地域社会との連携を「団地再生」から見る

澤田誠二

環境計画学科社会計画専攻

環境社会システム大講座

  住宅から都市へと広がる住環境の計画・デザイン・建設・運営管理の新しいコンセプトにオープンビルディングと呼ぶものがある。その研究と開発に30年余り取組んで来たが、今ではスケルトン住宅としてマンション広告に登場するほどまでになった。これは1960年代に先進諸国で多量住宅供給が進められ、アパートや住宅団地が一斉に建設された際、その画一化が批判されて、アンチテーゼとして提唱されたものだ。一口に言えば住民の意見を積極的に採り入れる「開かれた建築」である。部屋の内装や住宅をそれだけで考えるのではなく、まちづくりの一部として捉えることで街並み全体と調和させる。いわば「2DK」公団住宅に代表される画一的な住宅への反省として「住民が住みたいと思う街」をつくるコンセプトなのである。具体的には、街づくりの意思決定のレベルを「街並み」「住宅の骨格」「住戸内部」の3段階に分けて考える。自治体が住民の意向を聴きながら「まちづくり構想」を立案し、これに従って「住宅建築の骨格」のデザインを決定する。これに合わせて「住戸の内装や設備」は、住民が自由に選べるのだ。このシステムが建築の研究開発テーマとしてわが国で取上げられたのは、70年代初め私が先鞭を付けて以来で、いくつかの大学の建築学科でも研究が続けられ、この10年ほど前から定着して来ている。私はこのオープンビルディングの推進の中で、5年ほど前から「地域社会との連携」について考えさせられるようになった。というのも40年ほど前に建設された住宅団地が現在一斉に老朽化の段階に入り、明確な関わりが出てきたからだ。キッチンやバスルームが痛んだり設備システムを新技術に取替えなければならない、入居後に家族形態が変り間取りも変更したい、郊外にニュータウンを作ったのがその間にスプロールした住宅地が周辺を囲んだので街並みをデザインし直さなければならない、などの問題が発生している。こうした「建築デザイン」の面での問題だけでなく、住民も高齢化したので「団地再生」のためには財政計画を含めた「社会計画」面をまずは考えなければならない。この課題への取組みにオープンビルディングが有効なのだ。さて、この「住宅団地の再生」のニーズは、東独・ポーランド・チェコ・スロバキア・ハンガリー・スロベニア・バルト三国・ウクライナ・ベラルーシ・ロシアから中国まで、旧共産圏には6000万戸分もあるとされ、そのほとんどが冷戦開始時にコンビナート開発に伴なって建設された団地で、その規模を考えると当時の世界的パワーの巨大さに驚く。わが国の場合は、住宅公団が設立され大都市での産業開発が促進されたのは1960年のこと、公団の現組織・都市基盤整備公団は存亡の危機に瀕しているが、それはそれで当時の産業化・近代化の要請に応えたものだった。この公団住宅に公社・公営住宅団地分を加えると再生需要は300万戸とされる。その住民600万人と推計すれば人口の20名に1人にとっての問題なのである。筆者は、東欧の「団地再生」関係者に呼びかけて1999年にはドイツ・デッサウで、翌年にはベルリンで会議を開催した。その成果は2000年の東京会議を機会にわが国の団地再生関係者に伝え、昨年11月にも大阪国際ワークショップでオープンビルディング・コンセプトによる再生の具体策を検討した。今年40周年を迎える千里ニュータウンに生かす計画だ。