環境科学部将来構想づくりの基本理念と基本方向

1.はじめに

 かえりみますと、「学部年報」第4号(平成11年度)には「学部改革についての提案」と題して、第5号(平成12年度)には、「環境科学部の将来についてどのように構想するか」と題して、つまり学部長に就任した11年度より、考えつづけていることを少しずつ書きとめてきたということになります。 さて、追い続けてきたこのテーマにそってさらに書き進みたいと思ったのですが、改めて、問題の性格がまるっきり変わってしまっていることに気づかされました。つまり、私にとってこのテーマ(学部改革)はあくまで内在的なこのであったはずなのですが、ご承知のように、大学はもはや世をあげて独立行政法人化であり、再編・統合なのであります。したがいまして私にとってこの1年は、新しい環境学部づくりを、内在する問題意識とこれらの外在する諸問題とを関係づけて検討するという必要性に迫られた1年でもあったわけです。とりわけ後者につきましては、ご承知のように、文部科学省が6月に『大学(国立大学)の構造改革の方針』を、9月には『新しい「大学法人」像について(中間報告)』を発表、8月には各国立大学に「中間目標・中期目標」の提出を求めるということで、まさに「風雲、急を告げる」という形容がぴったりの慌ただしい対応が求められた1年でありました。しかし、こうしてこの1年を振り返って改めて思うことは、重要なのは、「初心を忘れずに」ということであり、新しい環境学の創造、理想の環境学部づくりという内在的な問題意識が重要であるということであります。

 さて、平成14年度中に学部改革案を策定し、文部科学省に申請し、固定期限切れの平成16年の実施をめざすという方針のもと、7月に学部の将来構想委員会を立ち上げたこと(8月8日、第1回委員会の開催)、そして、4回に及ぶ委員会を開催して、改革の基本理念と基本方向を固めることができたということが、これまでにないまったく新しい状況であることをここで強調しておきたいと思います。以下では、その概要について簡単に述べておきたいと思います。

2 大学の再編・統合の動機

 大学の再編・統合の動機は「生き残り」にあります。その背後には、18歳人口の減少=定員割れ(2010年以降における日本の大学)、国家ならびに地方自治体の財政難という大きな社会の時代背景があります。そこから、規模が小さくて大学としての十分な公共サービスができない、学部数も教員数も少なくて学生も集まらない、だから再編・統合が必要、という流れが出てきます。この大きな現代社会の底深い流れの中から出てきているこの二つの難題に対抗するためには、ただ「動機不純論」に基づく反対論だけではすまされないわけで、これに対置するオールタナティブな政策をもたなければなりません。また、ただ単に、「生き残り」だからただそのための戦略・戦術さえあればいい、というものでもありませんから、この問題を主体的に受けとめて、これをアグレッシブにとらえ、大学を意識的に教育研究の発展に資するシステムに組み換えるためのよき機会として活かすことを意図するならば、そこにはまず、改革を方向づけるための大学の理念、学部・学科の理念が必要になります。

3 いかなる選択をすべきか

 本県立大学の独立行政法人化、再編・統合をめぐっての対応を具体的に検討するに当たっては、公立大学の置かれている環境について熟慮するならば(とくに、「文部科学省−総務省−設置者である個々の地方自治体」という関係のもとにある環境)、公立大学は「あと追い」にならざるをえないと考えるべきではないでしょうか。しかし、「実行はあと追い」になっても、「議論は先取り」で多いにやっていく、ときを得ればいつでも「先取り実行」もあり得るの構えが必要です。しかしいずれにしましても、大学の法人化は大学を単位として決定するものであり、また、最終的には設置者の決済に基づいて決定されるものであります。

 独立行政法人化、再編・統合をめぐっての本学の選択(つまり、経営形態と組織形態をめぐっての選択)の可能性については、表1のように整理して考えてみる必要があります。AからFのどの選択にも意味があるわけですが、法人格は必要、1)しかし、「単一独立の大学づくり」というのであれば、CやFの選択も立派な選択ということになります。國松知事は、「独立行政法人すべて良し、ではない。なぜならそれは手段にすぎないから。<小さくて光る大学>でもいい、しかしそれは相当にきびしい選択になるだろう」との見解を述べております。2)Aは、いわゆる、「県下国公立一大学法人」構想です。C、Fで県立試験研究機関を糾合してエクセレントな大学院づくりをめざすというのもひとつの選択肢です。

 また、独立行政法人化のメリットとしては、つぎのような諸点をあげることができます。(1)弾力的な対応を可能にする(硬直的な行政=規則の縛りからの開放)、(2)大学経営を担う優れた経営スタッフの獲得を可能にする、(3)独立行政法人化しても設置主体である地方自治体の意向は十分生かされる(独立行政法人化によってそれが損なわれる心配はまったくない。滋賀県が最大の資金提供者であることに変わりはない)。独立行政法人化は、確かに、知事の言うように手段にすぎないのですが、要は、そのメリットを正しく認識し、それを実現しうる主体形成があるのかないのかにかかっているように思われます。


表1 経営形態ならびに組織形態をめぐっての選択肢

経営形態\組織形態 全面的な統合再編 部分統合 単一独立
独立行政法人 A B C
直営方式 D E F


4 基本方向の提起

以上の検討をふまえて、ここではつぎの三つの基本方向を提起しておきたいと思います。

一、法人格の導入(独立行政法人化)も、一つの重要な選択肢として検討を進める。

二、県立試験研究機関を糾合してエクセレントな大学院づくりをめざす(大学院大学、重点化方針)。リサーチ・コンプレックスの意義の確認と今後の展開がきわめて重要になります。表1にしたがって言えば、「C→B→A」という流れにそった選択肢についての検討が重要であると考えます。

三、「世界的教育研究拠点」をめざす。平成14年1月、文部科学省は、研究費重点配分大学の名称を「トップ30」から通称「21世紀COE」、正式名称「世界的教育研究拠点」に変更しました。3)


注1) 法人格の必要性については、公大協資料『公立大学協会法人化問題特別委員会中間報告』2001.11、2pを参照。

注2) 平成14年1月17日の部局長との意見交換においての発言。

注3) COEは、センター・オブ・エクセレンス=卓越した研究拠点。環境科学は、「学際・複合」の分野(第9分野)に含まれ、2003年度に他の4分野とともに選定を受ける。



  2002年3月

滋賀県立大学環境科学部長

小 池 恒 男