産学交流を通しての地域との連携

小林正実

環境計画学科環境・建築デザイン専攻

環境計画大講座

 筆者が関係した建築構造分野での県内企業との交流の実績を紹介しながら、地域貢献のあり方、その意義等について述べていきたい。

1 実験計測についての技術協力

テーマ:橋梁における新型落橋防止装置の開発

共同研究機関:立命館大学土木工学科、村上興業(株)、(株)エスイー、成果発表:滋賀県三重県土木部関係部署立会公開実験(於本学)、1997年6月〜1998年2月

 橋梁は土木の分野であるが、必要な実験計測機器(動的繰り返し加力試験機(アクチュエータ)、多点動的データ収録装置)が県内では本学にしかなかったため、立命館大学と共同で引き受けることになった。容量の大きい試験機や多点の計測装置は高価であり、また、県内に理工系の大学が少ないため、各研究機関の設備は互いに融通しあって使うべきで、実験機器リスト、使用規程等の整備が必要であると感じた。建築技術者が橋梁に携わるのは稀であるが、あまり建築に拘らず、他の構造工学分野、例えば土木、衛生、機械、造船等、他分野から刺激を受けるのも有意義で、間口を広く対応するのもよいと思う。成果を公表するための公開実験を行ったが、県土木部及び県内建設関連企業から多数の参加があり、またとない交流、討論の機会となり、こうした機会を設けたこともよかった。

2 構造解析についての技術協力

テーマ:小型マンホール構造解析断面算定共同研究機関:三和産業(株)、日本小型マンホール工業調査会、成果発表:日本小型マンホール工業調査会報告会、2001年5月〜2002年1月

 研究の委託があった甲西町三和産業(株)は下水汚泥溶融スラグ等、廃棄物再利用に早い時期から力を入れている建材メーカーである。環境先進県である本県企業には地球環境問題についての長年にわたる技術の蓄積があり、その動向には注目しておく必要がある。本研究は、環境に有害と言われる塩ビでなく鉄筋コンクリート製のマンホールを普及させるための研究である。円筒シェル(曲面板)構造であり、荷重や境界条件が単純でないため、FEM(有限要素法)解析が必要である。FEM解析は、昨今、パソコンの性能が向上し、安価な解析ソフトが出回っている状況からすれば、それほど難しくはないが、県内では、FEMの利用環境はそう整っていないようで、解析技術者も不足気味のようである。本学や他の理工系大学なら対応できるが、県内企業でもこうした構造解析が容易に行える環境を整えていくため、本学もそのための人材の育成になお一層取り組まなければならないと感じた。また、非線形、動的応答、衝撃等の高度な解析が必要な場合は、専門分野の研究者の協力が必要となる。本学のような独自の研究者名簿はどこでも用意していると思われるが、本県全体及び周辺地域も含めて人材情報のデータベースの整備も必要と思われる。

3 研修会講師への参加

過去の実績 講習会名:「構造力学の初歩」

主催:村上興業(株)、対象:水口町周辺建設業関連企業、2001年7月〜2001年8月

 力学から各種構造まで構造学全般にわたる講習会のうち、構造力学の基本的分野の依頼であった。土木建築の実務者はもちろん、事務職員の方も多数参加しておられ、ISO認証取得等の理由からと思うが、技術者以外の方も対象としているので、平易な内容で行うよう努めた。社会人向けに限らず、力学教育の最近の傾向として、座学・演習のみでなく、模型制作、実験等、教え方の工夫が求められるようになってきている。筆者も毎回測定機を持ち込んで実験を行い、なるべく模型、サンプル等、実物を持って行くようにし、その点は評価していただけたようである。

 公開講座等、今後もますます学外での講演・研修会の機会は増え、対象もより幅広くなると思われ、講師の側の工夫がますます要求されてくると思われる。