学生が地域で活動する意義とは〜地域へ飛び出す県大生〜

金尾 滋史

生物資源管理学科4回生

1.はじめに

 私自身、思い起こせば4年前、初めて滋賀県立大学へ踏み込んだときにはここまで地元の方々と様々な場所で交流できるとは思ってもいませんでした。現在、県大では「地域に根ざした大学」を目指して、学生も大学を飛び出て様々な活動を行なっています。 ここではサークルや個人単位で学生が大学を飛び出て、地域で活動している状況を私自身の経験を踏まえて紹介していきたいと思います。

2.地域の自然と関わる

 県立大学の横には犬上川という川が流れています。自然豊かで四季を通じて様々な動植物が観察できるほか、実習のフィールドとして、通学路として県大生にもなじみの深い川です。しかし一方でこの川は以前からたびたび洪水を起こし、河川改修が急がれている川でもありました。このような状況の中、先輩達の手で「犬上川プロジェクト」というサークル内のプロジェクトが生まれました。このプロジェクトの特徴は、文理を問わず犬上川の自然や歴史、環境問題等に興味を持った学生が集まっている点で、各個人が犬上川に関する研究を行なっているほか、プロジェクトとしても月一回の野鳥観察などを行なっています。私自身は一回生の頃から水生生物の生息状況などを主に調査しており、少しずつですがその様子がわかってきました。またその他の学生も様々なテーマで充実した研究をしており、その研究が卒業論文や修士論文のテーマとも関係している学生も少なくありません。

 そして犬上川プロジェクトでは、さらによりよい川づくりを目指そうと、地域住民・行政・研究者・学生が集い意見を共有できる「犬上川シンポジウム」を開催しています。過去二回のシンポジウムでは、普段学生が犬上川で行なっている研究の発表や、行政の方に犬上川の河川改修計画の説明などをしていただき、参加者全員で、これからの犬上川を考えていきました。このシンポジウムをきっかけにして地域との関わりも深まり、湖東地域振興局が企画した犬上川川作り会議にも発展しました。一つの大学のサークル活動が流域の住民や行政を動かし、流域全体でより良い川作りをしていこうと努力しています。

 犬上川プロジェクトは全国的に見ても珍しいタイプのサークルであり、その活動は全国の大学生にも少しずつ知られてくるようになりました。地域の方々との連携あっての犬上川プロジェクトですから、これからもどんどん犬上川周辺に出向き、さらなる活動が期待できそうです。

3.地域の学校と関わる

 犬上川での研究、そして活動も軌道に乗り始めた頃、学区内に県立大学がある彦根市立城陽小学校から県大生と関わりを持った行事をもちたいという依頼が届きました。そこでまずは地元のすばらしい自然を知ってもらおうと、私達が普段犬上川で研究・調査しているデータや知見を基に自然観察会を行ないました。その観察会をきっかけに、サークル宛てや各個人にも彦根市内の小中学校から多く依頼がくるようになり、県大生が市内の学校にお邪魔する機会が多くなりました。

現在、私は彦根市内のいくつかの小中学校で総合学習の時間などの講師を行なっています。教室で琵琶湖の魚や地域の生態系についての話をする講義もありますが、できるだけ野外に出かけて実際に生き物を見てもらい、その中で生徒自身が何か疑問を見つけ、その疑問を自分で解決する力をつけてもらうように考えています。今では3000人くらいは教えた生徒がいるでしょうか。中には私のことを覚えていてくれて、市内で見かけたときには声をかけてくれる生徒もいます。

4.地域の博物館と関わる

 学生と博物館との連携も充実してきました。単に卒業研究などを指導してもらうだけでなく、多くの学生が県内の博物館へ出向き、積極的にそれぞれの博物館で活動を行なっています。

 私自身も1回生の頃から滋賀県立琵琶湖博物館での共同研究に参加させていただいたことをきっかけに、多賀町立多賀の自然と文化の館、能登川町立博物館などでは観察会の講師や共同研究を行いました。ここで得た調査方法、専門知識はその後の研究や小学校での授業などで大変参考になっています。また卒業研究で扱った標本などは博物館に収蔵しており、わずかながらですが滋賀県内での資料収集のお手伝いもしています。

 博物館で活動するメリットは来館者の人と交流ができるということです。博物館は地域の情報が集まってきますから、そこで得られた情報をもとに新たな研究や展示のアイデアが浮かぶこともあります。滋賀県内には博物館も多くあるので、ちょっと足を伸ばして出かけてみるのも良いでしょう。

5.学生が地域で活動する意義とは

 学生はある程度社会的な立場にとらわれない意見を述べることができ、活動ができます。つまり学生という立場をうまく利用して社会にアピールすることが可能なのです。最近では様々な場所で学生の活動を受け入れてくれますし、その経験がさらに私達の考え方や物の見方を発展させてくれるでしょう。

 この四年間で、私自身も地域の小中学校や博物館・NPOなどに飛び出すことで大きな収穫がありました。これからは後輩達にもどんどん地域へ飛び出していき、様々なイベント・セミナー・シンポジウム・活動等に参加し、様々な人に出会って欲しいと思います。時には授業をサボってこういった場所にでかけるのも良いと思います(私もよく授業をサボって出かけました。この場を借りて先生方にお詫びします)。そこではきっと大学では学べないものを身につけることができるでしょう。幸いにも地域に根ざした土壌がこの大学にはあります。大学生活の4年間をただ大学内だけで過ごすのにはもったいないほど、地域には魅力的な活動や人がいます。

 学生がサークルや個人単位で大学を飛び出し、地域でも活動していくことがこれからの地域に密着した大学を作っていくものではないでしょうか。