連関する風景 -生活空間と地域環境-

轟慎一

環境計画学科

環境・建築デザイン専攻



1.私の地域学・環境学

 私は、都市・農村・自然地域を対象とした、環境計画学、地域計画学、景観計画学、都市・農村計画学を専門としています。現在は主に、生活環境史や地域景観論などの観点から研究をしており、将来的には、地域学、環境学を構築してゆければと考えています。私が、「地域」や「環境」の研究をすすめる上で、注視している点が2つあります。1つは、"時間・空間・人間"です。「地域」という空間を器として、人間が、どのような時間のながれ(歴史)のなかで、生活を展開してきたのか。"人間"と"空間"の相互のかかわりを、その形成の過程としての"時間"を介しながら捉えていくというものです。もう1つは、"連関"です。「環境学」は言うなれば「関係学」であるといえます。主体・環境系として「地域」をひとつの生態的な系として捉えたとき、その環境を構成する要素と要素がどのように"連関"しているのか。空間や自然的環境などフィジカルな側面と共に、人間生活・地域社会など歴史的・文化的観点を包含して、地域におけるこれら環境の連関構造を把握していくというものです。私が、今まで研究してきたテーマ、これから研究してゆきたいテーマについて、幾つかご紹介したいと思います。

2.集落における環境連関構造の研究

 農村地域の主に集落空間における計画論構築の為の一つのアプローチとして集落空間の構造的把握をはかるため、変貌をとげる農村地域の集落景観に対し、歴史的変容過程を通してその環境構造を明らかにすることを目的としている。本研究では、集落の景観要素の変容過程における変化の要因・影響を基に、集落景観を取り巻く環境構成要素の連関構造について解明をはかっている。地域景観変容を空中写真分析等で捉えると共に、フィールドサーベイでは各住戸におけるヒアリング等により、生活内容・就業形態等も含め環境構成要素間の関係を捉えている。研究の方法としては、おおよそ次の(1)〜(4)からなる。

 (1)農村集落の景観変容の分析: 研究対象とする農村集落における、概ね戦後の農村空間(集落空間)要素(宅地内空間・宅地境界空間・道路・水路・田畑・山林など)の経年変化について、空中写真(終戦直後〜現在)・迅速測図・地形図・旧公図・公図・住宅地図等ならびに現地踏査をもとに把握する。本研究においては、集落の主に各住戸における宅地空間(建築物・オープンスペース・宅地境界空間)の変化過程を中心として環境連関構造を考察していく為、特にこれら宅地の空間要素については、各住戸ごと変化過程の詳細を図面におこしておく。

 (2)農村集落の変化概況の検討: 上記の分析に平行して、対象集落における生活・生業・空間等の変化の概要について、生活誌・市町村史・広報等の文献・記録や、統計等も含めた資料、既往整備等の調査・計画の報告書、公的機関等(役場・土地改良区・団体組織・図書館・博物館など)へのヒアリング、集落におけるプレヒアリング等により把握する。

 (3)住戸における変化過程と要素連関の調査: (1)(2)をベースとして、集落の各住戸に入り込み、各宅地空間の変化とその要因・影響における、宅地空間(建築物・にわ・囲い)の要素相互の連関や、道路・水路・田畑・山林など宅地外空間との連関、生活・生業など社会的要素との連関などについて、戦後の時間的経過に即しながらヒアリング調査を行う。生業では、農業は勿論のこと、農閑期に行っていた仕事や兼業、つとめ・自営業なども含む。生活者(そして且つ生産者)の語りを通じて"生活世界からみた環境"を捉えてゆく。

 (4)環境連関図の作成と環境連関構造の把握: 以上の調査をもとに、各住戸ごと、宅地空間変化の要因・影響を基点とする環境連関変化を図表としてとりまとめる(環境連関図の作成)。更に、各住戸毎にできた環境連関図を、階層的特性などを踏まえ集落全体としてモデル化する。これら分析に(1)(2)を重ね合わせ、当該地区における農村集落の環境連関構造について歴史的変遷過程のもと捉えると共に、集落を取り巻く環境構成要素の相互連関を把握するものとする。

 これまでの研究では、中山間農村地域の塊村集落(栃木県岩舟町新里地区)を対象とした事例研究において、集落空間における環境連関変化の空間的・社会的階層構造の検討等をはかっている。現在、平場農村地域の列村集落(千葉県佐原市新島地区)におけるケーススタディなどの研究を進めている。

 今後は、集落・農村地域の環境構造を、更に総合的に捉えていくため自然環境評価や社会経済などを重ね合わせていくことが必要と思われる(他分野の専門家との共同において)。また、研究対象についても、"町並み"や"都市"あるいは"自然地域"など様々な地域景観において環境構造の把握を試みたいと考えている。

3.まちづくり・むらづくりの展開に関する研究

 自治体など地域における環境づくり・景観づくり等において、その形成がどのように展開していったのかという観点から研究をすすめている。

 (1)景観づくりにかかる自治体施策の研究: 我国の自治体における、景観づくりにかかる施策の実態を把握すると共に、その成果や生じてくる問題などを捉えることを通し、自治体における景観施策の在り方についての知見を得ることを目的としている。そこで、はじめに自治体の景観施策の全体像を明らかにする為、我国における自治体景観行政について「景観施策の歴史的動向」「景観施策の行政的対応」「施策展開の広がり」等を把握した上で、施策のタイプ別に自治体を区分し、それぞれのタイプ別にかかえる成果・課題について検討した。本研究の調査は、751市町村に対するアンケート調査で得た1075施策に対し分析を行い、関連資料・ヒアリング等と共に検討をはかった。その結果、「景観施策の特性と相互関係」において、自治体の景観施策は幾つかに群化され、種々の群はそれぞれ異なる形で、成果・課題や、施策の広がり・相互関係等の施策展開の状況などに特徴を示した。

 (2)まちづくりの展開過程における主体の連関: 地域の環境づくり・景観づくり等に係る様々な取り組みの歴史的展開とその過程における主体の連関について検討をはかるため、地域景観を主とするまちづくりの先駆的自治体である山形県金山町において事例研究を行った。まずはじめに自治体の景観施策展開の歴史的変遷について把握すると共に、これらを各種の地域空間ごとに系統的分類をはかり、地域景観の形成過程と施策実態の連関について検討した。「主体」のまちづくりへの関わり方については、行政(役場企画・土木・産業関係諸課、教育委員会・公民館他)、地場産業(農業、林業、建設・商工業他)、住民(団体組織、地区会・協議会他)等へのヒアリングほかフィールドワークによる調査をはかった。

4.居住環境における生活と空間の関係についての研究

5.地域における子どもの生活環境に関する研究

6.地域空間における計画技術の応用

等々、今後のことも含め更に書き連ねたいところですが、スペースの都合またの機会と致します。