地域社会と大学の連携

水原渉

環境計画学科環境・建築デザイン専攻

環境計画大講座

ここでは滋賀県立大学を念頭に置き大学と地域との連携について考えてみたい。

連携について

 連携は、複数主体の間で、何らかの共通目的のもとに行われる。連携主体の夫々が何らかの役割を持ち、相互に連携することで、課題に見あった新機能とより大きな力を得ることが期待されているのだろう。

 これまでも個別利害による連携は行われている。連携なしには社会の全てが停止してしまう。いま言われている連携は、その様なものでなく、新しい時代に向けて、個々の利益からだけでなく、課題を共有し、夫々の役割を自覚しつつ目的に向かって共に進もうとするものであろう。

大学の使命とその変化

 大学は、時代の科学の先端の問題と取組み、課題の解決に向けての理論的活動を行ってきた。現在、これが社会的に保障され、存立基盤が与えられている。その代わりに、大学や大学人は社会に対し一定の責任を持つ。

 この社会的保障と対社会的責任の関係は古いものではない。過去には、学問が宗教や専制政治などの下僕だったこともある。このことは大学にも該当する。大学はヨーロッパ中世に起源を持つとされているが、当時、聖職者を養成する役割があった。そこでの学問が、時代を経るにつれ、経済構造変化なども背景に、結局、旧勢力を突崩す力になり、やがて近代科学を支える大学が誕生した。

 しかし、それ以降も大学が、直接、権力を支えていた時もある。日本でも戦前まで天皇制国家の維持のため大学が大きな役割を果たした。建築分野でも、例えば『ナチスドイツの建築』を著した高名な建築学の帝大教授が、敗戦直後に講義で学生に「さあ、これからは民主主義の建築の時代だ!」と語り、唖然とさせた話がある。

 戦後、大学の役割は、先端的研究と国家や産業を支える科学技術の発展や、それらを支える専門的知識、技術を持った専門家や技術者を、近代的素養をもった市民として送り出すことだったと言える

学を巡る環境条件の変化

 しかし、現在、様々な社会条件の変化の中で、それのみでは大学の使命を果たしていると見なされなくなりつつある。

 社会条件変化とは、受験者数減少、公的財政難、教育水準向上、ITなどにみられる技術進歩の急速化などであり、更には日本の産業の国際競争力強化に向けての貢献要求、そして環境問題の深刻化、失業者増加などでもある。

 受験者数の減少から大学間の競争が激しくなり、何らかの形でユニークさを出していこうとする中で、地域に強く根付き、独自の役割を見いだそうとする方向も模索されている。この大学間競争に拍車をかけているのが公的財政難である。

 技術進歩の急速化や失業者の増加は生涯教育の需要を生みだしている。環境問題は単に理論だけでなく実践的な課題が重要であり、そのための大学人の関与も重要となってきている。

大学と地域

 大学は様々な形で大学立地の地域社会と繋がりを持つ。滋賀県立大学では、それは彦根市であり湖北・湖東地域、滋賀県である。

 大学と地域の関係は教員の研究の専門的課題からも規定づけられる。歴史性に富んだ滋賀の地は様々な研究の対象であり、琵琶湖は湖沼学の重要な対象となっている。独自の景観や土地利用などの研究対象でもある。地域の独自性、有利性を生かし地域の課題を研究対象に選ぶこともある。

 研究は、社会性のない純個人的関心から行われることはまずない。何らかの形で社会的性格を持つ。地域対象の研究の場合、地域社会での共有の問題意識を受けて研究し、成果を地域社会に還元し、大学独自の役割を果たせる。地元と結びついてなくても、研究者が“媒体”となって他地域研究などの成果を地元還元できる。

 勿論、県立大学も滋賀県関連以外の課題に積極的に関わることは必要である。それは翻って地元への貢献に繋がる。

大学と地域社会の連携

 大学と地域の連携には、この様に、地域と結びついたり、地域に大きな意味を持ち得る専門性や研究成果をどのように地域還元していくかが要だが、最初に連携の意味を考えたように、「連携」となると、何らかの目的がそこには介在するはずである。

 それは環境問題の解決、豊かな地域社会の形成であり、持続的社会の実現だろう。これらは学問の方向と同じである。

 大学や大学人は、勿論、基礎研究など独自の課題を持つが、課題の社会的意味を問いながら、地域社会にも情報発信し、社会的問題意識の形成や、更には連携主体の形成・育成も心がけていく必要があるように思える。そうすることで研究にも刺激が与えられる。連携に限らず現在の諸々の動きが単なる競争の手段でなく本質的な意味を得るようにしたいものだ。