生涯学習のあり方をめぐって

土屋正春

環境計画学科社会計画専攻

環境政治経済大講座

1 「淡海生涯カレッジ」、構成と内容

  ここでは、これまで数年間調整役を続けてきた「淡海生涯カレッジ」について考えてみることにしたい。 これからは生涯学習の時代だとはよく耳にするのだが、そうした掛け声はともかく、実際の運営の難しさは行政関係者の間で閉ざされがちなため、なかなか多角的な改善策についての展望が得られないままできている。理論と実践とのずれがあることを承知の上で、さらに多くの生涯教育や生涯学習の推進プログラムが計画中であるという現実を考えれば問題は深刻だといえる。 「淡海生涯カレッジ」は滋賀県の教育委員会が主催する学習プログラムで、その特徴は「公民館」と「県立高等学校」と「大学」との連携を組むことにある。それぞれが5回シリーズとして実施される「問題発見講座」、同じく5回シリーズで実施される「実験実習講座」、8回ないし10回で構成される大学での「理論学習講座」という3系列の学習プログラムを段階的に分担することにより、年間の総合テーマが有効に学習されるように構成されている。 公民館で問題発見講座はどちらかと言えば入門講座的な性格がつよく、川に入って石についている虫を調べたりし、これに続く高等学校での実験実習講座は、顕微鏡でプランクトンを調べたり、街並みの作られ方についての観察調査など、実際的な指導の下で理論的に整理された形で確認をするというものである。そして最後の理論学習講座は大学教員の協力を得て、その年度の総合テーマに関する学習を講義形式で行うものである。

2 受講生の評価と課題

 ちなみに受講生の間における評判は、高等学校での実験実習講座が最も高く、大学における理論学習講座がいつも低い。高い理由は日常的ではない体験ができることにあり、低い理由は一方通行的な内容にある、というのが関係者の共通した理解であると言える。しかし、全体として受講生による満足度は高い。そのテーマに関心のある人々が集まっているからであろう。 こうした組織の組み立てを見ていくと問題点が何なのか容易には現れてこないが、隠れている典型的な問題は、たとえば、受講者の問題意識やこれまでの学習レベルが千差万別であることが挙げられる。入学試験のようなことはできないので、一定レベルの学力を想定した学習計画を作ることがまず不可能なのである。ここに由来して生じる次の問題が学習内容の難易をめぐる不満であることはすぐに気がつくことである。この問題は言わば話し手と聞き手との関係として考えることができ、解決には講座構成の複線化を図るなどの措置が必要となろう。これとは別に行政側が仕掛けていることに由来する典型的な問題もまた現れてきている。要するに「しやすいことをする」ことがそれである。公民館、県立高校、大学、という参加主体を通じて取り組みやすいテーマが選ばれ、しかもその同一テーマがずっと継続するという事態を招いている。こうなると現に継続している「環境」というテーマと同様に重要であることが疑いない「高齢化社会」や「男女共生」というようなテーマは取り上げられないままになる。たとえば高等学校が正面から取り組みにくいテーマは除かれてしまうことになるのだ。こうした問題を考える上で配慮が必要なのは、地域住民が何を学びたいのかに出来るだけ正確に対応すべきということだ。環境問題への関心層ばかりが住民サービスの対象であり続けるのは不合理なことで、行政の都合を優先させる限り本質的な改善は実現しないだろう。 地域連携は始まったばかりで一層の多角的な工夫が必要なのは間違いのないところである。