環境生態学科この一年

安 野 正 之

2月にメルボルンの国際陸水学会に参加、空港から会場の大学まで直行、学生寮に宿泊し、帰りも空港へ直行。大学は市街地から離れているのでメルボルンの町を見る事なく帰着した。主催者の企画した郊外へのバス旅行に参加したので、3度目のオオストラリア行き(以前はシドニー)も悪くはなかった。

5月はパリで生物試験法の会議に出席。10年以上日本の代表を勤めている。

11月はベルンでのOECDのSIAM13回目の会議、もうそろそろ代表を交代するはずであった。化学物質の環境影響、健康影響に関する会議で、この会議から企業が参加して直接レポートすることになった。出発直前に日本の企業の人たちから質問しないでくださいと云われ驚いた。もちろん他の国の報告にたいしてのみ疑問を呈したり、間違いを訂正したりした(此の場合は感謝された)。



荻 野 和 彦

地域が元気だ−第9回世界湖沼会議の収穫

2001年11月、第9回世界湖沼会議が琵琶湖に里帰りして開かれた。この機会にわれわれは水をめぐる「文化と産業」をテーマのひとつに取り上げる必要があると考えた。これまでの湖沼会議にはなかった視点である。

「文化」と「自然」の「全体統合」を捉えるということは、今回、はっきり人々の意識にのぼったところであった。基調講演でも「湖沼、特に琵琶湖は人の生活と自然の複合体として進化してきた(川那部浩哉)」、「様々な役割を担っている人々のパートナーシップ(カトレイ-カールソン)」、「人の環境や資源としての生態系研究の必要(アブドゥル・ザクリ)」など、「人は自然と一体となった存在である」という見方が強調された。

 第1分科会は「文化と産業の歩み」をテーマとして、水の文化、産業界の役割を論議した。たいへん興味深い話題が提供されたが、そのなかで特に筆者の興味がそそられた話題を紹介したい。

それは対照的な産業界からの発言である。ひとつは世界戦略を持った企業、いわゆる大企業である。地球環境問題、資源化、グローバル化などをキーワードとして、循環型社会の形成を目指して静脈型産業の育成を指向するという。経済の論理の優先した動脈型産業を目指してきた20世紀の産業界の威勢のよさに翳りが見えたと感じたのは筆者のみではなかったろう。

これに対して琵琶湖に立地した企業はもっと自前のことばで語った。商品、製品の過剰包装は環境にやさしくないと語るパッケージ産業。自己否定を避けていたらほんとの発展はないと言い切った。原材料は一次産業に依存しているのだから、畑、田んぼを持ってないと自然が見えなくなるという和菓子製造業。経済情勢の厳しい、このご時世に、すこしもへこたれていない。足元がしっかり見えている。地方文化に根ざした企業が、環境との共生を企業精神の基盤に据えながら、元気に活動している姿に、思わず拍手喝采であった。

「人は自然に対して謙虚でなければならない。自然を虚心に学ぶことができる人が創り出す文化は強靭な個性を持っている」というのが大きく、力強い収穫であった。



伏 見 碩 二

水資源環境の激動時代をむかえて

昨年の8月から11月にかけて、シベリア・モンゴル・中国・ネパール・インドをかけ足で調査しました。内陸アジアの永久凍土や氷河がとけだし、湖が拡大している実態と課題をさぐるためです。ネパールでは氷河湖の決壊による洪水災害がおこっています。湖をせきとめている氷河堆積物が増大する湖水をささえきれなくなっているからです。モンゴルではフブスグル湖岸の森林や町が水没しています。原因は地球温暖化のほかに、人為的な森林火災が影響していることが分りました。シカなどを追いだしてとるために火をつけるからです。森林がなくなると、太陽が直接地面をあたため永久凍土をとかすのです。

永久凍土や氷河は、地球の氷河時代に長い時間かかって形成された氷としての水資源です。それらの貴重な水資源が、温暖化がすすむ地球環境のもとでは再涵養される見こみがないままに、たれ流しされているのが実態です。現在は、とけ水によって湖が拡大していますが、将来は貴重な氷としての水資源の元が少なくなリ、湖が枯れていくことを考えずにはいられません。そのことはまた、内陸アジアに源をもつ黄河・揚子江・メコン河・ガンジス河・インダス河・アムダリア河・シルダリア河・オビ河・エニセイ河・レナ河などのアジアの大河下流部の大都市に水資源問題をひきおこします。とくに南アジアは人口増加問題が追いうちをかけることでしょう。まさに、自然・社会環境は水資源の激動時代を迎えるのです。

例のニューヨークの9月11日事件を知ったのは中国を旅している時でした。11月のネパールでは国家非常事態宣言が発令されました。まさに、内外ともに、自然・社会環境の激動の1年でしたが、21世紀のアジアの自然環境を展望しながら、今年こそ、良い年に向かっていくこと期待したいと思います。




國 松 孝 男

教 育

授 業 担当科目には変更はなく、京都府立大学人間環境学部環境情報科学科での水質保全論(夏期集中)も継続して担当した。本年度の新たな試みは、2,3回生を対象にした自然環境特別実習I,IIを日本水環境学会のノンポイント研究員会農林地部会(部会長國松)が8月5−8日に主催した「ワークショップinサロベツ」に参加するメニューで臨んだことである。2回生5人(蔵田,清水,田中,橋本,巳波),3回生2人(宗石,安藤)の計7人が現地集合で参加し,若手研究者,大学院生に混じって野外水質調査法の実習,サロベツ湿原の観察とこれまでの北海道大学橘治国研究室の調査研究,地元講演会,学生ナイトセッションなどで,熱心に実習と勉強をした(研究室からも4回生3人(木村,廣田,藤原)と昨年に続いて泉(M2)および肥田助手が参加した).利尻富士を登頂するオプショナルツアーにも全員参加し,ウニ丼をたらふく食って満足の様子であった.学生の生き生きとした行動は,参加者に将来の活躍に期待を抱かせた.その反響もあってか,後期開講の環境化学の受講者が昨年までの20名前後から,一挙に80余名に膨れ上った.初めてのマイク講義であった.来年のワークショップは山梨大学を拠点に南アルプス甲斐駒ヶ岳または富士山麓で開催されるが、再度挑戦してみようと考えている.

 ゼ ミ 集水域環境研究室を専攻した学生は、FWIIIで3回生が4人、4回生が5人、修士1、2回生それぞれ1人、合計11人であった。FWIIIは4回生および修士学生のテーマの中から関心のあるものについて、サブテーマを立てて実習・調査させることによってスムーズに卒論に進めるようにした。乙守利樹はヒノキ林の謎,小野純子は地質と水質の関連の地図化(GISへの導入),田中三恵子は汚水の生態系浄化における動物の働き,宗石光史は彦根城玄宮園魚躍沼の池干しによる水質浄化効果をテーマにした。4回生は尾坂兼一がヒノキ林,木村由紀子が金桂花と共同して汚水の生態系浄化,藤原裕子が高硝酸山地渓流水,新たに廣田麻美が宇曽川流域の懸濁物質,田淵美穂子が内分泌撹乱物質について卒業研究をまとめた。修士は1回生の金 桂花が研究生からのテーマ汚水の生態系浄化の研究を続け、2回生の泉 浩二が集水域実験施設の摺墨A森林試験流域で土砂流出の多い森林からの物質流出について修士論文をまとめた。

研 究 

学会発表 5つの国際学会で発表した。内一つは招待講演であった。

1)Kunimatsu T., Sudo M. and Hamabata E.(2001) Nutrient loads from a pasture applied with daiary slurry and compost, Proceedings of 5th International Conference on Diffuse Pollution and Watershed Management, in Milwaukee, Wisconsin, USA on 10-15 Jun 2001, pp.17-24 (in CD).

2)Kunimatsu T. (2001) Environmental assesment of nutrient loadings to Lake Biwa from the watershed, Proceeding of The Shiga-Michigan Joint Symposium, in Hikone, Japan on19-20 Jul 2001, pp.50-51.

3)Kunimatsu T. (2001) Eutrophication of Lake Biwa and progressive control of pollutant loads from the rural area, Proceeding of 5th Internationa Symposium on Waste Management Problems in Agro-industries, in Hikone, Japan on16-18 Nov 2001, pp.15-18.

4)Yamamoto M., Jin G., Shimazaki S. and Kunimatsu T. (2001) Cleaning up the effluent of sewage treatment plants in rural areas by using non-cropping paddy fields, Procceding of 9th International Conference on Lakes, in Otsu, Japan on 13-15 Nov 2001, pp.21-217.

5)Kunimatsu T. (2002) Treatment of the effluent from a small sewage plant in rural area by the ecosystem of non-cropping paddy fields, Proceeding of 1st International confference for Water Resource Management in the 21th Century, in Gifu, Japan on 2-3 Jan 2001, pp.93-96.

6)木村由紀子、金桂花、肥田嘉文、國松孝男(2002.03.14-16 岡山大学),休耕田を利用した農業集落排水処理水の生態系浄化、日本水環境学会講演要旨集、pp. 55.

その他に日本陸水学会関西支部会(2002年3月23日,京都大学宇治研究センター)で泉,尾坂,田淵,廣田,藤原が発表した。

学術講演

1)2001.08.07「乳牛スラリー還元草地からの肥料成分の流出について」,第5回ノンポイント汚染研究会ワークショップinサロベツ公開講演会「農地からの化学成分の流出と環境保全」,日本水環境学会ノンポイント研究委員会農林地部会,北海道豊富町町民会館.

2)2001.12.08「湖山池の水質浄化の具体的方策〜農林水産業の活性化をめざして」,とっとりアグリテクノ研究会シンポジウム,鳥取アグリテクノ研究会,鳥取大学農学部

3)2002.03.11「生態系水質浄化について」、農村下水道維持管理研修会、滋賀県農村下水道協会、滋賀県農業教育情報センター。

研究論文

1)Kunimatsu, T., Hamabata E., Sudo, M., and Hida, Y. (2001) Comparison of nutrient budgets between three forested mountain watersheds on granite bedrock. Water Science & Technology, Vol.44 (07), pp.101-121.

2)Sudo M., Kunimatsu T. and Okubo T. (2002) Concentration and loading of pesticide residues in Lake Biwa basin (Japan), Water Research, 36, 315-329.

3)國松孝男・肥田嘉文・金子有子・浜端悦治(2002)「森林伐採と栄養塩類の挙動と流出」,琵琶湖研究所報,19号,50−53.

その他の論文

1)國松孝男(2002)琵琶湖とその環境,クリエイトきんき,第2号,2-5.

 研究協力 学内外との協同研究は,琵琶湖研究所との「森林伐採の影響」(1987〜2001)および森林センターとの「ヒノキ林における水質形成機構」(1994〜),滋賀県農村整備課の委託調査「田んぼで浄化」(2000〜)、彦根市観光課委託「名勝玄宮楽々園魚躍沼池干しの水質効果」(2000〜)を継続した。 国際学術協力として日本学術振興会「環境科学」学術交流事業による京都大学工学部を拠点大学とする「アジア諸国学術交流事業拠点大学方式学術交流」の協力大学の責任者として、2001年9月、The University of Malaysia を拠点大学とするMalaysiaの研究者と The University of Malaysia Kota Kinabaruで25〜28日まで開催されたシンポジウムで講演し研究交流し、同11月10〜15日にはTsinghua University(精華大学)を拠点とする中国の研究者と同大学で研究交流した。

学会活動

・土壌肥料学会代議員(2001〜)・日本水資源環境学会理事・日本水環境学会関西支部理事

・5th International Symposium on Waste Management Problems in Agro-industries at The University of Shiga Prefectureの日本組織委員をつとめた.8th International Symposium on Waste Management Problems in Japan準備委員会プログラム委員長.・ワークショップinサロベツ「農地からの化学成分の流出と環境保全」(2001年8月5〜8日日本水環境学会ノンポイント線研究委員会農林地部会)を部会長として主催し,全国の教員・大学院生・学生52名が参加した。「サロベツ湿原の保全」をテーマに豊富町で公開講演会も開催し,80余名が参加した。

社会活動

建設省近畿地方建設局による「近畿地方ダム等及び琵琶湖管理フォローアップ委員会」(1997〜)、水資源開発公団丹生ダム建設所による「丹生ダム生態系保全検討委員会」(1998〜)の各委員を継続し、滋賀県浄化槽協会が発展した滋賀県生活環境事業協会理事(2001〜)、滋賀県農村下水道協会の維持管理部会副部会長(1985〜)、同生態系浄化研究会座長(2001〜)、岡山県「児島湖総合対策専門検討委員会」委員(1999〜2001)、彦根市玄宮園整備ワーキング委員(2001〜)を勤めた。昨年に続き、(財)国際湖沼委員会で行われたILEC/JICA湖沼水質保全研修で発展途上国から派遣された10名の研修生に琵琶湖保全対策と水質改善効果およびノンポイント汚濁負荷研究と対策の重要性について3時間講義した。



三田村 緒佐武

光陰矢の如しというが、しばらくすると今年度は閉じる。この一年は、とにかく忙しかった。私に課せられた授業と学科運営に1日の限られた時間を費やすと、持ち時間の残りはかぎりなく小さい。大学運営に責ある先生方の苦労はいかほどかと再認識させられる。気がついてみると充分な教育研究活動を怠った年でもあった。特に、研究室所属の院生・学生には研究指導のための時間が充分とれず、謝りきれない申し訳ない結果になってしまった。その上、時間のやりくりをしながらわがままな外国への旅に出かけてしまった。春には、サブヒマラヤにある海抜5000mの湖に出かけ「高山湖プマユムツオにおける陸水学的研究」を、夏には韓半島東海岸にある汽水湖群において「湖沼の富栄養化解析と湖沼保全」の調査研究をそれぞれの国の研究者と進めることができた。これらの研究試料はまだ解析中であるが、琵琶湖環境を見つめなおす視点の一つ、私の比較湖沼学の1ページを新たに加えることができた。小さな満足感が残る。

私の研究室はますますにぎやかになってきた。今年度開設した博士後期課程に入学した院生1名、博士前期課程の院生3名、学部生5名が研究室に在籍している。さらに、春には、沿岸生態系の生元素循環を研究されている新進気鋭の後藤直成先生を名古屋大学から迎えることができた。スタッフ全員が心一丸となって琵琶湖研究に没頭することができたよき年でもあった。

私にとって今年度最大の痛恨のできごとは、私が県立大学で最も心よせていた中山教授が57歳にしてこの世を去られたことである。このことについては、本環境科学部年報「環境生態学科この一年」で詳しく述べている。この事件は私の生き方に再検討を突きつけている。もう一つ心痛めたことは、私の大学人としてのこだわりの生き方を反省せざるを得ない行動をとってしまったことである。学科運営の責任を重く受けとめ、役を辞すべく罷免案を提案したが、急逝された故中山教授のためにも私のけじめを来年度に持ち越さなければならない、いいかえれば、生首をさらしてその職にしがみつかなければならないつらい状態がまだ3月まで続くことになる。

次年度こそは、ゆとりある深い思索を伴った教育・研究を進めるべく今からわくわく心躍らせてその計画を立案している。



近  雅 博 

2001年、特に印象に残っているのは9月にメキシコ・グアテマラに調査に行っているときにアメリカで同時多発テロがあったことである。9月11日、私たちはメキシコのユカタン半島に滞在していた。一時はアメリカとカナダのすべの空港が閉鎖になり、アメリカ・カナダに到着しつつあった航空機はすべてメキシコの空港に緊急に着陸することになってしまいメキシコの航空機のスケジュールも大きく乱れた。幸い私たち一行は13日に予定通りグアテマラに飛ぶことができた。帰りはメキシコからアメリカの便がキャンセルになり予定より一日遅れで帰国した。本来ヒューストン経由で帰国するはずだったが、航空会社の人にニューアーク(マンハッタンのすぐ西隣にあるニュージャージー州の空港)を経由した方が早く帰れる可能性があると言われ、ニューアーク経由で帰国した。今思えば、ニューアークはテロの渦中の空港のひとつだったので、それだけキャンセルがたくさん出ることを見越して航空会社の人は勧めてくれたのかも知れない。その結果、はからずも世界貿易センター・ビルのないマンハッタンを垣間見ることになった。今回、テロ後最初の日本への連絡はメキシコの田舎町のインターネット・カフェから電子メールでおこなった。この経験により電子メールの便利さをあらためて実感した。

 今回のグアテマラでの私の調査の主な目的は中米のメキシコ、グアテマラ、ホンジュラスの雲霧林だけに生息する甲虫目クロツヤムシ科のある分類群のサンプルを採集することだった。グアテマラ・シティからグアテマラ中部の標高1600m 位の高地にある調査地まで車を雇って行ったのだが、やはりいい森はほとんど残されていないという印象を受けた。調査地周辺にはグアテマラの国鳥であるケツァールを保護するための国立公園があり、公園内はよく森が保護されているようだった。しかし、それ以外の場所は切り開かれて、牧場かトウモロコシやコーヒーの畑となっていた。雲霧林は山並の山頂付近にはかろうじて残されているだけだった。雲霧林に生息するクロツヤムシの中には後翅が退化して飛ぶことができない種が多く含まれている。このような仲間は森林の分断化の影響を強く受けるものと思われる。これ以上雲霧林が分断されず存続していくことを願わずにはおれない気持ちだった。



伴  修 平

昨年の今頃は、南極大陸のスカルブスネスという露岩域で湖沼調査のためにキャンプしておりました。まさか1年後にここ(滋賀)にいるとは夢にも思わずに。3月末に帰国し、5月からこちらでご厄介になっている次第です。昨年はいろいろあり過ぎて自分自身の仕事はほとんどはかどりませんでしたが、人生の良い転機になったと思います。最近ようやく琵琶湖で調査を始めました。修士の学生さんと一緒に植物プランクトンの動態を調べる予定です。まだ環境学からほど遠いかもしれませんが、そのうちどこかでつながってくるでしょう。まずは第一歩といったところです。



上 野 健 一

 2001年夏に"久々に(?)"チベット高原へ観測に出かけた。ヤクが草を食む中、道なき高原をジープで爆走するといった古き良き時代のアドベンチャーはどこへやら、公路に沿ってトラクターやパワーシャベルが土煙をあげ、美しい氷河に刻まれた崑崙山脈の山肌には大きな傷が一本刻まれつつあった。チベット高原鉄道の建設がいよいよ着手されたのであった。中国の国力に圧倒されるとともに、4000mの高地をも開拓する人間のすさまじさが身にしみる。1997年に設置した気象観測タワーの目と鼻の先でも駅の建設が始まっていた。この広い高原で、なんでまたこの場所を選択したのであろうか?観測点を移動しなければならず、頭が痛い。

ついこの前までは、調査や観測が終わると、自然に大部屋やテントにみんなが集まり、観測結果から現地トラブルまで様々な話しが盛り上がったものであった。そのうちどこからか酒が出てきて宴会に突入。しかし今回の旅行では、(私も含めて)ほとんどの隊員が宿泊施設に着くと電話を探し、ノートPCによるメール通信を日課とした。公路に沿った主要な町では携帯電話が通じ、不調な測器の目の前で衛星電話により日本からの修理の指示がうけられた。ネットで日本の新聞を読み、メールで友達や家族と日常会話をし、もちろん職場への対応もかなりの部分が可能。IT革命がもたらした観測の安全・効率化やデータ精度の向上はすばらしいものである。その分、隊員たちが現場で考え、決断し、行動し、失敗し、学習する機会が大きく減った。同時に、多くの情報をだれよりも素早く的確に取得し処理する班長の能力が問われる時代である事を考えるとやや気が重い。いや、自分にとって無邪気に海外観測に参加できる時代が遅まきながら終わっただけなのかもしれない。

最後に、学内に目を向けて最近思うこと。それは、会議やゼミで"中身"に関する質疑が少ないと感じることである。たとえ間違っていても良いから、"自分のアイデア"を人前にさらす人があまりに少ない。テレビのニュースで、上層部の失策や個人の失敗に対する非難があふれる今日、大学から発想の場が消えたら日本はおしまいであるとつくづく思う。



丸 尾 雅 啓

 開学以来年に1度の割合で研究船に乗船していたが、新世紀に入ってから外洋に出ていない。安心感があるかと思っていたが、じっとしているのが物足りない。研究船中毒の禁断症状かもしれない。海洋の研究というと話が大きいが、中身はというとなかなか進まず、象のしっぽの毛を、一本づつ分析しているような気分になることがある。深海5000mまで採水器を沈め、その中に象の毛一本の先っちょほどもあるかわからない物質をはかり、そこから地球規模の環境変化までさまざまに考えを展開する微量元素の世界。いったい大きいのやら小さいのやら。自分のフィールドの中心は琵琶湖であるが、海洋という巨象からみてノミのような大きさである。その琵琶湖に何千万の人々が依存しているわけで、人間は小さいとつくづく思う。小さい琵琶湖の水のなかにあるごくわずかの物質のことを知ろうとし、ひとりでいろいろ考えても、できることはわずか。人の心の中は宇宙のように広いというが、広い心の中をめぐりながらあれこれ悩んでいるうちに時間も学生さんも移っていく。自然にはかなわないということにして、いっそ身をゆだねたくなる気持ちと、もっと知りたいと思う好奇心がせめぎあいながら、毎年象の毛の一本分くらいは前進したいと願うこのごろである。

論文;Application of the Flow-Through Analyses of Ammonia and Calcium in Ice Core and Fresh Water by Fluorometric Detection. Field Anal. Chem. Technol., 5, 29-36(2001).Maruo M., Nakayama E. et al. ほか5報

発表;Preconcentration and Determination of Orthopohsphate in Freshwater with polymer resin as Phosphomolybdate. 滋賀-ミシガン合同シンポジウム2001, Maruo M., Nakayama E. et al. ほか8件



肥 田 嘉 文

今年の研究室は、大学院生2人、4回生5人、そして嘱託職員として1人を迎え、にぎやかな構成となった。いつも元気な学生の姿に、教員として幸せを感じる時も多かった。研究室としては4期目に入り、部屋のカラーが出来てきたかな、と感じた年でもあった。

私自身は、本学に奉職して3年目となり、自分のテーマで研究を立ち上げることができた。「農村下水道の処理方式によるエストロゲン様物質の除去性能と処理水が環境水に与える影響」という長い卒業研究のテーマで4回生の指導にあたった。教員になって初めて直接指導する形となり、1年間で何らかの結果を出さないといけないという緊張感が常にあった。しかし、それと同じくらい、研究を始める喜びが大きかった。限られた予算で、どういう研究手法を導入して、何に焦点を当てるか。助言を頂き、軌道修正しながら何とか1年やってきた。手広く当たりをつけたいという気持ちから、結果に結びつかなかった実験も多々あった。このような予備調査で得た情報を、今後ぜひ生かして、苦労をかけた学生に報いる様にしたい。

また、2年前に始めた「県大ニューイヤーマラソン」も、昨年の雪による中止を挟んで、今年は実質上の第2回大会を開催することができた。前日夕方からの除雪作業、参加賞の豚汁作り、その他諸々の仕事を行うに際して多くの学生および同僚にお世話になった。紙面をお借りして感謝申し上げたい。そもそも新春などとかこつけて、スポーツイベント的なものを何か始めたいというのが最初に意図したところであった。この大会を、走ることあるいは運動を始めることのきっかけにしてもらえたら望外の喜びである。来年以降も、もちろん継続していく決意である (本心は、学生にバトンタッチできればと思うのだが・・) 。懲りずに、末永く見守っていただきたい。