環境生態学科の教育と期待される成果

安野正之

環境生態学科長

 環境科学の中心的な理念として生態系をはずすことは出来ない。本来自然環境は生物相互の関係、及び生物と環境との調和のとれたシステムである。この自然環境の維持の仕組みに歪みを引き起こしているのは人間であるが、自然環境の維持機構について十分に理解するにはほど遠い。それにもかかわらず、人間の活動増大を更に推進するために、環境を維持しながら発展しようというスローガンが広く使われている。自然生態系に学ぶとすれば、自然からの収奪だけでなく還元することをもっと積極的におこなっていかねばならない。自然における物質の循環を考えると、生態系構造の中で物質の配分と流れの調和が必要である。しかもそれぞれの速度に律されている。このバランスが崩れると、異常事態に至ってしまう。生態系内の生物相互作用あるいは生物と環境との相互作用についてはごく一部しか分かっていない。一部の相互作用系が変化すると、その影響は生態系全体に波及することがある。一方その影響を吸収して系としてはホメオスタシスとして恒常性を保持する機能をそなえている。いまや人間活動と自然環境を切離すことも難しいところに来ていて、地域の、そして地球の自然生態系の恒常性維持機構の限度を越える段階にきている。環境生態学科では以上の問題をふまえ、自然環境の維持の仕組み、人間活動の影響による生態系内の環境調節能力とその限界について研究、教育を行う。


 環境生態学科の教育目標は広くは地球生態系として生命のある星について認識を持たせ、地球環境で何が起きているのか? 20世紀の終盤に急速に始まった地球上の人間活動の増大とそれに反比例しての生物種の消失を引き起こしている変化は生物の一種としての人への脅威でもあることを知らしめる。そのような地球規模における問題と身近な環境との繋がりをとらえることが出来る教育をする。そのために基礎的な知識についてそれぞれ実験、実習を通して習得させたうえで、現地調査を通じて、現実の環境を観測し、評価し、環境保全、環境改善等の計画できる人材を育てることを目指している。


 環境生態学科は研究対象とする自然環境によって分けられ、三つの大講座、すなわち陸圏、水圏、地球圏からなっている。


 陸圏環境講座では森林、草原、農地、都市等における環境の変化、及びその影響を研究調査する。森林生態系としてモンスーンアジアの森林から熱帯林まで研究地域の広がりがありそれぞれの特性を解明する。都市環境についてはその特性を明らかにし、景観および緑地の効用を量的に把握する。それには植生あるいは植物社会学的手法を活用する。都市域あるいは農地からの陸水への負荷量の測定、水質汚染等の実体把握は陸圏生態系、水圏生態系の両系において、環境管理の重要性認識させるはずである。


 水圏環境講座は陸水としての湖沼、河川、湿原の環境についての研究、教育に加えて、海洋環境の調査、研究を行っている。特に水圏における生物を通して物質循環の過程を把握しようとしている。また環境汚染が水圏生態系にどのような影響を与えているのか、さらに汚染物質の生態系影響を評価する手法の開発を行っている。富栄養化の原因としての窒素、燐の負荷の増大に加え金属類の存在も特定の種類の藻類の水の華形成に関係していることも検討している。水の華形成藻類の特性についての研究はその制御の可能性を示唆すると考えられる。


 地球環境講座は大気圏、岩石圏、生物圏を扱い、気象変動に関係する要因あるいはその逆に気象変動が引き起こす現象の研究を行っている。地球の温暖化は氷河や極地域の永久凍土の融解も進行する可能性がある。その影響も多岐に渡ると考えられ、研究対象として多くの課題を抱えている。特に水およびエネルギー循環についての国外、国内にフィールドを選び研究を進めている。



 湖沼環境研究施設が設置され、調査船による定点観測、また実習を行うことが出来る。実験用あるいは実習用の生物を飼育する施設も併設される。生きた材料、あるいは琵琶湖という現場における教育は実社会に役立つ人材を育成することが可能である。


 滋賀県北部に集水域実験施設を持ち、演習林における森林の組成や更新の機構解析、生産性の測定、保水力等の調査研究、森林の状態と水質、さらに森林に棲む動物について、など多様な調査研究の手法を取得することが出来る。また琵琶湖の集水域でもあるので琵琶湖の環境に関係する気象(積雪量、降水量)の研究調査活動も行われる。



 環境生態学科はさまざまな環境問題の専門家から成っているが、これら共通の実験施設を利用するにさいしても、特定地域の環境問題を取り上げるにしてもこの専門家群の異なった観点に基づく新たな展開を可能とし、環境評価、環境保全を総合的に取り扱う専門家を育てることができる。


 環境生態学科のカリキュラムは下図に示される。ここに含まれていないが、基礎科目として、物理学、化学、生物学、地学、およびそれぞれの実習、環境数理、環境統計学等を受講する。特に後者はデータ処理、モデルの開発あるいは理解に役立つはずである。


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琵琶湖(北湖)におけるピコプランクトンの光合成測定

熱帯林における林内照度測定


東シベリアのタイガ(カラマツ林)での林床の気象観測