「ちーむはっけい」〜社会資本としての集住体の研究〜

白枝 伸

大学院環境計画学専攻 環境意匠コース

 "ちーむはっけい"の始まりは、ひとりの建築家がまとめたテキスト「社会資本としての都市住宅構想」に対して、学生の今日的視点からどんな重ね書きができるのかを共通テーマとした、横浜国立大学・近畿大学大阪/広島など、15の複数大学からなるワークショップに参加したことにある。1回生から大学院2回生までの各学年から数名が自主的に集まって成るこの"ちーむ"は、琵琶湖に接する大学であること、個性を生かしながらもチームワークを尊重していくことなどを誓って、それぞれの個性がひとつの目的に向かう里見八犬伝や近江八景になぞらえて"ちーむはっけい"と名付られている。一昨年春、神奈川大学で行われたセッションへの参加を皮切りに本格始動し、勉強会、集合住宅の見学と経験を重ねつつある。今日では我々の立地を生かし彦根市や大学周辺の集落をフィールドワークし、負の遺産を再構築していく都市型でも高密度でもない、ここ琵琶湖のある農村風景を背景にしたところでの「社会資本」とは何かという問いを含めた「集まって住む」ということへの提案を模索している。

 当初8名から始まったこの活動も、巣立っていく学生を見送りながら、また新たな学生を迎えつつ現在では15名が所属しており、一貫して「時代とともに変遷していく社会資本としての集合住宅あるいは集住体」をテーマとして研究している。そんなロングスパンで行うこの活動であるからこそ、学年を貫いた縦割りの体制は必要不可欠であり、また、先輩後輩の関係は互いにとって大いに有意義なものになっていると思われる。後輩は先輩から知識や経験を学び、上級生は後輩から忘れていたことを再確認することもできる。将来的には、建築を専攻する学生のみならず、学科、学部の枠さえも乗り越えた、コラボレーションを通した多面的な"ちーむ"となっていければと思っている。

 具体的な活動としては、集住についての資料・事例などを収集・調査し、それらを持ち寄り勉強会を行っている。文献からでは得られない情報、知識は実際に見学に行き、自分達の目で肌でその空間を体験する。これまでに、長野県長野市の「今井ニュータウン」や岐阜県北方町の「岐阜県営住宅 ハイタウン北方」などの話題性のある集合住宅を見学した。

 そして私達が研究を進めていく上で最も重要な活動として集落調査がある。活動1年目は、大学の近くにある集落「開出今町」をピックアップし、「風景」をキーワードにフィールドワークを試みた。2年目は前年度の活動で得たことを生かしつつ、彦根市にある集落(八坂、薩摩、下石寺、出路、小野、鳥居本・・・)を回り、地域ごと(湖岸、田園、川沿い、街道沿い、山際)の集住する形態の比較検討を試みている。

 また、活動を通しての成果を、建築文化などの紙面上で紹介しているほか、昨年は京都造形大学ユニットとのセッションを行った。集落調査を通しての出会いから、鳥居本町にある民家の再生に参加させてもらうこともできた。現在は活動で得た成果を参考に、「すまい・まちづくり設計競技」に参加し、はっけいの考える都市における集住の提案を行おうと試行錯誤をしている最中だ。今後も、他大学とのセッションや展示会、地元集落での発表、意見交換など、外交的な活動も行っていきたいと考えている。

 活動を通して徐々にではあるが、自分に興味あるテーマを見つけだし、卒業論文や設計、修士論文・設計とリンクさせる学生も出てきている。各々の自主性を尊重し、チームワークから得られた成果を自分のテーマと関係付け発展させていってくれることはとても嬉しいことだと思う。ただ漠然とした学生生活ではなく、自分自身のテーマなりを持ち、身の回りのあらゆることにアンテナを張り日常の当たり前なことに疑問を感じ、新たな発見をし学んでいくことが、自分自身のテーマの次なるステップアップになると思う。その個人のステップアップは"ちーむはっけい"にとってのステップアップへと繋がる。

 "ちーむ"発足3年目となるこの春、私達は多分終わることのないこのテーマのもとに、「集まって住む」ことへの新たな提案を模索し続ける。

連絡先:環境計画学科/松岡拓公雄研究室

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