ランドスケープをデザインする

三 谷 徹

環境計画学科

環境・建築デザイン専攻



1.ランドスケープの世界

 ランドスケープは一般に、風景、景観と訳されます。しかし目に見える景色の裏にある空間の構造を把握し、さらに、そうした空間を現した土地の力を読みとること、それがランドスケープの世界です。人間の知恵だけに頼って空間をつくろうとするのでなく、水の流れを読み、風の行方をたずね、土地の起伏に呼応して空間をつくるのです。

 どうしてそこにそのような空間があるのか。その力学は、人間と環境の「干渉現象」にあるといえます。人が米を生産しようと田をつくる。すると土地の起伏に応じて棚田ができます。その結果、地形という特性はひとつの特種解として、いくつもの水面が重なり合う美しいランドスケープとなって現われてきます。

 ランドスケープをデザインするとは、ですから人間の手によって自然の特性を「あぶり出す」、というおもしろさがあります。そうした自然との対話の中から人間の創造力を問い直すのです。

2.ランドスケープの中の「かたち」たち

 このようなデザイン行為のあり方を考察し、その方法を追求してゆくこと、ただ景色をお化粧するのではない風景づくり、それがランドスケープ・デザインです。

 研究分野では、したがって、屋外空間の設計に用いられる様々な「かたち」―自然のかたちから人工のかたちまで―の意味を問直すことが中心となります。

 風景の中の植物群落のかたちや河川のかたち、これらは自然の姿であるともいえますが、同時に、森林保全や治水工学、すなわち人間の働きかけのあり方でもあります。逆に都市のかたち、たとえば街割りなどは、人が設定したようなかたちでありながら、実はその土地の自然が持つ潜在力を利用したかたちであることがよくあります。時にはそうした思考を深めるため、ランドアートや、古代の神秘的な地上絵を訪ねます。

 特に我々は、近代技術がつくり出したシステムの中に生きています。近代思想はどのような眼鏡で自然を見返したか、新しいテクノロジーは、どのように自然に働きかけ、どのような姿に自然を「あぶり出す」力を持っているのか、そんな視点が、研究分野になります。

3.ランドスケープ・アーキテクトとしての社会貢献

 このような研究を積み重ねながら、最終的にはランドスケープ・アーキテクト―つくる人―として社会貢献することが目標です。

 ランドアートの作家の一人ロバート・スミッソンは、〈自然と人間の間にフィジカルな弁証法を打ち立てる〉人がランドスケープ・アーキテクトであると著しました。すなわち風景や自然に対してどれだけ多くの知識があっても、その風景そのものを現実のものとしてつくる能力がなければ、社会へは貢献できません。

 ですから大学では、研究も教育もすべて、現実の環境に対して具体的な手による作業―設計提案―を中心として行われます。

 たとえばここに紹介したプロジェクト〈品川千本桜〉は、東京品川駅の操車場跡地再開発の一部です。現実には、高層ビル群の中を貫く400mのプロムナード(歩行者空間)の設計ですが、その設計を通して、都市の中における緑化の意味を問直すことが主眼です。

 我々設計チームは、まず第1に新たに出現する巨大冷蔵庫(高層ビル群)に対抗できるスケールの樹木の集積体をつくろうと考えました。第2は、ここが新しい都市の名所となることです。品川は、今でこそオフィス街ですが、江戸から明治にかけては桜の名所だったのです。プロムナードは地下から隆起したように持ち上がり、平板な都市風景の中に人工の地形をつくり出します。桜の群生が都市を貫き、季節ごとに姿を変え、早春には花見の名所となります。古さと現代が出会い、自然の息吹と都市生活が重なり合う、そんな場所の創出が目論まれています。

 このように、プロジェクトを通して社会へ働きかけ、人間と自然の関係を考えてゆく人間、ランドスケープ・アーキテクトとして自らを鍛えること、そして数多くのランドスケープ・アーキテクトを育て社会にひとつの視点を与えてゆくこと、それが目的です。


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