私のこの一年

環境生態学科

水圏環境大講座

伴修平

 今年は、2月にまた南極海へ調査に行った。国立極地研究所では今年度から5カ年計画で、南極海の物理・化学・生物環境を詳細に調査するプロジェクトを始めることになった。これまでは、昭和基地へ物資を輸送する途中に海洋観測を続けてきたが、これでは充分な観測ができないジレンマがあった。これを解消すべく新たにニュージーランドの観測船を傭船し、また日本の観測船(東大の白鳳丸)も同時に稼働させることによって夏期間(11月から2月)に集中観測を行うことになったのである。生物班の主な目的は、夏期間における低次生産の経時変化を詳細に記述することと、DMS(雲の殻となる)の生産と植物プランクトンの関係を調査することであったが、私は動物プランクトンに与える紫外線の影響を評価する目的で乗船した。乗船期間は2月6日から3月6日までの1ヶ月間。しかし観測点に到達するまで往復2週間を要するため、実際に観測できたのは2週間であった。

 あいにくの悪天候に悩まされ、常に揺動する船上での作業は骨の折れるものだったが、予定していた観測はほとんど消化することができ、私自身の実験も2回行うことができた。私の実験は、2種の動物プランクトン(南極オキアミとケンミジンコの仲間)を太陽光紫外線に暴露したときの死亡率を見ることであった。プランクトンネットで採集した動物プランクトンを海水を満たした石英ガラス瓶(紫外線を良く透過する;ちなみに普通のガラスでは短波長域のいわゆるUV-Bはほとんど透過しない)に入れ、UVカットフィルタで覆ったものと覆わなかったものを設置し、これらの間で死亡率を比較するのである。結果は驚くほどクリアで、UVカットフィルタで覆っておくと実験を行った1週間の間、ほとんどの実験個体が死亡しないのに対して、UVに曝されていた個体は数日中に半数が、そして1週間目にはほとんど全ての個体が死滅してしまった。一般にUVは海中では急激にその強度を減ずることが分かっている。したがって、多くの海洋生物は紫外線耐性を備えていない場合が多い。しかし、よく調べてみると水深20mくらいまでは海表面での1/10程度のUV強度が観測されるため、プランクトンが受動的に表面近くまで運ばれてしまった場合は死亡率に寄与するUV影響は意外と高いものになるのかもしれない。さらに、近年は初夏(もちろん南極の)にオゾンホールができるため、このような低次生産者に与えるUVの影響は無視できないものになっているかもしれない。今後のさらなる調査が急がれるべきだろう。

 7月には第8回国際かいあし類会議で研究発表するため台湾の基隆市にある国立台湾海洋大学に1週間滞在した。会議自体は極めて充実したものであったが、初めての台湾は、ちょうど高度経済成長期の日本を思わせる急速な開発の後がいたるところに見られ、所狭しと通された高速道路には自動車があふれ、また河川は汚染されて、痛々しくさえ見えた。日本の轍を踏まないでほしいと願って台北を後にした。11月には「珪藻とかいあし類の関係」に関するワークショップに参加するためナポリへ発った。珪藻は長い間「海の牧草」といわれ、かいあし類にとって重要な餌藻類であると考えられていたが、この10年間にこれが単なる神話であり、珪藻にはかいあし類の卵生産を阻害する物質さえ含まれる可能性のある調査報告が相次ぎ、このたび欧米と日本から関係する研究者38名が集まって今後の研究方針について検討することになったのだった。

 本学に来てようやく1年と8ヶ月が過ぎ、今年は学生達と一緒に琵琶湖での調査もなんとかこなすことができた。もうすぐ今年1年間の琵琶湖北湖での動・植物プランクトンの動態を示すことができる予定である。さあ、これからという感じでしょうか。