私のこの一年

環境計画学科 環境・建築デザイン専攻

建築計画大講座

福本和正

 今年は、1年前に準備で忙しかった結果が、目に見える形で現われて来たという1年であった。主なものを列挙すると、下記のとおりである:

(1)甲賀町で予定していた、4間取り茅葺き木造民家の現地調査で、必要な人数や費用がどういう結果になるか不安であったが、何とか解決できた。人手不足の問題から、1年半前にたまたま京大の西澤先生に声をかけたところ、同時に申請した萌芽期の特別研究費も採択され、(社)滋賀県住宅センターからの研究奨励金の内、当方の分配金と合わせ、ちょうど現地計測と解体費を充当できた。

 補足として、西澤先生と同じ立場から伝統建築物の地震時の強度や振動特性を研究している東京都立大の藤田先生の参加と公開実験、およびNHKによる取材と放送にまでエスカレートした。

 歪みゲージを350枚程、柱や梁、鴨居、桁に貼りまくった試験も他にあまり例がないが、その結果の解析には、8月の試験後4ヶ月を要し、ほぼ完了しつつある。解析に使用する基礎として、「建築デザイン専攻」では2回生前期でマスターできているはずの「構造力学I」で十分であるが、中間発表で曲げモ・メントやせん断力図を見せたのが悪かったのか、調査対象の家屋が150年程経過した茅葺きの民家が地味すぎたのか、直後のゼミ振り分けで、志望の3回生が1人しかいなかったのは残念なことである。このような地味な研究を敬遠されると、今後は本学だけではできず、他大学との共同がますます必要になって來る思いがする。

(2)近江八幡の大中干拓地で計画された木造保育園の構造について相談が持ちこまれたのは、2001年の9月であった。これは、木造で延べ面積が500m2を越えるので、構造計算が必要になったためと思われる。

 ちょうどその時のゼミの学生にも、参考になる対象であったので、いろいろ考えてもらっている内に、卒業論文や修士論文の締め切りが近づき、最終的には、構造計算書は自分1人でまとめざるを得なくなり、近江八幡市役所の担当者に説明に行ったり、8月の盆頃の猛暑の中で地盤調査をする羽目になり、苦しい思いをした。

 しかし、2002年の秋に建設が始まり、木造としては個人住宅の3?4軒分の面積のものが一斉に建上がるのを見ると壮観であった。

 特に、梁の水平長として10m近い長さとなる集会場の屋根として、10m未満の材を使用して、形状的にも、力学的にも興味のある折版を提案して採用され、それが実際に造られて行く状況も見ることができ、参考になった。

(3)京都市内の建て売り欠陥住宅の、大阪高等裁判所への上訴に当り、その構造計算書と現況の欠陥調査結果を見て、意見書を書くように弁護士会から頼まれ、忙しい思いをしたのであるが、勝訴となり安堵している。

(4)今年度は、学外での特別講義や講演の担当も4件巡ってきた。2002年10月の八幡工業高校での特別講義、11月の県教育委員会主催の「淡海生涯カレッジ」、12月の滋賀県農業共済組合主催の「第32回近畿地区建物/農機具共済推進研修会」、2003年2月の「建築士のための国土交通大臣・滋賀県知事指定講習会」等で、地震関連以外に最近の社会、経済情勢の本腰を入れた勉強も必要であった。

(5)学会での発表は下記のとおりである:1)源田、岡本、藤原、福本、小林:木造免震棟の試作と基本動特性、日本建築学会近畿支部研究報告集365-368、2002年6月. 2)福本、小林、中野:木造建築物の柱・梁仕口部の面外水平耐力に関する研究、日本建築学会大会学術講演梗概集(北陸)、C-1、構造III 91-92、2002年8月.