環境フィールドワーク’01報告

環境フィールドワーク委員会

 環境フィールドワークは環境科学部にとって学部のアイデンティティを形成する重要な科目となっている。環境フィールドワークでは、基本的に学科を越えた教員グループが学習プログラムを作成し、学生と一緒にフィールドに出かけ、それぞれの専門分野からフィールドの事象を解明・解説する。学生はフィールドで発見したことを記録し、それらに基づいてどのような問題がそこに潜んでいるのか、またどのように問題を分析することができるのかについて検討し、問題を解明することを目的にしている。さらに、環境フィールドワークで大事にしていることは、学生が調べてきたことをまとめて、発表することである。環境フィールドワークIでは授業の締めくくりとして、大教室で担当する多数の教員と学生の前でグループ発表を行い、環境フィールドワークIIとIIIでは成果を報告集としてまとめ、公表することにしている。

 今年度の新たなプログラムとして、環境フィールドワークIでは、教室での全体講義に替えて、琵琶湖博物館における見学実習を取り入れた。博物館で学生自身がテーマを定めて、見学しそのテーマについてのレポートをまとめるという内容である。それぞれが、環境と暮らしのかかわり、琵琶湖の水利用、湖沼の生物、琵琶湖の汚染、琵琶湖の自然史などのテーマを持ち、琵琶湖とその集水域の自然と社会・文化についての関心を深めることができた。また、環境フィールドワークIIIは今年度から選択科目に移行したことに伴い、各学科単位で、インターンシップ、オープンデスクの導入など、これまでのテーマに基づいたフィールド研究だけではなく、多様なプログラムが導入された。

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「環境フィールドワークI」

 Aグループ

テーマ:水系と生活空間

担当教員:水原渉、内井昭蔵、松岡拓公雄、

内容: 本年度のテーマは「水系と生活空間」で昨年と同じである。水は空気と同じように当たり前の存在であるがゆえに、その水が今、どのような状況になっているのか、生活の視点から水との関係を問い直す授業である。一回生のテーマとして、環境問題のベーシックな部分に焦点をあてている。水は地球の大地の血液であることを知り、自分の身の回りの生活から考えていくことを目的としている。その現状、そして問題点を自分たちの目で確かめ、より深く勉強していくためのきっかけ、入門編としてこのグループの存在は重要である。

 4グループが順次、三週間づつ交代する。1グループの中をさらに5,6人からなる八つのチームに分け、一回目の授業で、各教師の水に関わる思いや研究の講義を受け、各チームごとにFWの対象地での視点を仮に設定させ、テーマを決定させる。2回目は実際に琵琶湖にそそぐ集落と関わる水系を歩くFWにでかけ、各地区の対象を各自各チームの様々な視点で捉えさせ、テーマにそった情報を採取する事を学ぶ。三回目に各自が採取した情報をチームごとに考察し、まとめ全体発表させ、質疑応答の訓練をし、様々な視点があることを理解させるという位置づけになっている。これが4ターンで全員が参加する。グループによって訪れる場所は違ってくる。今年度は甲良町、長浜市米川、近江八幡市の八幡堀、マキノ町の在原集落、高月町雨森地区、木之本町杉野集落、が今年度の対象地であった。毎年、新しい対象地を加えていくことにしている。

(文責:松岡)


 Bグループ

テーマ:大中干拓地をめぐる自然・社会環境

担当教員:奥野長晴、倉茂好匡、近 雅博、

     長谷川博、矢部勝彦

内容: 大中干拓地をフィールドとした調査を行い、それに基づき発表をおこなった。授業の進め方は以下の通りである。第1週:このフィールド・ワークの目的を説明し、研究発表のやり方について講義をおこなった。次に各教員が以下の5つの問い提示し、各班ごとに少なくともそのうち1つの問いに答えることを課題として与えた:

  1. 米づくりは必要か?(奥野) 
  2. 乾いた土地は本当に必要なの?(倉茂) 
  3. 農地は'自然'それとも'工場'?(長谷川) 
  4. 生物との共存は可能か?(近) 
  5. 水が本当に必要か?(矢部)

 また、第一週の講義の後、大学の圃場と大学の周辺の農地を班ごとに歩きフィールド調査の演習をおこなった。その後、もう一度講義室でテーマの選定とフィールド調査の計画の再検討をおこなった。第2週:大中干拓地に行き、班ごとに調査地周辺を歩き回りその環境について実地調査をおこなった。さらに大学に戻った後、班ごとにフィールド調査の結果についての話合いをおこなった。第3週:前週の実地調査、その後の文献調査および班内での議論の結果をまとめて班ごとに発表を行った。今年度は「農地は'自然'それとも'工場'?」という問に取り組んだ班が特に多かったが、他の問にも関連する内容を含む発表があり、さまざまの問題の繋がりが捉えられているように感じた。

(文責:近)

 

Cグループ

テ−マ:廃棄物とリサイクル

担当教員:石川義紀、岩間憲治、金谷健、

     川地武、澤田誠二

内容:

「廃棄物とリサイクル」の実態について、現場見学を中心に学習した。3週の構成は次の通りである。

 *前半(岩間、川地、澤田担当)

  第1週 教室での概要説明、見学1(一般廃棄物の中間処理・リサイクル:彦根市清掃センタ−)、見学2(一般廃棄物最終処分場跡地)

  第2週 見学3(容器包装材について考える:物流エコロジ−情報館)

  第3週 教室での討議・まとめ

 *後半(石川、金谷担当)

  第1週 教室での概要説明、見学1(一般廃棄物の中間処理・リサイクル:彦根市清掃センタ−)

  第2週 見学4(一般廃棄物の最終処分;彦根・犬上広域廃棄物投棄場)及び地元住民との質疑

  第3週 教室での討議・まとめ 

 直接、清掃事業に携わっている現場から、あるいは廃棄物処分場地元住民、廃棄物と密接に関わる企業から得た情報をもとに、廃棄物のリサイクルについての理解を深め、問題構造を整理することができた。

(文責:金谷)

 Dグループ

D1班

テーマ:「犬上川流域の環境構造の変遷」

担当教員:伏見碩二

内容: 犬上川流域には,特定植物群落のタブノキ群落,絶滅危急種のハリヨ,タコノアシなどが生息していることが示すように,犬上川は琵琶湖流入河川の中でも自然が豊かな河川流域のひとつである.しかしながら,洪水対策のための河川改修計画が河口域からはじまっており,自然環境の改変が著しい.このため,環境構造の変遷を地学的に明らかにし,犬上川の貴重な自然環境を保全するとともに,人間活動との共存を実現するにはどうしたら良いかの課題を発見するため,野外調査を行った.

D2班

テーマ:島緑地の環境機能

    (KJ法による野外観察データの整理)

担当教員:荻野和彦・上田邦夫

内容: 湖東地方に点在する断片化した緑地をフィールドで観察し、記録し、KJ法によって整理することによって、島緑地の環境機能を考察する。野外観察の対象としたのは鈴鹿山塊に近い大滝神社(多賀町)、湖東平野中部の押立神社(湖東町)、琵琶湖岸に近い木和田神社(八坂町)の社叢である。いずれも島状に孤立した小規模緑地であって造林木を積極的に利用するヒノキ林、スギ林や古木を保存している広葉樹林などで住民の共同管理に委ねられている。

 半日のバスツアーで現地を訪れた。緑地の状況を森林植生、土壌条件など森林の生態系機能を解説し、学生の自主的な観察による記録を促した。参加した学生の関心は森林の生態系にとどまらずに、人と森林の相互関係、森林の人に対する影響にまで及んだ。

 野外記録をKJ法によって整理する試みは新鮮な刺激となったはずである。小人数グループに分かれて、森林を構成する動・植物、微生物、土壌に対する関心、森林を維持する人々の努力、人々の努力が生み出す森林文化など議論がひろがっていく。参加者全員による成果の発表によって、グループ間の意見交流も貴重な経験であった

(文責:荻野)。



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「環境フィールドワークII」

 Aグループ

テーマ:まちづくりと環境情報

担当教員:柴田いづみ、仁連孝昭、 井手慎司

内容: フィールドワークとして津田干拓地の調査にはいって今年で5年目となる.

授業としては例年どおり,まず現地に入り,自分たちの目で現状を見て,自分たちの力で問題点を発見する作業からはじめた.また,その結果を4つに分けたグループごとのワークショップによって整理した.

 本年もまた6月2日に近江八幡市立図書館で津田干拓地に関する公開ヒアリングを行っている.今回,講演をお願いしたのは滋賀地域マネジメントセンターの大堀勝正さんと滋賀ビオトープ研究会の村上宣雄さん,滋賀県水産試験場の粟野圭一さん,滋賀県立大学の仁連孝昭の4人.事前の資料作りやアンケート作り,会場設営などを学生の手で行った.さらに7月7日には,公開ワークショップを近江八幡市のひまわり館で開催.参加者は,近江八幡市の職員,市民,滋賀県職員,津田内湖を考える会会員,県大学生など.ワークショップでは,県大の学生が座長となり,八幡市が建設を予定していた干拓地内の実験内湖(1ヘクタール)のあり方を中心に,「復元後の津田内湖のアピール」,「津田内湖を題材とした環境教育」,「市民の望む調査とは,実験地でやるべき実験」,「津田内湖復元の将来像」の四つのテーブルに分かれ,意見を交換してもらった.最終的には,先の公開ヒアリングとあわせてワークショップの結果を議事録としてまとめた.

(文責:井手)


 Bグル−プ

テーマ:環境負荷の少ない地域づくり

担当教員:秋山道雄、林 昭男、金木亮一、

     迫田正美、轟 慎一

内容: テーマと対象地域(赤野井湾集水域・主として守山市にふくまれ、野洲川左岸に位置する)は、これまでの環境フィールドワークII・Bグループと同じ設定である。そこで、当地域の特性については『滋賀県立大学 環境科学部年報 第2号』p.92を参照されたい。

 テーマと対象地域を同一に設定したのは、同じフィールドを継続的に調査することによって、資料が広範に収集でき、対象に関する知見の蓄積が厚みを増すためである。これによって、本学のフィールドワークが目指している「問題の発見・解明・解決」というプロセスを、一過性の作業に終わらせることなく、次の学年に引き継いでいくことができる。 今回のフィールドワークで学生は6チームにわかれ、(1)新興住宅地における景観、(2)農村の今後の展望とその振興をさぐる、(3)守山駅周辺の道路整備と環境負荷の少ない地域づくり、(4)水路と生活の変化が環境に及ぼした影響、(5)農村地域と都市化地域の環境負荷、(6)水保町中野における住民の環境意識、を各班のテーマとして実態調査を進め、問題点の摘出とそれへの対応策をレポートにまとめた。

(文責:秋山)

 Cグループ

テーマ:地域の自然環境と社会景観

担当者:奥貫 隆、須戸 幹、籠谷泰行

内容: 今年度は、彦根市の旧市街地に沿って流れる芹川を調査対象として設定し、景観、水質、植生の3グループに分かれて調査、研究を行った。

(1)芹川の景観調査と改善提案


文献や資料から芹川及びその周辺の歴史的な変遷について整理した上で、芹川の上流、中流、下流を対象に景観調査(景観要素、断面構成等)を実施した。特に、河川幅と河岸高の比率、河岸堤防上から視認できるランドマーク景観の種類と位置、近隣居住者の芹川に対する意識を調査し、分析した。その上で、芹川河口部が未整備であることに着眼し、芹川と琵琶湖の接点となる空間特性を活かしたランドスケープデザインのあり方についてグループ全員で討議し、その結果を図面及び模型で提案した。

(2)芹川の地域環境と水質調査

人間活動が地域環境に与える影響を調べるために、水質の観点から芹川及び平田川の汚染度を分析した。水質調査は、全窒素、全リン、汚染物質の陰イオン界面活性剤、ノニルフェニル、EC、pHの6項目について行った。その結果、芹川の上流から中流にかけて水質が低下し、下流になるとやや改善される傾向があることが分かった。農業排水や生活排水の影響がデータに現れている一方、下流域にかけては、湧水による希釈、微生物による分解、流下に伴う曝気などの影響で水質が改善されたと考えられ、河川の水質浄化の問題解決の手掛かりを得ることができた。

(3)芹川流域の森林植生調査

芹川流域の植生を把握するために、上流から下流にかけて今畑、保月、芹川ダム、鞍掛山、芹川緑道の5箇所を対象として調査を実施した。この調査を通して、植生調査の方法を学ぶと共に芹川流域の森林形態と構成樹種に明らかな特色があることを理解し、環境保全効果の評価や保全すべき森林区域の選定に際して植生調査を実施することことの意味を習得した。

(文責:奥貫)

 Dグループ

テーマ:山際空間のフィールドワーク

担当教員:三谷徹、石田潤一郎、杉元葉子

内容: 今年度は、フィールドを多賀町一円の集落近辺に絞り行った。これまでも多賀町では、一円の他に八重練、栗栖などを含めてフィールドワークを行ってきたが、今回は対象地を狭めることで集中的な作業を行った。まず「際」の空間における現象を見つける眼を養うために、バス遠征にて、湖北の菅裏町、海津町、在原町を見学調査した。その後、調査地である一円にフィールドワークに出かけた。一円は山際独特の空間構造を持つ上に、芹川からの豊かな水源を活かしを集落内に赤川と呼ばれる生活水路を通しているという特徴を持つ。それゆえ川戸、入戸など特徴的な要素が多く分散しており、学生も最初から強く興味を示した。その後、学生は、自主的に歴史、水系、建築、色彩、祭祀、伝承の調査班に分かれ、それらを空間構造に読みなおすワークショップを行った。最終的には山際集落の空間構造を表現した概念模型を制作し、またA3版41頁のレポートを作成製本した。

(文責:三谷)

 Eグループ

テーマ:植物エネルギーの可能性−地域資源の新しい利用で環境を変える?

担当教員:担当教員:野間直彦・近雅博・上野健一・

     土屋正春・近藤隆二郎・秋田重誠・高橋卓也・泉泰弘

内容:

内容:エネルギー源と食料の多くを輸入に頼っている一方で農地・林地の管理放棄が増え、それが環境と生物に大きな影響を与えている状況の中、地域にある持続可能な植物資源を新しい形で利用する試みが始まっている。以下の2テーマについて、手足を動かして作業を体験しながら調査した。

 「菜種油で自動車を動かす」―愛東町の「菜の花エコプロジェクト」の協力のもと、あいとうマーガレットステーションのナタネ畑に出かけ、ナノハナの花粉媒介昆虫の調査、ナタネの刈取、脱粒・選別、搾油を行なった。県大生協食堂でもらった廃食油を、県大工学部山根研究室でバイオディーゼル燃料(BDF)に変換した。作ったBDFで圃場実験施設のトラクターを動かした。

 「木で電気を起こす」―八尾山国有林のヒノキ植林に出かけ、下層植生の調査を行なった上で、滋賀森林管理署の指導で間伐を行なった。搬出した材と切り落とした梢の重量を測定した。多賀町・高取山ふれあい公園において、大滝山林組合から提供を受けた木材を使って炭焼きを行なった。3日間、交代で火の番をした。その炭を使って、「森林発電プロジェクト」と滋賀県湖東地域振興局の協力を得て木質ガス化発電を行なった。

 いずれも、必要な労力・費用など、環境・生物に与える影響や、普及させる上での課題について議論した。その成果を地元住民や協力機関の方々の前で発表し意見を交換した(詳細は報告書を参照)。

(文責:野間)

 Fグループ

テーマ:滋賀の有機農業2001

担当教員:國松孝男、西尾敏彦、岡野寛治、

     小谷廣通

内容: 新しい世紀の農業は「持続的」(sustainable)、「環境調和的」(ecological)、かつ「公平・平和的」(fair and peaceful)に循環型社会の中に再構築される必要がある。その方向の一つとして自然農業や有機農業がある。滋賀県内でもこれまでに多くの経営で様々な試みがなされてきており、国においても通常農産物と差別化する認証制度が実施されている。そこで学生がそのような環境調和型農業経営を視察調査し、さらに大学圃場で実際に野菜と水田稲作の化学農業と有機農業による栽培を比較的に体験し,視察の成果と総合して分析することによって,環境調和型農業の可能性と問題点を科学的に習得させるのが「滋賀の有機農業2001」の目的である。

 まず滋賀県における有機農業の実態と技術開発の現状を理解させるために、滋賀県農業総合センター農業試験場、森林センターを訪問して講義と視察を行った.実際の経営体として水稲・酪農複合自営農家(西河農園)、1000頭規模の養豚農家(森本養豚場),200頭規模の肉牛生産農家(八田牛舎),中規模の有機農業経営(有限会社アグリバンク)を視察させた。大学圃場での実習は,次の4つのサブグループに分かれ、それぞれ担当教員の研究室に配属して以下実の課題について実験、分析を行った。

(1)三要素ライシメーター試験による有機農業と水質(指導教員:國松孝男・肥田嘉文),学生:竹村菜穂(環境生態)・遠藤望・四方啓義・高橋章・中川温子・西陽子(生物資源)

(2)野菜有機栽培の試み(指導教員:西尾敏彦・小谷廣通),学生:蔵田高大・苗田千尋(環境生態)・杉本圭隆・永谷武大・橋本啓・林憲司・姫野昭祐・宮川貴夫(生物資源)

(3)家畜糞尿の農業への有効利用(指導教員:岡野寛治),学生:大山佐紀子・敷本美祥/中島幸善(生物資源)

 これらの成果はサブグループごとにまとめ,最終講義で合同の発表会を行って,OHPを使ったプレゼンテーションの訓練と成果の共有化・総合化を図った。

(文責:國松)

 Gグループ

テーマ:琵琶湖生態系の環境動態

担当教員:三田村緒佐武、安野正之、中山英一郎、

     丸尾雅啓、 伴修平

内容: 環境FW2・Gグループは本年も琵琶湖を対象に、集水域を含めた場の構造と機能を解明することを目的として授業内容を構成した。はじめに琵琶湖北湖岸を一周し、内湖(西の湖)、天井川(比良山麓大谷川)、湿地帯(新旭浜園地)など集水域を概観した。次に湖上より琵琶湖の概観をつかむために実習船「はっさか」に乗船し、彦根〜多景島〜沖の白石〜宇曽川河口まで航走、水深の遷移を観察し湖盆の地形を読み取った。途上、物理項目(天候、風速、気温、透明度、水色)の観測を行った。同時に現場での試料採取法を学ぶために表面水、深層水の採水、採泥をおこない、水温、泥温の測定、ベントスの観察を行い、沿岸と沖との底質の違いを調べた。生物を観察するためにプランクトンネットを用いて動植物プランクトンを採取、観察をおこなった。また、沿岸帯にて琵琶湖に生息する水草を採取観察した。集水域では、芹川上流にて水生昆虫を採取し、観察された種類から、芹川の清澄さを確認した。犬上川では琵琶湖流入に至るまでに化学的成分がどのように変化するかを知るために、水の採取、pH、電気伝導度、パックテストによるカルシウム、アンモニア、硝酸イオンの現場測定を行い、実験室にてリン酸濃度を測定した。以上の実験・実習から、湖沼観測、大小生物の観察、水質分析の一端に触れ、得たデータの意味・相互関係から、琵琶湖を構成する諸要素の現状を把握するよう心がけた。

(文責:丸尾)

 Hグループ

テーマ:生物生産と環境

担当教員:沢田裕一、但見明俊、上町達也

内容:内容: 県大及びその周辺地域に生息する様々な生物を取り上げ、農地及び自然生態系に対する認識を深めるとともに、環境と調和した生物生産の在り方について考えることを目的とした。具体的には、以下の3テーマについて実施した。(1)害虫防除における天敵利用の可能性:県大の実験圃場で野菜類(主にアブラナ科蔬菜類)を栽培し、そこで発生する害虫(アオムシ、コナガ)と天敵の関係を調査し、天敵(コマユバチ類)を利用した害虫防除の可能性を探った。コマユバチの害虫に対する寄生率は、両者の相互作用の結果として状況に応じて大きく変化したが、特に、野菜類の栽植時期の違いが害虫の発生量と寄生率を左右することが推測された。(2)ヤナギ属をめぐる植物-昆虫-天敵の相互関係:犬上川河川敷に分布する4種のヤナギを対象にして、ヤナギルリハムシの生存過程について野外実験を行い、ヤナギの質及び天敵の作用を評価した。(3)菌類と植物の関係を探る:大学周辺のいくつかの典型的な植生において、あらかじめコースを設定し、定期的に菌類(担子菌)の分布調査を行った。標本作成、同定、胞子紋の採取や組織の分離培養を行い、生態調査の結果とあわせて、菌類個々の生態的地位について考察した。

(文責:沢田)

 Iグループ

テーマ:琵琶湖にやさしい循環型農業を考える

担当教員:小池恒男,中嶋 隆,富岡昌雄,増田佳昭

内容: 昨年度に引き続き,琵琶湖に負荷をかけない,あるいは琵琶湖と共存する農業のあり方について,二つのグループを設定して研究を行った.

 まず,(1)「水田圃場の管理と農業濁水」グループは,琵琶湖環境に深刻な影響を与えている「農業濁水」の流出メカニズムをリアルに把握すべく,県立大学近くに調査区域を設定して,水田圃場一筆ごとの圃場管理,用排水管理の実態を調査した.具体的には,毎週それぞれの圃場について,農作業の進みぐあいと用排水管理の実態を目視調査し,その結果を地図上に表示して濁水流出のメカニズムを検討した.また,圃場調査結果の考察や関連する事実把握のために,農家代表を県立大学に招いてのヒアリング,土地改良区の視察等を行った.

 調査の結果,(1)排水路側畦畔の整備補修が不十分なため,濁水の漏出がみられる水田が多数存在したこと,(2)給水中の水田から同時に排水がなされている(いわゆる「かけ流し」)などルーズな用水管理がみられること,などいくつかの事実が明らかになった.これらの事実は,排水をしっかりと止められるような排水路側畦畔の整備が濁水対策の前提となるべきであることなど,濁水対策のあり方について重要な示唆を与えるものであろう.

 (2)「水草堆肥の発芽・生長に及ぼす影響」グループは,琵琶湖に繁茂しさまざまな問題を引き起こしている水草(オオカナダモ,コカナダモ)の活用について研究を行った.具体的には,水草を家畜分と混合して堆肥化したもの(水草堆肥)を用いて,これが植物の発芽・生長にどのような影響があるかを試験した.

 この試験では,(1)無施肥,(2)堆肥10%,(3)堆肥5%+化学肥料,(4)化学肥料の4つの区について,コマツナを材料にその生長を調べた.試験の結果,化学肥料が最もバランスのよい生長を見せたが,水草堆肥を用いたものも良好な成績であった.検討すべき課題は多いが,水草堆肥の現実性について貴重な情報を得ることができた.

(文責:増田)

 Jグループ

テーマ:琵琶湖周辺の自然環境と安全性

担当教員:藤原悌三、福本和正、伊丹清、

     小林正実

内容:内容: 本グループでは、表記テーマについて、前半は、教員からの関連分野の講義、全員で2回の野外調査、後半は、学生の希望テーマによる個別調査、最終回に成果発表、討論という方法で演習を進めている。

 前半の全体調査では、第1回は美浜原発ともんじゅを視察調査した。行きのバスでは、関電土木建築室の方に同乗いただき、原発の概要、耐震対策等の説明を受け、美浜原発では、屋上見学、構造的特徴の説明等を含む特別メニューで視察させていただいた。社会計画の学生から積極的に質問が出て担当者の方と活発な討論ができた。後半の個別調査でも原子力防災がテーマの学生が多かった。第2回は、美山町北村茅葺き集落を調査した。有限会社を設立して保存に取り組んでおられ、社長さんから保存の経過、残存理由、後継者育成等の説明を受けた後、集落内を案内防災設備(消火銃等)の視察等を行った。

 後半の個別調査は、FW2報告集に詳しく述べられており、そちらを参照いただきたい。

 また、本グループの演習内容は、昨年7月にパネル3枚にまとめ、オープンキャンパスで展示されている。

美浜原発屋上の施設見学の様子

(文責:小林)



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環境フィールドワークIII

環境計画学科・生物資源管理学科

Aグループ

テーマ:「まちづくりと環境情報」

担当教員:柴田いづみ、松岡拓公雄、井手慎司

内容: (1)オープンデスクレポート: 齊藤有生(環境計画学科環境建築デザイン専攻)

 今回のオープンデスクでまず建築の新しい見方を学びました。「街をつくる建築」です。所長の柴田さんは「最近建築が街と具体的な関係をもたない自閉症的になってきている。また建築物が街に何かを提供しているというあり方は全く見られなくなってきている。だから街自体が魅力のないものになってしまっている。」と言われ、私もこの考え方には共感しました。

 また、「土地本位経済体制の崩壊と中央統制による

社会運営が揺らいでいる現在こそ自分の土地の資産価値を高めるうえでの街づくりが大事になってくる」と言われ、個人の利益と結びつけることによって本当に現実味を帯びた優れた意見であると感じました。

 大学での建築と社会での設計の違いはたくさんあり、本当の建築設計があれほどの規制や他の様々な企業とつながって行われているのは驚きました。例えば法律、施主、設備会社であったりと自由に設計してきた今までの設計演習とは正反対で、しがらみの中でデザインすることの難しさが伝わってきました。

 今回のオープンデスクで今の自分足りない所は書ききれないほど見つかり、建築という仕事に対する魅力も感じ、残り少ない学生生活の間に出来る限り知識と経験を蓄えて将来の進路決定に役立てたいと思います。今までの大学生活に匹敵するほど様々なことを経験でき、また学んだ充実したオープンデスクでした。

(研修事務所:SKM設計計画事務所)

(2)ベンチプロジェクトレポート:井上洋一(環境計画学科環境建築デザイン専攻) 

 待合室のベンチを造ってみないかという誘いから、手を挙げたのが、磯部と私である。条件は、学生が学生らしく造れるもの、学生しか造れないもので材料として主に木を使用すること、そして自分の手で造ることである。滋賀は四方を山に囲まれた土地で、輸入材を使う意味はあるのであろうか。われわれは、間伐材を使用すること、自分たちの手で造ることにした。単に間伐材といってもなかなか手に入らないのが現状で、どのようにどんな木材を手に入れるかが最初の問題点であった。その中で、森林組合の木材置き場で、端材や廃材が目に入った。普通、薪にしたりするものである。これを見たとき何か漠然とした魅力を感じた。小口であり、全く不揃いな大きさでもあった。

 現在、人と人の間に境界ができ、その関係がぎこちないものになってきている。その中で我々が考えついたのが端材、廃材をひとつの塊にすることである。

 あたかもバラバラになりかけていた個のスペースを1つにつなぎ合わせ、再び人と人との心のつながりを持たせるようなものは出来ないか。そう考え、端材、廃材一つ一つの形を生かしたベンチ作りが始まった。

  その途中森林発電プロジェクトのことが耳に入った。「廃棄」してしまうことがあたりまえになってしまった木材。木工の作業時に出る「おがくず」。「木材」を圧縮しプラスティックのように固める技術。炭から電気を「発電」する技術。

 この「4つの要素」を一連の循環の中に求め実験を開始した。民・官・産・学協同プロジェクトである。

 日本は、ある意味、木無しでは生きられない人種である。現在その木材は輸入材である。自分の国の木を使わず、他の国の木を使う分けにはいかないのではないであろうか、自分たちの山をどう活用したらいいのか考えなければいけない時期なのである。

(文責:柴田)


 Cグループ

テーマ:環境をテーマに「まちづくり」の方法を実践を通じて学ぶ:宿親制度の調査 磯区(米原町)

指導教員:内井昭藏

内容: 本グループは磯区に伝わる風習、宿親制度について継続的に調査研究することにした。この風習は磯区が以前、入江内湖に面していた関係上、農業従事者は遠く離れた田畑に行くのに時間がかかり、その間子供の養育面倒をみるために生まれた相互扶助制度である。本調査に当り地元宿親の一人である大長弥宋治氏に宿親制度の概要を伺い、各種文献などを借用、磯区の歴史、入江内湖の埋立状況、宿親制度の利点、問題点などをあらかじめ研究した結果、現在まだかつての宿親、宿子が存在することを知り、アンケート聞き取り調査をすることにした。現在その準備中だが、結果は春休み中に集計し、内容分析を試みる。FW3ではこの調査の下準備としてアンケート内容について検討を行い、調査項目を策定した。本調査は磯区まちづくりにとって基本となる調査となる。

 Dグループ

テーマ:オープンデスク

指導教員:三谷徹、石田潤一郎、杉元葉子

内容: オープンデスクは、環境・建築デザイン専攻がかねてより学生に推奨していたものであり、今年度から積極的に単位認定するためにフィールドワーク3に取り入れたものである。オープンデスクとは実際の設計事務所などに出向き、大学で学んでいることの現実社会での位置付けを知ることを主な目標としている。日本建築家協会などでは、その主旨を各設計事務所に通達している。当フィールドワーク3では、3つのことを学生に課した。ひとつは学生自ら自分を受け入れてくれる民間設計事務所を見つけだしてくることである。この時点で既に多くの社会勉強をしたと期待している。ふたつめは、事務所での具体的仕事の内容を日報として報告することである。最後にそこから学んだこと、また自分の適合性判断、将来の展望などをレポートさせた。現実の仕事の厳しさにただただ驚いた者、大学での講議演習にさらに意欲を示した者、自分の進路を考え直した者など多様な反応を見ることができた。

(文責:三谷)

 Fグループ

テーマ:環境基本計画・アジェンダ策定プロセス等への参画実験

担当教員:近藤隆二郎

内容: 参加者が1名(青柳純)であったため、野洲町環境基本計画の策定過程において町民との意見交流を目的として計画されたイベント『環境フェスタin野洲−環境基本計画仕込中−』の実行委員会にスタッフとしての参画を場として提供した。9月末実施までに、春先から月に1,2回ずつ平日夜に開催された実行委員会に参加し、具体的な企画案の提示や議論、役割分担などについて参画した。以下青柳レポートから抜粋。「『町の環境への取組み・環境基本計画の説明』は、壇上からの口頭での説明と配布資料があるだけで、決してわかりやすいとは言えない。」「パネルディスカッション『それぞれのエコイスト宣言』は、ありきたりでないパネラーに依頼したため、緊張をうまくほぐして考えを引き出していくということが、運営・進行サイドに求められる。」「一般市民を含む実行委員会を組織する場合、平日昼間は仕事等があるため、集まりは必然的に夜間となる。役場職員と他の委員との間で、情報を共有しながら意見を交換していくということをうまく行う必要がある。」

(文責:近藤)

 Gグループ

テーマ:自然環境を許容できる安全な建物を設計する

担当教員:藤原悌三、福本和正、小林正実

内容: 演習に先立ち、日建設計で活躍中の構造家陶器浩一氏にお世話になり、同氏の作品・現場を見学させていただくと共に、「素材・架構・技術と空間創造」のテーマで大変有意義な講演を聞かせていただいた。

各自の演習内容は鉄筋コンクリート造2スパン×1スパン2階建建物についてスパン階高を変えて構造設計・計算書作成を行うことで、休業期間中の8/ 1〜8/ 9午前午後に集中的に時間をとって行った。ハードな内容ながら、一人の落伍者も出すことなく終了できた。日程:5/18概要説明、打合せ

7/14現場・完成建物見学、構造デザイン特別講義

東洋ゴム工事現場(中間層免震建物)、大阪World

Trade Center(展望台・制震装置)、キーエンスビル

(高層ビル)、梅田ダイビル(スーパーフレーム)

8/ 1課題説明、建物概要、伏図・ラーメン図、荷重表8/ 2準備計算(剛比、C,M,Q、柱軸方向力)

8/ 3地震力の算定、鉛直荷重時・水平荷重時応力算定

8/ 6梁・柱断面算定  8/ 7小梁・スラブ断面算定

8/ 8支持力、基礎断面算定  8/ 9構造図

1/22報告集作成

(文責:小林)

 Hグループ

テーマ:環境・建築設備FW

担当教員:伊丹 清(計画)

内容: 光・熱・音・空気などの建築に関わる環境物理要素のひとつを取り上げ、建物内外での分布や時間変動を継続的に計測することにより、外部環境の変動や、建物内部での人の活動などが及ぼす影響の仕方を比較・分析することを目的とする。また、これら測定・分析によってそれら環境物理要素の分布性状や物理的特性に対する理解を深め、建築環境計画や設備計画の考え方について考察することも目的とする。今年度はじめてのFWであり、希望する学生は1人であった。

 興味のある物理環境要素として温・湿度を挙げたので、環境科学部のB1,B2棟を中心に各階廊下や階段、また吹き抜け周辺など多点での温・湿度の計測を長期に行うことを計画する。結果的には夏期と冬期に集中した計測を行い、場所別(25点)のデータ、および同じ位置(9地点)での継続的なデータを得た。

これらデータの分析は現在進行中であり、考察はこれからである。

(文責:伊丹)

 Iグループ

テーマ:溜池環境の総合的調査

担当教員:仁連孝昭、奥野長晴、奥貫隆、水原渉、

     小池恒男、増田佳昭、高橋卓也

内容: 農村における水利用は水汚染の要因として厳しい目を向けられる一方、その水路・ため池等の水環境は様々な生き物のふるさととしての高い評価を受けるようにもなってきている。当グループは、湖東の農村地帯である湖東町とその周辺における水利用の今昔を探ることを目指した。そのため、現地でのため池の自然科学的調査と地域の方々への聞き取り調査を実施した。

 ため池の自然科学的調査としては、9月に合計5日間をかけて湖東町、愛東町、秦荘町の46のため池を巡回し、それぞれのため池に生息する昆虫、植物、魚類の種類を記録するとともに簡単な水質検査を試みた。そのなかで、各々のため池の生物相および多くのため池で管理が放棄されている実態を観察することができた。なお、調査に同行し指導をしていただいた澤田弘行氏は大津で開催された世界湖沼会議において、調査結果をまとめたものを発表されている。

 地域の方々への聞き取り調査では、湖東町の4集落(横溝、大沢、湯屋、平柳)の方々に以下のようなお話を伺った。古来、この地域における農業の歴史は水確保への挑戦の歴史であった。古代条里制の時代以来、天水、ため池、野井戸および人力に頼った灌漑が長く続いてきた。そのため、この地域には水を大事にする制度があり、ため池は生活の大きな部分を占めていた。近代になって、電動ポンプの導入(昭和初年〜)そして愛知川水利事業の完成(昭和50年代)により農業用水に不足する時代は過去のものとなっている。 総括すると今回のフィールドワークの意義は次のようなものであろう。琵琶湖の水質改善のための環境保全型農業の一環として、伝統的な循環型水利用の見直しが取り上げられることがある。今回の聞き取り調査では、その伝統的水利用の最終段階であった昭和初期から中期にかけてのことを知っておられる方々の実体験を直接お聞きできた。また、伝統的水利用が消滅した現段階の農村における水環境を、ため池を中心として自分たちの足で歩き、自然科学的視点から見つめることができた。

 最後になるが、澤田弘行氏をはじめこのフィールドワークにご協力いただいた湖東町の皆様に深く感謝したい。

(文責:高橋)


 Lグループ

テーマ:工事現場から出る土はどんな土か

担当教員:川地 武、須戸 幹

担当者:枝村聡子

内容: 大学周辺でも建設工事が活発に行われ、大量の掘削残土が発生している。この土の性状と取り扱いに興味を持った。そこで、市立病院、城陽小学校の新築工事、市内下水道工事で発生する土が搬入され

る曽根沼圃場整備事業の現場に着目し、土の一般的な性質とモリブデンの含有レベルに関して調査した。モリブデンは植物中の窒素代謝を司るある種の酵素の構成元素であり、一般の農地では不足する元素ではないが、地下深くから掘り出した建設残土にはどの程度含まれるかに興味を抱いた。土のモリブデン含有量の試験は初めて経験であり、比色分析に用いる試薬の安定時間が短いので担当者は苦労した。調査の結果、掘削残土のうち建設材料としては不良な沖積層のシルトも農地用の土としては粒度、モリブデンレベルの面で問題のないことが判った。

 Mグループ

テーマ:地域環境を測る

担当教員:指導教員:矢部勝彦,金木亮一,小谷廣通,

          岩間憲治

内容: 本グループでは,本年度から国および各都道府県の農業土木関連の事業所,また同関連の外郭団体において夏期実習を行うことにした。参加した学生は4名で,滋賀県東近江地域振興局環境整備部,水資源開発公団豊川用水総合事業所,近畿農政局新湖北農業水利事業建設所および東海農政局新濃尾農地防災事業所犬山支所の各事業所にお世話いただいた。

 実習内容はまず各事業所の事業内容の把握と理解。実際に従事した実習内容は各事業所で異なっているが,防火用水設計の為の測量,水質調査,水深を測定し河川および各水路の流量計算,水路の用水機能調査,管理用道路の測量と設計,盛土土量の算定(測量と土積計算)である。また,各事業所近辺にある農業土木関連施設も見学した。各学生の実習報告書にある通り,上に述べた各実習の取り組みを通して,各事業所の公共事業としての理念も理解でき,貴重な現場体験ができたものと思われる。

(文責:小谷)

 Nグループ

テーマ:人の暮らしへの園芸作物の関わり

担当教員:西尾敏彦,上町達也

内容: 花や緑はあまりにも日常的に目にする身近な存在であるため,その役割や効果についてあまり意識することは無い.しかし近年,花や緑の効用,特にそれらを自らの手で育てるという栽培活動の効果が注目され,福祉,医療,教育,地域の活性化などいろいろな目的で採り入れられてきている.本グループでは,これらの具体的事例について,実際に現場に出向き,花や緑,またこれらを栽培することによるさまざまな効果や問題点を調査している.本年度は,保育園に園芸を採り入れることの効果や導入するにあたっての問題点などを調査した.

 年長組の園児達(5~6歳児クラス)に各1鉢ずつミニトマトを栽培してもらった.園児には栽培を行う前にあらかじめ,植木鉢に挿す大きなネームプレートを用意してもらい,ネームプレートには園児の名前とトマトの苗木にトマトが着果している様子の絵を描いてもらった.園児達は土作り,鉢への植付け,誘引などを学生の指導のもとで行い,日々の水やり,収穫などの栽培管理を各自責任をもって行った.学生は,植付け,誘引,整枝などの作業日や収穫期間などに保育園を訪れ,園児に指導をしながらトマト苗の成長の様子,難しかったこと,面白かったこと,発見したこと,収穫した果実に対する感想,食べたときの感想,各自の家に自分の作ったトマトを持ち帰ったときの様子などについて聞き取り調査を行った.また保母さん達に対しても,トマトを栽培管理している際の園児の反応や変化,園児が園芸を行うことによりもたらされた効果,あるいは期待する効果,保育園で園芸を行う際の様々な問題点などについて聞き取り調査を行った.これらの調査結果をもとに,保育園に園芸活動を導入することによる効果,更に効果をあげるために改良すべき点,問題点の整理と対処の方法などについて検討した

(文責:上町).

 Oグループ

テーマ:微生物と植物の生きざま(寄生と共生)

担当教員:但見明俊,入江俊一

内容: イネ,ムギ,トウモロコシは世界中の人間に食糧を提供してくれている大切なイネ科の作物である.

数多いイネ科植物の中でも比較的丈夫な仲間であると考えられている牧草や芝草は何回も刈り取られても元気だ.最近,丈夫なイネ科植物がある種の微生物と共生していることが分かってきた.ほとんど日本中に広く分布するイネ科植物にカモジグサやアオカモジグサがある.これらにも共生する糸状菌がいる.共生菌との共生を調べることで,広範な分布の理由が解明できないだろうか.これまで,アオカモジグサの共生菌感染率を宇曽川や琵琶湖のまわりで調査した.本年はさらに範囲を広げて各自の出身地の周辺を調査の対象とした.その結果,東西は愛知県から兵庫県まで,南北は和歌山県から福井県までの範囲の実態が把握できた.

目下,共生菌がアオカモジグサにどんな利益を供与していると考えられるかを討議している.

(文責:但見)

 Pグループ

テーマ:彦根市における酸性雨と松枯れの実体

担当教員:上田邦夫

内容: 昨年と同様に、大学構内における降雨水の酸性度とECの観測を行った。また、大気汚染からくる植物生育阻害の例として、マツ枯れやスギ枯れについて調査し酸性雨との関連について考えた。(学生5人)

 降雨水の酸性度は低い時で3代後半が降雨のはじめに何度か観測された。4代が多く観測された。また、絶えず大気が酸性物質により汚染されていることが分かった。マツ枯れは、近年日本中あるいはアジア全体で顕著になっており、彦根市の場合を例に取り調査した。また、近年日本中の都市あるいはその近郊で観測されているスギ枯れを彦根市とその周辺で調査した。松枯れは彦根市においてもこの数年でほとんど壊滅状態になるほどに進行した。スギ枯れも彦根市においてかなり進んでいることが認められた。こうしたことの相互関係を解明していく方法について考えた。

(文責:上田)

 Rグループ

テーマ:これからの畜産

担当教員:中嶋 隆

内容: 今話題の「狂牛病」問題をはじめ、畜産公害、収益の低下、後継者の不足など、最近の畜産情勢は非常に厳しい。そのようななかでも、畜産農家はわれわれ消費者のために、毎日まいにち汗水たらして、家畜の世話をされている。

 今回、私たちは酪農家、肉牛農家、養鶏家を廻り、農家のかたがたの苦労話や楽しい話を聞き、「これからの畜産」について、どのように考え、毎日を過ごしておられるかを6戸の農家に聞き取り調査した。

 農家に共通していえることは、(1)夫婦が毎日一緒に仕事ができる。(2)2世帯での生活で、婦人は家畜の世話と家庭面との両立が避けられない。(3)「これからの畜産」とは、人に迷惑をかけずに、ぼろ儲けすることなく、安全で良質の食べ物をつくり、消費者に喜んでもらう、ということであった。よく考えてみると、「今までの畜産」も、「これからの畜産」も、一体どこに違いがあるのだろうか、と考えさせられた。

 聞き取り調査をした学生から見れば、畜産の話を農家の方々から直接聞かされたことは、多分初めてのことでもあり、意義深いものであったと思われる。

(文責:中嶋)

 Sグループ

テーマ:野外生物学へのアプローチ

担当教員:沢田裕一

内容: 野外生物研究の基本的手法を学ぶことを目的として、以下の2テーマについて野外調査を実施した。(1)外来魚(オオクチバス)の食性調査:琵琶湖南湖(守山市木ノ浜)、北湖(西浅井町菅浦)、内湖(彦根市曽根沼)で、刺し網を用いてオオクチバスを採集し、胃内容物を調べることにより、場所間、体長間でのオオクチバスの食性を比較した。(2)ヤナギルリハムシの個体数変動:犬上川河川敷に分布する4種のヤナギについて、それを餌とするヤナギルリバムシの個体数調査を行った。シーズンの初期には、ハムシ密度はジャヤナギで最も高く、季節を経るにしたがいコゴメヤナギでの密度が増加した。このような相違は二次生えなどヤナギの質の変化が重要だと考えられ、天敵の影響は認められなかった。

(文責:沢田)



 環境生態学科

1 地球環境系グループ

担当教員:伏見碩二、倉茂好匡、上野健一

内容: 当研究グループでは"FW3の基本的な性格は卒業研究のための準備段階である"と位置づけ,下記( )内の7名の学生指導を行っている.(文責:伏見)

【上野】研究班(岩木真穂,寺島司,高畑秀史)

大学圃場に簡易自動気象タワーを設置し,放射・熱収支の模擬実験を実施した.得られた2週間のデータを使って,設置気象の動態を把握し,各種熱収支法の適用限界を学習した.冬季には,集水域実験施設にて定期的に積雪観測を実施し,特に密度の連続データを取得して卒論生の積雪水量モデルの検証を行う.

【倉茂】研究班(安藤晋吾,黒木太介)

犬上川河口部に掘削された導水路では,掘削後1年でその河口側にかなりの土砂が堆積した.そこで,その土砂堆積状況を明らかにするための測量調査を実施した.また,取り残された河辺林内の浸透環境を知る一助として,河辺林内の根系網の調査を行なった.【伏見】研究班(三田恵里,西村茂樹)

自然・人為的要因による湖岸地形の変遷はヨシ帯をふくめたエコトーン生態系に大きな影響をあたえるので,犬上川河口域をはじめとした北湖湖岸の調査を行うとともに,地球温暖化による山岳地帯の永久凍土地帯への影響を明らかにするために,地表面状態の異なる地域での地温構造調査を行っている.

2 水圏生態系グループ

テーマ:琵琶湖北湖の低次食物網研究

指導教員:安野正之、伴 修平

内容: 琵琶湖北湖の最深部定点に於いて、プランクトン生物の時空間分布およびプラ ンクトン食物網のエナジーフローを調べるための研究を開始した。湖における一次生 産者は、0.1mmにみたない植物プランクトンだが、これらが作り出した有機物は、1) 動物プランクトンによる摂食、2)湖底への沈降、3)カビやウイルスによる感染、の 3通りの運命をたどる。1)はいわゆる食物連鎖を通して魚や水鳥の肉になり、2)は 底性動物の肉になるか、あるいはバクテリアに分解されて無機化され、3)は細胞が 壊れて溶存態の有機物ソースとなる。従って、植物プランクトンの運命を知ることは湖の物質循環過程を解明する上で極めて重要な意味を持つ。フィールドワーク3で3年 次学生は、来年度から始める本格的な研究へ向けたトレーニングとして、動・植物プ ランクトンの採集法、植物プランクトンの増殖速度及び動物プランクトンによる摂食 速度測定のための現場実験法、沈降粒子束の測定方法をそれぞれ習得した。(文責:伴)

フィールドワーク3(中山・丸尾担当)では、琵琶湖北湖を対象とし、化学成分の鉛直構造について調査を行った。各種溶存成分を種々の手法を用いて測定することによって、目的による試料処理法の違い、分析法の違いについて習熟し、かつ各成分濃度がそのようになる理由について考察した。湖沼環境実験施設実習船「はっさか」を利用し、琵琶湖最深点付近にて2.5〜10mおきに深度別採水を行った。実験室にもちかえってのち、ろ過を行い、濃度変化をうけやすい成分から順に分析を行った。栄養塩(硝酸、亜硝酸、アンモニア、リン酸態リン、ケイ酸)分析を自動分析による分光光度法で、主要陰イオンをイオンクロマトグラフ法、アルカリ金属、アルカリ土類金属をフレーム原子吸光法、その他微量金属の定量をICP発光分析法によって行った。これら成分の鉛直分布を作製し、保存性成分、栄養塩、除去を受ける成分について、化学的性質から原因について考察した。

(文責:丸尾)


3 物質循環研究グループ

テーマ:琵琶湖の生元素動態

担当教員:三田村緒佐武、後藤直成

内容: 琵琶湖沖帯における時空間的な生元素(窒素、リン)の分布とその動態を把握するため、実習調査船はっさかを用いて、北湖のいくつかの定点で物理・化学・生物的パラメータを船上で測定した。また、この時採取した試料は、研究室に持ち帰り、濁度、溶存酸素濃度、主要イオン濃度、栄養塩濃度、クロロフィルa濃度の測定に使用し、各分析手法を取得した。野外観測と研究室での物理・化学分析から得られたデータは、統計学および統計的検定法の習得とともに、琵琶湖の生元素動態の評価に用いた。このフィールドワークにより、生物地球化学的な視点から琵琶湖の構造とダイナミックスが理解できるものと考えられる。

(文責:後藤)

4 陸圏環境大講座 集水域環境管理グループ

担当教員:國松孝男、肥田嘉文

内容: 本年度は4名の受講者があった.それぞれ4回生の研究テーマから興味ある点を見つけださせ,自らの卒論展開の可能性を考えさせた.乙守利樹(森林の水質形成過程),小野純子(地質と森林渓流水の窒素濃度),田中三恵子(動物プランクトンによる汚水の生態浄化),宗石光史(玄宮園魚躍沼の汚濁調査).

(文責:國松)

5 森林生物学グループ

テーマ:植物の生活 −環境と生物間相互作用

担当教員:荻野和彦、近 雅博、野間直彦、籠谷泰行

(1)ドングリの虫害調査:犬上川左岸の11本のナラガシワの樹冠下に2m×2mの区画を設け、2001年10・11月に1週間ごとに落下したドングリを拾い、解剖し虫害の有無を記録した。調査期間中に落下したドングリ数は1個〜473個だった。落下数が473個と飛び抜けて大きかった個体の虫害率は7.19%と低かった。他の落下数1〜108個の10個体の虫害率は0%〜100%と大きくばらついた。結実数が大きいと虫害率が小さくなるように見えたが、統計的に有意な結果は得られなかった。

(2)アカネズミによる持ち去り調査:各調査木の根元にドングリを20個ずつ設置し2日間にアカネズミに持ち去られる数を記録した。ドングリがよく持ち去られた個体はマダケ林内の木とタブノキ林内の個体だった。2000年までの調査ではタブノキ林内の2個体ではほとんど持ち去られなかったが今回はよく持ち去られた。これは河川改修工事のためタブノキ林の面積が減少し、林内がより林縁的な環境になったためアカネズミが生息するようになったためと考えられる。

(文責:近)