげられます。