環境毒性の国際標準試験法の開発

環境生態学科

水圏環境大講座

安野正之

 毎年5月パリのOECDで標準生物試験法についての会議がおこなわれている。化学物質の毒性について調べる目的で国毎にそれぞれの試験法を用いている。それを統一して世界共通の試験法を確立することを目指している。 それぞれの国が独自の試験法を開発して用いてきたことはやむおえないが、今後同じ生物をもちいて同じ方法で化学物質の生物への影響評価をしようとするものである。

 底生動物を用いる試験ではヨーロッパのユスリカが使われることに決定されようとしたが、日本では日本の種類(属は同じ)を使う事を強く主張し、これまでの実績等を示して認めさせた。試験法自体は共通なので、結果に大きな違いは出ないと考えている。環境中の化学物質の影響を考慮すると、水中に生息する魚や動物プランクトン及び植物プランクトンとともに、底質中に生息する生物を対象とする試験も考慮しなければならない。この生物以前に魚を対象とする試験法についても、日本で使用されているメダカを試験用として認めさせる努力をした。その後各国でメダカを使用するようになってきている。ただしメダカといわずKilee fish と呼んで用いているのでMedaka と機会ある毎に訂正している。最近はJapanese Medaka とわざわざことわって使う人も出てきている。メダカはアジアに幾つかの種がいるので、このほうが正しいが、試験(実験)用として用いられているのは日本のメダカでOryzias latipes と学名を記せば間違える事はない。

 最近アメリカは試験生物として海水に生息するアミを推奨している。アメリカの環境保保護庁では最も普通に使われている。アメリカ沿岸には5種類が生息しているとのことである。膨大な資料がメールで送られてきた。日本にもアミは生息しているが、生物試験用には使われていない。試験に海水を用いなければならないことも躊躇する理由である。別の観点からすれば、日本は海に囲まれているから、海の生物を用いる試験法を取り入れなければならないのかも知れない。環境調査では海水も魚も対象となっており、汚染の状況は調べられている。

 これから問題になるであろう標準試験法の生物は陸上の生物についてである。これまでも蜜蜂やミミズが候補になったが、実際にとりあげる段階にきていなかった。これを標準試験生物とすると、どの研究/調査機関でも行えるというわけに行かなくなるかも知れない。蜜蜂は背中にマイクロシリンジで液を1滴落とすことで処理をする。しかし蜜蜂を飼育することから始めねばならない。

 現在OECDの化学物質の生物影響試験法として藻類、ミジンコ の試験法は普通に使われている。これにウキクサ(Lemna minor)が加わったが、陸上の植物を試験に加える事を検討している。OECD加盟各国から上げられた種類の合計は數十種をこえ、まだ決まるには至らない。日本国内でこの問題を取りあげて、実際に試行してみるべきだと思うが、なかなか試験研究をしようとする動きがない。

 ミミズについても同じ事が言える。私自身もこれらについての経験がないことから積極的に主張することができないでいる。