現代GPを活用した地域活性化への貢献

“ スチューデントファーム「近江楽座」”の取り組みと成果

奥貫隆

環境計画学科

環境・建築デザイン専攻

1 大学教育改革と現代GP

平成17 年1 月の中央教育審議会答申「我が国の高等教育の将来像」では、地方分権化社会の到来、少子化時代の高等教育に期待される役割を再確認したうえで、個々の大学が個性や特色を生かした教育、研究に取り組む必要性を唱えている。とりわけ18 歳人口の減少が顕著で、平成4(1992)年度の205 万人をピークに18 才人口は減少し、平成15(2003)年度に150万人を切った。数字のうえでは平成19(2007)年度には18 才人口と大学定数が一致する大学全入時代に突入することになり、大学の選別競争は更に激化する。

一方、大学教育、研究を所管する文部科学省高等教育局においては、それぞれの大学の特色を生かした教育改革の取り組みを制度的、財政的にサポートするため「国公私立大学を通じた大学教育改革の支援プログラム」を次々と打ち出し、「21 世紀COE」( 平成14年度〜 )、「特色GP」( 平成15 年度〜 )、「現代GP」( 平成16 年度〜 ) などからなる高度な教育研究拠点の形成、特色ある大学教育、社会のニーズに応える大学教育の改革に取り組んでいる。(表1)

表1.文部科学省の大学教育改革取組支援(抜粋)1)


本稿で紹介する「現代GP」は、「現代的教育ニーズ取組支援プログラム」の略称で、高等教育の活性化をはかる目的から時代性を背景とした教育テーマを文部科学省が提示し、それに対して各大学が申請した教育プロジェクトを選定し、財政支援を行うものである。「GP」とは、「Good Practice」の頭文字を取ったもので、それぞれの大学の創意工夫にもとづく取組みで他の大学においても参考となる教育プログラムとして選定されたことを示す。

本学が申請した「現代GP」は、平成16 年度に創設された大学改革推進事業であり、文部科学省が提示した6 つの教育テーマ(現代的教育ニーズ)は、(1)地域活性化への貢献、(2)知的財産関連教育の推進、(3)仕事で日本語が使える日本人の育成、(4)他大学との統合・連携による教育機能の強化、(5)人材交流による産学連携教育、(6)IT を活用した実践的遠隔教育(e-Learning)となっている。本学は、「地域活性化への貢献」をテーマとして申請し、採択された。事業期間は、平成16 〜18 年度の3 カ年間である。平成16 年度の現代GPは、全申請件数559 件、採択された取り組みは86 件、採択率は、約15%という結果であった。(表2)

表2.現代GPの公募テーマと選定状況(平成16年度)2)


2 本学における現代GPへの取り組み

(1)“スチューデントファーム「近江楽座」- まち・むら・くらしふれあい工舎”のプログラム

1.プログラムのコンセプト

本学の現代GPプログラムは、地方の都市や地域が抱える、街並みの保全・再生、中心市街地の活性化、地域資源としての古民家再生・活用、農村コミュニティの育成、都市と農村の交流、地域医療の拡充などの諸課題に対して、地域を対象とするカリキュラムとしての演習やフィールドワークの課題及び学生による自主研究活動の中から「地域活性化への貢献」に寄与することが期待できる取り組みを“スチューデントファーム「近江楽座」”プロジェクトとして選定し、活動を全学的にサポートすることを目的として実施するものである。

「ステューデントファーム」は、学生の自主性、主体性を尊重する教育プログラムであり、育成された人材が社会に巣立つ拠点となることを示す。「近江楽座」は、琵琶湖を中心に形成される近江の自然、歴史、文化をフィールドとして、調査、研究、活動テーマを発見し、地域との協働、連携の中で根付かせていくことをあらわす。サブタイトルの「まち・むら・くらしふれあい工舎」は、城下町、商人町、宿場町、農村集落、田園、生活文化など、キャンパス周辺に多様な活動対象が存在する本学の立地特性を生かし、それぞれのニーズや課題を把握した上でプロジェクト化し、地域活性化及び地域文化の振興へ取り組むプログラム内容を示すものである。


図1.スチューデントファーム「近江楽座」のフィールドマップ(平成18年1月1日現在)

分権化時代の地方の大学のあり方が問われる中で、平成18 年度に独立法人化する本学にとって、「地域活性化への貢献」をテーマとする現代GPに対する取り組みは、地域を視座においた教育研究の推進及び社会の要請に応える人材育成を目指す本学の基本姿勢を学内外に提示する機会と捉え、活動成果の定着とあわせて全学的な体制で取り組んでいる。

2.プログラムの骨格

“スチューデントファーム「近江楽座」”募集要項に基づいて、学内公募し、選定したプロジェクトに対して、活動に必要な事業費を助成するする(初年度の平成16 年度は、総額1500 万円、平成17 年度は、1350 万円を助成、共通事業費を含む)。現代GPの目的を達成するために教員及び大学事務局(交流センター、会計課)で組織する「現代GP推進会議」を組織し、各プロジェクト指導教員の協力を得ながら学生の地域活性化への取り組みをサポートしている。(表3)

表3.現代GP推進会議及び事務局


3.プロジェクトの支援システム

“スチューデントファーム「近江楽座」”として選定した学生の地域活動に対して、以下のシステムによってプロジェクト支援を行っている。

■活動助成システム

スチューデントファーム「近江楽座」プロジェクトとして、応募のあったすべてのプロジェクトについて公開プレゼンテーションを実施する。外部の審査員を含むプロジェクト選定委員会において対象地域、テーマ性、計画性、継続性、発展性などの観点から成果が期待できるプロジェクトを選定した上で、各プロジェクトの事業計画に応じて、文部科学省の教育補助金を原資とする活動費の助成を行う。

■コンサルティングシステム

 選定されたプロジェクトについて、担当教員による指導に加えて、現代GP推進会議による説明会、相談会をとおしてプロジェクト遂行のためのノウハウ(事業計画、予算管理、行政対応、地域協働など)の指導を実施する。又、大学と地域の連携をテーマとするシンポジウムの開催によって、地域連携に対する学生の視野の拡大や他地域との連携を促す。

■地域「知」のリソースシステム

 開学以来10 年以上に及ぶ大学と地域連携に係る情報を所定のフォーマットによって収集し、地理情報システム上で情報管理するとともに、これから取り組まれるプロジェクト情報(ひと、こと、場所)を、他大学、研究機関、行政、NPO 団体と共有化し、活用するデータベースを構築する。

以上に述べた3 つのシステムでサポートされる本学の現代GPプログラム概念図を、図2 に示す。これら支援システムは、大学と地域の新たな関係を構築し、プロジェクトの成果を地域に定着させていく上で不可欠な仕組みである。


図2.スチューデントファーム「近江楽座」概念図

3 “スチューデントファーム「近江楽座」”の活動概要

学生主体の地域活動を活性化し、現代GPの事業目的を達成するために、教員及び事務局で組織する「現代GP推進会議」を中心に、“スチューデントファーム「近江楽座」”の企画、運営、指導、広報に関する以下の活動を通年的に実施している。(表4

また、滋賀県立大学にリンクして、“スチューデントファーム「近江楽座」”のホームページを開設した。ホームページは、学内外へ本学学生の地域活動情報の提供と共に、文部科学省への取り組み報告及び他大学の現代GPとの情報交換の場として活用していく。

さらに、 プロジェクト毎の活動成果の公表とは別に、平成18 年度に3 カ年間の事業及びプロジェクトの内容を出版物として刊行し、他大学他の教育関係者、行政担当者、一般市民に対して、地域の活性化、人材の育成、小中高大連携、生涯教育など社会の要請に対する本学の取り組み成果として公表する計画である。“スチューデントファーム「近江楽座」”の活動は、新聞、ラジオ、TV のメディアでもとりあげられた。平成16-17 年末の実質1 年間で、新聞掲載は延べ64 回、ラジオ・TV 報道は、滋賀県立大学「近江楽座」紹介(NHK)、TTP+(NHK、びわこ放送)、UTSUWAD(びわこ放送)、とよさと快蔵プロジェクト(びわこ放送)、竹林プロジェクト(NHK)など延べ9 回となっている。

4 主なプロジェクトの紹介

平成16-17 年度の2 カ年間で、本学の現代GP“スチューデントファーム「近江楽座」”として助成の対象としてきたプロジェクトは、34 件である。テーマ別の内訳は、まちづくり(7)、地域イベント(7)、民家再生(5)、産業振興(8)、地域医療(2)、環境保全(5)となっている。このうち、小・中・高大連携の活動が2 件ある。以下に、主なプロジェクトについての活動目的及び概要を示す。なお、詳細については、滋賀県立大学ホームページ「近江楽座」を参照されたい。(URL: http://www.ses.usp.ac.jp/ohmirakuza/)

<地域文化活動、環境活動をテーマとするプロジェクト>

■リバーウォッチングin 安曇川/リバーウォッチングin 安曇川

 高島市立安曇小学校における総合学習「リバーウォッチングin 安曇川」へ参画する小大連携活動。自然環境や地域文化の大切さを子どもたちや地域の人々と共有し、明日の地域づくりに生かす。

■ KTT /発信基地in 朽木の森

 過疎化・高齢化の進む朽木の地で、伝統料理(栃餅やこんにゃく)作りや林業文化とのふれあいをとおして地域の人々との交流を図るなど、学生の立場で地域の架け橋となる行動を展開する。

■エコキャンパスプロジェクト生き物部会/犬上川竹林プロジェクト

 犬上川河辺林の竹林の管理をとおして、生き物が棲みやすい河辺林へ環境再生するプロジェクト。間伐材を竹炭や竹紙として有効活用するなど、竹を資源活用する取り組みを市民参加で展開する。

■ P − S(ピース)/環境フェスタin ぎおう

 野洲における地域住民による環境づくりのための環境フェスタに、実行委員として参加。HP の設置、ポスター展示、住民へのヒアリングなどのワークショップを学生中心に展開し、環境をとおした大学と地域の連携に貢献する。

<古民家再生・活用をテーマとするプロジェクト>

■エコキャンパスプロジェクト木楽部会/おきくら

 地域に残る空き蔵の部材を譲り受け、学内に移築する活動。空き蔵は、県の木工室として再生し、学生の建築実習に利用する一方、地域に開かれた活動拠点として活用し、大学と地域の交流を促す。

■日牟礼楽座/「蔀戸のある家」の保存と活用

 八幡商家に特徴的な「蔀戸」を持つ古民家の保存・活用法を調査研究し、行政や地域の人たちとともに、近江八幡の新たな景観資源・観光資源の創出を目指す。

■七曲がり楽座/「土戸のある町家」の保存と活用

 彦根城下町外縁部の「七曲がり」に残る江戸後期の町家を中心に、家屋内部の整備・復原を試みる一方、町家の公開やイベントの計画など、伝統的町屋の保存・活用方法を地域住民とともに模索する。

■とよさと快蔵プロジェクト/とよさと快蔵プロジェクト

 豊郷町の、NPO 法人とよさとまちづくり委員会と協働し、空き民家や空き蔵を学生の共同生活の場(シェアハウス)として改修する事業を展開する。町の祭など地域のイベント企画、運営、参加に地域住民との交流を深める。

<まちづくり、地域おこしをテーマとするプロジェクト>

■ドラマ下名II/吾川郡下名野川地区地域活性化事業

 廃校になった小学校を拠点とする村おこし活動。平成17 年4 月「山村小学校『しもなの郷』」を宿泊施設としてオープンした。学生と地域住民の協働による施設運営をとおして、“地域サポーター”としての活動を続ける。

■木匠塾/ TTP +

 多賀町多賀大社周辺・門前町の活性化をテーマとする活動。昨年からスタートした学生と地域住民との対話の場「木壱の日」をとおして、祭り参加、サイン計画などを企画、実行する。

■ RE CULTIVATORS(再耕築するものたち)/三津・海瀬町市民農園プロジェクト

 環境共生時代における農業の可能性について農村集落住民のとともに考える。集落景観、歴史的要素を生かしたむらおこしのために、農地を活用した都市、農村の交流計画を住民とのワークショップをとおして提言する。

■男鬼楽座/廃村「男鬼」の村おこし

 山間集落「男鬼(おおり)」の保存・活用を目的とする地域活動。自然環境・集落景観・民俗文化などの調査結果をもとに、男鬼が継承してきた生活文化を集落の中で再現し、公開するなどの企画をとおして地域おこしに取り組む。

<イベントによる地域活性化プロジェクト>

■ C3(community concierge consultant) /中山道コンシェルジェ養成プロジェクト

 地域の魅力を生かして活動する人材「コンシェルジェ」を育成し、中山道の宿場をつなぐネットワークづくりを行い、地域の活性化を図る活動。宿泊イベント「百楽講座」や町の飾り付けを行う「百彩」プロジェクトなどのイベントを企画、運営する。

■ BIWAKO“近江八幡”ビエンナーレ実行委員会/BIWAKO ビエンナーレ県大学生実行部

 近江八幡市を拠点に、アートが持つ可能性をまちづくりに活かす活動を展開。地元のイベントは、県大生にとっての表現活動の機会となり、また、大学と地域の連携や信頼関係を築き上げる新しい活動として定着を図る。

■菜の花エネルギー/菜の花エネルギー教育ネットワークの構築

 NPO 菜の花ネットワークや工業高校の協力を得て、高校生を対象に菜の花が持つ特性や油の有効利用についての講義および実習を行う。菜の花栽培、菜種油採取、廃油回収などの活動やカートイベントなどを展開し、小中高のエネルギー教育を支援する。

<産業振興、地域発信をテーマとするプロジェクト>

■ UTSUWAD /再興湖東焼プロモーション事業

 NPO 法人湖東焼を育てる会と連携しながら、彦根の伝統産業である「湖東焼」の魅力とその普及を目的として活動。ロクロ体験教室、穴窯体験など、土に触れる楽しさなどをHPで広報する。

■廃棄物バスターズ/ Let's 複合

 工学部の特性を生かし「ポリエチレン(PE) 材料とポリプロピレン(PP) 材料を相溶化させるための技術開発」をもとに、プラスチック系廃棄物利用の可能性、製品化について地域企業の協力や助言を得て取り組む。

■彦根仏壇デザインチーム/伝統創作仏壇デザイン開発事業

 彦根の伝統産業である彦根仏壇を持続、継承していくための意匠開発への取り組み。仏壇製造を支える職人の匠の技をいかし、次代を見すえた創作仏壇デザインを開発することによって地域の再ブランド化を目指す。

■マニフェスト信楽/信楽グランドデザイン調査開発事業

 甲賀市信楽町をフィールドに、地場産業の趨勢、町の変遷、暮らしの様子などを聞き取り調査し、地域が抱える問題を明らかにする。焼き物産地調査や地域懇談会であられた地域情報をもとに、町の将来のグランドデザインとして描き、地域活性化を支援する。

<地域医療、子育てをテーマとするプロジェクト>

■未来看護塾/ 市民および医療に携わる人々とのふれあいを通して志向する未来看護塾

 彦根市立病院など医療現場で働く看護職、施設スタッフの人々とボランティア活動を通して交流し、地域医療や未来の看護のあり方を、漢語を学ぶ学生の立場で考え、行動する。

■いっそ磯/いっそ磯

 米原市磯区のまちづくりをとおして、子どもたちが「磯を知り、磯で遊ぶ」機会をつくるための「子育てサロン」のサポートなど、地域の明日を担う子どもたちのための活動を、企画し、実行する。

平成16、17 年度“スチューデントファーム「近江楽座」”プロジェクト一覧を表5に示す。

5 現代GPの教育的効果

「地域活性化」をテーマとする現代GPプログラムによって、学生が、社会の仕組みに対する正しい理解、地域に根ざした問題発見の能力、問題解決に対する行動力、合意形成をはじめとする人とのコミュニケーション能力などの実力をアップさせることは、学生のための教育内容の充実とあわせて、今日の教育改革が目指す、社会に有為な人材を送り出すという時代のニーズに応えることに結びつく。

地域における学生たちの活動は、小・中・高大連携という教育ニーズに対して、次の世代を担う児童や生徒に、進路の選択や進学志望へのモチベーションを高めるという直接的な効果を生む。目的意識を持った学生が地域との協働の中から、地域の活性化という形で成果を生み出したとき、その教育的効果に対する地域の評価は高まる。“スチューデントファーム「近江楽座」”によって得られる学生教育上の具体的な成果について、以下に列記する。

・地域との連携、協働の中で、行政、商工会議所、NPO 団体、自治会、企業、学校など、地域に係わる人や組織とのコミュニケーション、ヒアリングや会議をとおして、まちづくりや地域活性化に対する社会の仕組みやアプローチの仕方について実践をとおして学ぶことができる。


・まちづくり、地域イベント、産業振興、地域医療などへ直接的に関与することによって、現代社会が抱える様々な課題に対する問題意識を醸成することができる。その上で、課題分析、課題解決方法の検討、地域住民への提案という一連のプロセスを遂行するために求められるスキルを幅広く身につけることができる。


・小学校の総合学習や中・高等学校の専門授業とタイアップした「小・中・高大連携」による教育現場への参加をとおして、環境、資源、エネルギーなどの地域課題に対する大学の役割について、実際に即して学習することができる。又、少子化社会へ移行する中で、次代を担う世代への眼差しを教育現場を体験することから自らのものとすることができる。


・“スチューデントファーム「近江楽座」”報告会の開催、刊行物の作成、活動報告書の作成、ホームページの制作、ビデオ画像の収録等を通して、地域情報の記録保存、計画提案のプレゼンテーション、報告書作成など、実社会で求められる基本的スキルを修得することができる。


・教員指導に加えて、RA 、TA を積極的に活用することにより、大学院及び学部生の交流が促進され、大学の活性化が図られる。


・現代GPプロジェクトへの参画、実践をとおして、学部の枠を超えた様々な学問分野への関心が高まるとともに、専門に対する自覚を促し勉学意欲の向上に結びつく。それによって、自ら学び、考え、行動する能力が養成され、本学が目指す「ひとが育つ大学」づくりの実現に寄与する。

6 今後の展開:ポスト現代GP

(1)現代GPの成果とその評価

現代GPプログラムは、学長の指導のもとに、環境科学部、工学部、人間文化学部、人間看護学部の4 学部から、学生の地域活動と関わってきた教員によって組織した現代GP推進会議が、企画、運営してきた。この間、“スチューデントファーム「近江楽座」”プロジェクトの指導をとおして、地域連携及び学生教育に対して学部を越えた教員間の連携が図られ、大学教育現場の活性化という成果を生んだ。また、大学と地域連携に係る窓口業務及びメディア対応、ホームページの開設による情報発信など、交流センター及び事務局(交流センター、総務課)の協力によるところも大きい。

平成18 年度に向けて独立法人化を目指す本学では、第3者評価にたえる自己評価の導入に取り組んでいるが、自己点検・自己評価の目的は、大学のクオリティ・アシュアランス(質の保証と向上)であると同時にこれからの時代は、クオリティー・スタンダードとして地域の評価という視点が重要となる。本学の現代GP“スチューデントファーム「近江楽座」- まち・むら・くらしふれあい工舎”に選定した地域プロジェクトにおいても、自己評価や第3者評価など専門家による評価とあわせて地域社会の評価を加味した上で、PDCAサイクルマネジメントシステムによる計画(plan)、実行(do)、評価(check)、改善(act)の導入など、教育的見地から段階毎に評価し、学生主体の地域活動のスパイラルアップを図っていく考えである。

(2)ポスト現代GP

文部科学省の教育改革補助金による本学の現代GPプログラムは、平成18 年度で終了する。大学の地域貢献に対する期待は、分権化社会の到来によってその重要性は増していく。地域貢献の重要性については、曽我直弘学長が、公立大学協会に提出した「地域貢献における先進的事例」レポート(* 4)の中で、平成16 年度公立大学協会地域貢献推進特別委員会の報告書「公立大学と地域貢献―地域のニーズに的確に応える公立大学の地域貢献―」のデータから、“行政が求める大学の地域貢献として、(1)地域のシンクタンクとしての役割、(2)地域政策や地域づくりに関する積極的な提言、(3)地域産業の活性化・発展への貢献、(4)学生による地域の活性化への貢献の順序となっており、企業ではこれらの項目の順位が(3)、(1)、(4)となり(2)に代わって「職業人、社会人の再教育」と「地域の高校生の進学機会提供」が入り、市民では(1)(2)(3)の順位は変わらず、その次が「地域の高校生の進学機会提供」、「職業人、社会人の再教育」となっている”と紹介している。その上で、本学の地域貢献について、“スチューデントファーム「近江楽座」”による「学生による地域の活性化」に対して評価する一方で、“大学全体としての「地域のシンクタンクとしての役割」と「地域政策や地域づくりに関する積極的な提言」については、まだ十分とはいえない状況にある”と述べている。

大学は、地域社会との係わりにおいて、「知」の中核となる使命を負っている。「地域活性化」をテーマとする本プログラムの取り組みは、大学と地域の双方向交流を実現する効果を発揮する。つまり、大学の「知」のリソースと地域のニーズがひとつのものとなり、地域の経済、生活、文化、福祉、環境、NPO 活動を活性化し、望ましい方向に導いていく。その実績が、地域の中で評価されることによって、次なる地域連携の展開が見えて来る。

〈出典及び参考文献〉

  1. 文部科学時報:「焦点」文教・科学技術施策No. 1554、平成17 年9 月、ぎょうせい
  2. 文部科学時報:「焦点」文教・科学技術施策No. 1555、平成17 年10 月、ぎょうせい
  3. 滋賀県立大学現代GPリーフレット2005
  4. 「地域貢献における先進的事例」:曽我直弘、地域貢献推進特別委員会、平成17 年11 月、公立大学協会