グローカルということ −地球環境問題と私−

林 昭 男

環境計画学科

環境・建築デザイン専攻


 地球環境問題と関わるとき、Think Globally, Act Locally(地球規模で考え、身近に行動する)は行動原則として重要なものです。このことは、地球環境問題に国境はなく、地球全体の仕組みのなかでその原因と影響を把え、解決に当っては自らの生活の場を通して、地道な活動を続けることが大切だという意味だと理解します。

 ところで、私の関係する建築家の職能団体である「国際建築家連合」(International Union of Architects)では、1999年の第20回大会(北京)のテーマを「建築の未来」としています。すでにその準備のための会合が東京とバルセロナで開かれましたが、このテーマに関連するキーワードとして"グローカル(Glocal)"という概念があります。グローカルとは、単的にいえば、GlobalかつLocalという意味の造語なのでしょうが、地球環境問題の構図をとらえる概念として的確な表現だと思います。地球環境問題は、いくつもの要因が相互に作用しあってひき起こされているとはいえ、常に全体像にせまる必要があります。そして、その中で自分の位置を見定めながら行動を継続することによって、解決の道が開かれるのだと思います。グローカルな物の見方は、Think globally, Act locallyという行動原則の前提として欠かせぬ認識の方法ではないかと思います。

 グローカルな視点から考えることが、地球環境問題と取り組む場合、不可欠なことです。その最も分かりやすい構図の一つとして、私は熱帯林の破壊とコンパネ(コンクリート工事に使われる型枠)との関係をみるのです。コンパネのほとんどが熱帯木材で作られていることは衆知のことであり、スクラップ・アンド・ビルドを繰り返す日本の建築事情は、その浪費に拍車をかけています。日本は、フィリピン・インドネシア・マレーシアなどから大量の木材を輸入してきました。それらのほとんどは合板に加工され、輸入された熱帯材の20%が鉄筋コンクリート建築などの型枠として使用されています。その他の合板も、床・壁・天井などの内装材や下地材として多用されています。建築上の問題として最も大きなことは、型枠として使われる合板が2〜3回の使用で廃棄されることです。このような熱帯材の大量使用が、熱帯林の商業的な大規模な伐採をうながし、地球の肺ともいわれる熱帯林を地球上から消滅させる一因となっているのです。さらにこのことは熱帯林を成立させている仕組み(生態系)を破壊し、森とともに生きる先住民族の生活権を奪うという辛酷な事態をも招いています。建築の現場で、誰もが馴染んでいる合板型枠の背後に地球環境問題が潜んでいることに気づいたのは、まだ数年前のことです。

 日本が熱帯木材の世界最大の輸入国だということに注目しなくてはなりません。1986年の統計ですが、日本は1,570万・の熱帯木材を輸入しています。これは世界の貿易の25%にあたり、米国の輸入量を上回ってEC全体の輸入量に匹敵します。

 さらに、日本は熱帯木材製品の殆どを東南アジアから輸入しています。1987年、熱帯広葉樹材輸入の96%はわずか3つの地域から来ています。それらは、マレーシアのサラワク州・サバ州、そしてパプア・ニューギニアでした。1960年〜1970年代はフィリピンとインドネシアが日本向け熱帯材の供給国でしたが、すでに伐採し尽くしたといわれています。

 大量生産、大量消費(廃棄)のライフスタイルが熱帯林の破壊を進め、森を生活の場とする先住民の生活権を奪っているということを認識している人は、意外と少ないようです。熱帯林が稀にみる多様な生物種の宝庫であることは知っていても、そこに依存して生活している人々のことまでは、私たち日本人の認識が至っていません。熱帯林の減少によって生態系が破壊され、先住民の生活不安など、厳しい影響を受けている事実があるわけです。グローカルとは、他者のことを自らの地域で考え、行動することを意味しているのだと思います。

 1990年代のはじめ頃から、私は建築家やその関係者に向かって"コンパネ問題"について話す機会を多くもちました。それは、"建築にかかわる私たちに何ができるだろうか"という問いに応えるためでもありました。その都度、私はこれまで東南アジアの熱帯雨林の破壊に日本がどのように関与しているかを述べ、森林の消滅が自然の生態系を乱し、そこに生活する人々の生活権をも奪っているという重大な事実を強調してきました。そして、その根底には日本の消費文化の質が深くかかわっており、"コンパネ問題"はその象徴であるということです。今では、ようやく東京・大阪などをはじめとするいくつかの自治体や建築業協会などがこの問題をとりあげています。具体的には、

 a.反復使用回数の増加をはかる。

 b.型枠合板の樹種変換をはかる。

 c.合板以外の型枠の使用拡大をはかる。

 d.現場で型枠を用いない工法に転換する。

などの方法によって改善がはかられています。

 私たちは、建築の現場で無意識に使っているコンパネのなかにも、地球環境問題の複雑な仕組みが潜んでいることを意識して仕事に取り組まねばならないということです。


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商業的伐採の現場(サラワク州)


伐採に反対する先住民の人びと(サラワク州)


コンクリート型枠として多用されている熱帯材


熱帯材を使わない構法への転換をはかる


 写真提供:サラワクキャンペーン委員会